【完結（続編）ほかに相手がいるのに】

～拓海～

女優

静かな室内で…
ついでに、智花が黙りこんでいるものだから…つい、自分の中だけの思考に陥っていた…。

智花が、こちらをジッと見つめていることに気付く…。

「あっ…すみません…とにかくそういうこと…そういうこと、らしいですよ…二人だけで、泊まりで出張」

「…　　正直、そのことは、知りませんでした…。　」

意外に素直だな…
てっきり、智花は強がったように、その件について知っていたふりをするのではないかと思っていた。

「ですよね…でも普通に、俺も知らなかったんで。俺も葉月んちのドアの前であいつに電話して…そん時いきなり聞かされたもんで…マジで寝耳に水、状態で…てか、やっぱふざけてますよね…思い出しても苛ついてきます…俺、外で時間潰すの結構大変だったんですよ…そんなん、事前に言っとけよっていう…　　」

「…　そう、ね…　話してくれても、良かった…　よね　…　」

再び、黙り込む智花…　

「…　でしょ？…　」

といいつつ…俺はその後…智花に対して何といえば良いのかわからなくなった…。

思ったよりも…ショックを受けているような気がする…。

やはり、話すべきではなかっただろうかとも思いつつ、俺が更に言葉を重ねようとした瞬間

ジャーー　　

　　　　　バタン…　　　

　　　　　　　　水音と、ドアの音…

ああ…　この会談は…　
この密談は…　ここで、終了だ…。

つい、俺ばかり話をしてしまったが…
もう少し、彼女の話を…杉崎の最近の様子について、もっと色々聞きたかった…。
　
「あ～～な～に内緒の話、コソコソしてんの～」
俺たち二人を交互に見つめて、にやりと笑う瑠衣。

「瑠衣…おまえ、腹は…大丈夫…？」

「やだ～レディに何、直球で聞いてんのよう～大丈夫大丈夫。さて…何の話してたの？教えて教えて～」

「…　や、別に…　」

「別にじゃないよう…初対面！密室！！で、男女2人きり…！！どんな話してたか、普通に気になる～～瑠衣のあれこれ、秘密の話…話したりしてないよね～二人とも…！」

初対面…　

そうだった…

俺と智花は今日が初対面。

本当はそうではないことを今この場で瑠衣に話すのはリスクしかない…
説明も何もかも…
色々なことが…何もかもが、面倒くさくなりそうだ…。

俺は気付いたかのように、智花との距離を意識しながらこう答えていた。
「別に…単なる雑談、ですよね…？」

「そう…単なる世間話だよ…？」
ふふと、智花が笑うその表情は、さすがというべきか…まさに、役を演じ切る女優だ…。

それはそれとして、見事に…瑠衣の話は全くしなかったな…　

そう思って、俺もつられたように笑った。