【完結 R18】ほかに相手がいるのに

～余韻～

挨拶

「おはよう、水無月さん。」

「おはようございます、杉崎さん…」

朝食会場で、私たちはあらためて互いに挨拶を交わす。

昨夜、疲れてそのまま杉崎さんのベッドで寝てしまった私は、
今朝、まだかなり早い時間に目を覚まし…少し迷いはしたものの杉崎さんを起こすことなく、静かに部屋に戻っていた。完全に、お互いに睡眠不足なのはわかっていたし…スヤスヤと寝息を立てている杉崎さんをわざわざ起こすのも気が引けたからだ…

「失礼します」
私は静かにそう、杉崎さんに声をかけ…ゆっくりと朝食会場の椅子に腰かける…。

「朝…不覚にも、気付かなかったな…君が起きたのも、部屋を出たのも全然…わかんなかった」

杉崎さんが、私を見て、ふわりと微笑む…。

「こっそり、抜け出たので…起こさずに済んで良かったです…」
思わず、視線を逸らす…

杉崎さんの顔をまともに見ただけで…
昨夜のことを…思い出しそうになる自分が、いやらしいと思った…。

あなたの寝顔が…ものすごく綺麗で、可愛くて…頬にキスをしたくなりました…
それももちろん、言わずにおいた…。

「さ…朝食ビュッフェ。和食も洋食もあるみたいだから、食べようか…今日は仕事で行くとこもないから本当にお役御免…ゆっくり、時間をかけて食べられるよ」
そう言って微笑むその顔が、あまりに眩し過ぎる…。

なんで杉崎さんは…昨夜、あんなことがあったのに…
こんなにも平然と…普通に、笑えるのだろうか…　

やはり、大人なのだ…　　　

私よりも、経験があるからこそ…こんな状況に慣れているの…？

ズキンと、小さく胸が痛みそうになるが、なんとか気持ちを紛らわす…。

ともすれば、昨夜のことを…
あの、後ろから攻めたてられた、激しい…セックスを…
ドキドキしながら思い出しそうになる私とは、大違いだ…

「はい…　では…　」私は立ち上がる。

すぐに、席を離れられるビュッフェ形式であることに、なぜだかホッとする。

杉崎さんと正面で顔を突き合わせて…普通のレストランのように、ただ、料理が来るのを待つのは今日に限っては、なんだかとても、気恥ずかしい気がした…。

「わ…普通のビジネスだから期待してなかったけど、結構、内容が充実してるね…　」

杉崎さんが、お皿に料理を少しずつ取り分けながら、周りに聞こえないような声のトーンで、私の耳元で囁くその声にすら、ドキリとしてしまう…。

「…そう、ですね…すごく美味しそう…」

私は、杉崎さんが近付いただけで、高鳴りそうになる胸の鼓動を抑えつつ、なんとか普通を装いながら、何気なく、サラダのトングに手を伸ばした…。