鋼鉄のアレ(仮題)

海星

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対決

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リサが俺のフォローに回る。
「コイツはこのゲームをさっき初めて触ったの。まだ操作説明をしていた段階で、ゲームをプレイした事すら一回もないの。ましてや対戦経験なんて一度もないの。コイツとなんて勝負にならないわよ。勝っても自慢にもならないし」
「私達は彼と『対戦しよう』と言っただけよ?別に対戦を強要した訳でもないし」モニター越しに不敵に笑う女の子達。
コイツら俺が「対戦しない」なんて言ったら「尻尾を巻いて逃げた」って言いふらす気だ。
別にこの時代で何を言われてもかまわない。もう少しこの時代に慣れてきたら、何か言われて腹を立てる事もあるかも知れないけど、今周囲に何か言われても正直、実感がないし自分が悪口を言われたとすら思わない、「だから何なの?」ってもんだ。
でも、リサは必死で俺をフォローしてくれた。
俺が公衆の面前で恥をかかないように、矢面に立ってくれた。この時代に「女が男の味方をする」なんて言うのは、周りに何て言われるかわからないはずだ。その危険を顧みず、リサは俺を庇ってくれた。
リサに俺をフォローする理由はない。俺の「一人ぼっちは寂しい」という一言を聞いて、この世界で俺が孤立しないように気を使ってくれているだけだ。
知ってるか?モテない男は少し女に優しくされるだけで、その女にホレるんだ。
ましてやリサみたいな可愛い女だったら尚更だ。
この世界はブサイクな女はほとんどいない。
女は優秀な遺伝子を選んで人工受精出来るんだから当たり前といえば当たり前だ。誰しもがイケメンで文武両道の遺伝子を残そうと思うだろう。誰しもがそう思ったからこそ人気の遺伝子に偏りが出て、近親交配が進み問題になったんだろう。
リサは「人工受精ではない」と言っていた。
リサは可愛いが、他の女の子は俺が元いた時代なら全員がモデルかグラビアアイドル以上の美しさだ。
俺がモテる男だったなら、きっとそちらにホレただろう。ただモテない男をなめないで欲しい。少し優しくされたらブサイク女にもホレる、ましてやリサみたいな可愛い女の子にホレない訳がない。
ここで男を見せなきゃ男が廃る。
対戦を受けなくてもどうせボロカスに言われるんだ。負けて元々だ、勝負を受けようじゃないか!
それに試したい事がある。操作が『仮想兵器シリーズ』に似ているなら『仮想兵器シリーズ』で使えた技術が使えるか?という事だ。
「この勝負受けようと思うんだけど、2VS2になるように、俺と組んで勝負に参加してくれない?」俺はリサに頼むと「イチローあんた何考えてるの!?アイツらアンタを笑いものにしようとして勝負を挑んできたんだよ!?」と心配そうにリサは俺に言って来た。
「勝負を避けても『逃げた』とか言って笑いものにする気なんだろうからダメ元で勝負を受けた方が良いよ。でもアイツらが俺を笑いものにしようとしてるのがわかってるなら話は早い、アイツらは俺を惨めに敗北させようと挟み撃ちしてくるだろう。だから一対一の構図を作れるように敵を一体引き受けて欲しいんだ。そうすれば勝てないまでも笑いものにはならないような良い勝負が出来ると思う」俺はリサに作戦を伝授した。

当たり前だがこれはゲームだし、ここは仮想現実世界だ。
仮想現実世界ではリミッターがかかっており相手を負傷させられないし、負傷する事もない。
仮想現実世界には自動車があり自動車事故もあり人身事故もあるが、車にひかれた人間は無傷だ。
ハッカーがリミッターを解除し仮想現実世界で色々な犯罪を犯しているが、基本的には仮想現実世界は負傷者の出ない安全設計だ。
当然この対戦ロボットゲーム、この時代では『イザナミ』と呼ばれているゲームでも負傷者は出ない。
ロボットの機体が大破し爆発するとロボットに乗っていたプレイヤーは控え室にワープする・・・という安全設計だ。なので負けた事で傷つくのは経歴と名誉だけだ。

そして対戦が始まった。
相手のロボットはバランス型のスタンダードなロボットと近距離戦闘に特化したトンファーを持ったロボットだ。
こちらは俺が『シデン』、リサが『アマテラス』だ。

相手の反応速度はさすがというしかない。
さすがに選りすぐられた遺伝子を組み合わされたエリートだ。
後で聞いた話だが、女性の100メートルの徒競走の記録が、俺が元々いた時代の男性の世界記録より早いらしい。
運動神経と反応速度では勝負にならない。
ではそういった身体能力の高い者に一泡ふかせるのは不可能なのか?答えは否だ。
身体能力の低い者、才能のない者にも戦い方はある。
それを『レアキャラを使ったわからん殺し』『バレたら終わり戦法』という。
「人より才能がないなら人の百倍努力しろ」などと言うがそれは嘘だ。百倍やって一回やって出来たヤツに追いついても、一回やって出来たヤツがハナクソほじりながら二回目をやってそれに負けてしまう・・・それが現実だ。
だいたい誰が「天才は努力しない」などと決めたのか?どうして才能のないものが追いつくのを天才が待っててくれると思うのか?
ハッキリ言って「努力の方向性が間違えている」のだ。
王道を行けなければ、覇道を行けば良い。それでも無理なら邪道だって何だって良い。
天才が強キャラを使うなら、凡才は天才が使わない『職人キャラ』を使うのだ。
天才と同じ強キャラを使ったって、天才には一勝も出来ない。
そしてその職人キャラを手足のように動かせるのはもちろん、とことん強キャラとの戦い方を『研究』するのだ。
そうする事で十回に三回くらい天才に勝てるようになるし、「ここ一番」という時の戦法を誰にも見せずに磨いておいて決戦の場でそれを披露する。そうする事で晴れ舞台で天才を倒せるのだ。

コイツらはまさか「自分がこの舞台で無様に負ける」なんて思ってない。
年季が違うんだよ、ゲームの才能があるヤツは「まさか自分が負ける」なんて思ってない。俺を見下してるヤツが悔しそうに俺の顔を確認しにくる、その瞬間のために必死でゲームの研究をしてきたんだ。俺は高笑いしたいのを堪えながら涼しい顔してゲームしてたんだ。

リサがバランス型のロボットを抑えてくれている。
トンファーを持ったロボットが俺の体力を削ってくる。最後のとどめで接近状態からの直接攻撃をするつもりなんだろうな。だがそのタイミングを狙っているのは俺もだ。
相手が俺に接近しようとした瞬間、名付けて『回り込みターボ接近』が発動し相手のロボットの背中側に瞬間的に移動した。
俺が接近した瞬間、相手は直接攻撃を繰り出したが、そこに俺はおらず背中側にいた。
「ダメだってば!誰の前で直接攻撃空振りしてんだよ?だから負けるんだよ!」
コレ相手に聞こえてたら相当性格悪いヤツだと思われるな・・・と思いながら、直接攻撃を空振って莫大な硬直を晒ている相手に、極太レーザーを打ち込み撃破した。
「う、嘘!?回り込み接近中はターボボタンは効かないはずじゃん!」
げ、これゲームしてる人が話してるのみんなに聞こえてるんじゃん。さっき俺が良い気持ちになって言ったセリフ相手に聞こえてたんじゃん、今更だけどちょっと良い人ぶろうかな?と思い相手に話しかけた。
「それが相手をロックオン中、ガードモーション中なら、状況限定だけどターボ使って回り込み出来るんだよね」
あとは2対1であり、なぶり殺し状態であった。

これが俺の『イザナミ』の初戦であった。
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