【完結 R18】ほかに相手がいるのに

〜お互いの日常〜

兄

杉崎さんは職場の廊下での立ち話が多い。

というより、廊下で彼とばったり出くわした若い女性が、雑談や相談を持ち掛けることがよくあるみたいだ。

私がお手洗いから部屋へ戻る途中、杉崎さんとすれ違ったが、彼はまた、廊下で女性につかまっていた。

最近杉崎さんの周りでよく見る２０代ちょっとの女性だ…確か、そう、人事部の細野さん…だ。
今日はピンクのカーディガンに波打つフレアスカート。耳には華奢なイヤリングがゆらゆらと揺れている。
いわゆる、女性らしさの代表のようなファッションと見た目。

「杉崎さん！もう～聞いてくださいよ…うちの係長がまた…」
細野さんが杉崎さんをキラキラした目で見上げて、廊下で職場の上司の愚痴…に近い相談を始める。

「うんうん、そっかー。それは大変だね…」杉崎さんが笑顔で相談に応じているのを見ながら、私は部屋へ戻る。

細野さんの気持ちがわかる気がする…
私からみても年齢が一回りも違うせいか、杉崎さんは本当に大人で…なんというか、色々悩みを聞いて欲しくなる…なんでも相談したくなる…

相談するとちゃんと親身に聞いてくれるし、いつも明るくて前向きな助言で笑わせてくれる。

しかもあの容姿…年齢が多少上であっても、女性が放っておくはずがない…
きっと遠方にいる林さんも、他の女性に狙われないか気が気ではないだろう。

私もいつしか…杉崎さんとの食事や会話に…緊張や抵抗感なく、心から楽しみを覚えるようになった。

私のこの感情は、一体なんだろう…
姉しかいない私だが…妹が兄を慕うような気持ちがこんなものなのだろうか…
ひょっとしたら、それに近いのかもしれない。
この時私はまだ、杉崎さんのことを、そんな風に分析していた。

まさか…拓海がいるにも関わらず、
私自身が彼のことを、段々と好きになっていくなんて、想像もしていなかったのだ。