崖っぷち動物園

海星

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 群馬の動物園でも異世界のモンスターを捕獲しようとしたらしい。

 欲をかいてバハムートを捕まえて集客の目玉にしようとしたが、バハムートが暴れて火を吹いたという。

 まあ埼玉県が消し炭となり消えただけで笑い話ですんだのだが、もう少しで東京に被害があったところで危うく大惨事であった。

 このようにモンスター捕獲には細心の注意が必要だ。

 更に捕獲した後が大事だ。

 捕まえたモンスターを飼い慣らさなくてはいけないのだ。

 飼い慣らしたモンスターは檻に入れる必要がない。

 飼い慣らしたモンスターは主人の命令に絶対服従をする。

 だが強いモンスターを飼い慣らす方法はほとんどない。

 モンスターを従わせるためには力の差をみせつけるしかない。

 力の差があればモンスターは仲間になる。

 だが、力がなくとも強いモンスターを仲間にする方法もある。

 それがモンスターテイマー、ビーストテイマーがモンスターを捕獲する事だ。

 モンスターテイマーとビーストテイマーの違いはどうやら仲間に出来るモンスターの違いのようだ。

 ビーストテイマーは狼や熊などの動物型のモンスターを仲間にするらしい。

 トカゲなどもビーストテイマーの管轄なのでドラゴンやバハムートなどを仲間に出来るらしい。

 モンスターテイマーはそれ以外のあらゆるモンスターを仲間に出来るらしい。

 そして道化師は佐賀県民を仲間に出来るらしい。

 佐賀県民はなぜかモンスターとしてのくくりであるらしい。

 だが佐賀県民は動物園で展示しない。

 「これが佐賀県民の家族団らんだ」などと居間風の檻で佐賀県民の家族を展示しても見る方も見られる方も気まずい。





 「とりあえず捕まえるモンスターの傾向を決めなくちゃね」しじみが言う。

 「可愛いモンスターで女性客を狙うのか、カッコいいモンスターで子供客を狙うのか?レアなモンスターでマニアを狙うのか・・・全部飼えるほど崖っぷち動物園の経済状況は良くありません」経理の阿部さんが言う、夢も希望もない話だ。

 「そのどれも狙わない。

 俺達が捕獲を狙うモンスターは・・・。

 『見た目がエッチでセクシーで萌えるモンスター』だ!」俺は高らかに宣言した。

 女性陣が「うわぁ・・・」と言いながらこちらを見ている。

 そんな汚い物をみるような目で俺を見ないで欲しい。

 背に腹は代えられないのだ。

 失敗はもう許されないのだ。

 エッチなモンスターを見に男だったら必ず来る。

    それにヲタクは必ず来る。

    ヲタクは「三次元に興味がない」らしい。

    だが、何故か異世界は2.5次元で食指は動くらしい。

    ヲタクの経済力をバカにしてはいけない。

 これはエクスカリバー約束された勝利の選択肢なのだ。

 俺だってカッコいいモンスターや可愛いモンスターを展示したくない訳じゃない。

 だけど、女子供を呼べるような物、元からは何もないじゃん。

    女子供を狙うならお金をかけて路線転向しなくてはいけない。

 マスコットキャラクターや着ぐるみすらも、まともな物はないじゃん。

 だから俺を汚物を見るような目で見るな、これは園長命令だ。





 こうしてモンスター捕獲の方向性が決まった。










 話は二年前に唐突に遡る。

 俺は地元の高校を卒業し「とにかく一回は就職しよ」と地元の動物園に就職した。

 何か夢があった訳でも、動物園でやりたい事があったわけでもない。

 とりあえずいっぺんは就職しないと「俺は就職しないんだ。出来ない訳じゃない」と証明出来ない。






 俺は入社早々寝坊した。

 だが全く慌てない。

 「入社早々遅刻するようなヤツはクビだ」と言われれば会社を辞める手間がなくなる。

 だが遅れて会社に出社した俺にかけられた言葉は解雇通告ではなかった。

 「あ、おはよう!遅れて来た君の分もくじを引かせてもらったよ!」おばさんは言う。

 「くじ?一体何のくじ引きですか?」

    「『探さないでください』って机の上に書き残して失踪した園長の替りの園長を決めるくじ引きよ」おばさんは言った。

    「園長ってこんなテキトーな決め方なんですか?」俺はびっくりしておばさんに聞いた。

    「テキトーじゃないですよー!

    その証拠に来月定年する私はくじ引きに参加出来ません。

    かーっ!残念だなー!園長になりたかったなー!」おばさんは残念がるが全然残念そうじゃない。

    「そんなに皆さん園長になりたがってるなら俺、このくじ引き辞退します。

    だいたい辞退すべきでしょう。

    新入社員が園長なんておかしいじゃないですか。

    そもそもくじ引きで園長を決める事がおかしいですが」俺が言う。

    おかしい。

    俺の本能が「早くここから逃げろ!ここは沈没船だ!」と告げている。

    結局俺の辞退は通らなかった。

    「せっかくだからくじ引きに参加しようよ」というおばさんの謎のゴリ押しがあり俺はくじ引きに参加させられた。

    「現実はクソゲーだ」などと言うがこの現実もクソゲーなのかも知れない。

    そういえばクソゲーで「せっかくだから俺はこの赤い扉を選ぶぜ!」と言う名言があるが、ゲームでもおばさんの言う事でも、何が「せっかく」なのか全く理解不能だ。

    こうして、俺はくじ引きで園長になった。

    くじ引きが厳正で公平であったかは、遅刻した俺にはわからない。

    「不正はなかった」と他の全てのくじ引きの参加者が言ったら、不正はなかった事になるのが、多数決で全てが決まる資本主義社会なのだ。





    働き蟻のほとんどは働いていないらしい。

    働く蟻がいなくなるとしょうがなく働き蟻は働くという。





    俺は万年人手不足、万年自転車操業、万年赤字の動物園の園長になった。

    今まで怠け者だった俺は働かざるを得なくなった。

    しじみは「こんなに一生懸命働くお兄ちゃんを見たことがない」と俺が園長をやることを応援して毎日こんな見るものもない動物園に来る。

    唯一の来場者が年間パスを購入した者なので、その日その日で収入が一切ない事も珍しくない・・・というか、ほとんどがそんな日だ。


    あと年間パスの価格設定がおかしい。

    年間パスの値段が一日券の半額というのが意味不明だ。

    元々の価格が高いのであれば、それでも客が来ない理由もわかるが「一日券100円」「年間パス50円」しかも税込でワンコインだ。

「タダでも行きたくない」

   そう思わせない事が「崖っぷち動物園」には必要なのだ。
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