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大河はイチローを雑居ビルに案内した。
「こんな小さなビルの中に軍隊の本部はあるのか?」と思ったが、イチローがビルの入り口のオートロックの装置だと思っていた装置に少女が端末を翳すと、「軍部に移動します。飛び込んで下さい」という電子音声が流れた。
「街のそこいら中に軍部に飛び込める装置が置いてあるの。まぁ、この端末がないと飛び込めないんだけどね。この端末は身分証明書でもあるの。無くしたら大変な事になる、始末書じゃ済まないわね。それじゃあ行きましょうか?」
大河は言った、が、ちょっと待てよ!現実世界から仮想現実世界に飛び込む時の方法は学んだ、 ヘッドセットをつけてベッドで横になれば良い。
でも仮想現実世界からどこかに飛び込む時、どうすりゃ良いんだよ!?未経験の俺にも解りやすいように教えてくれよ。
まごまごするイチローに「本当に何にも知らないのね」と言いながら大河がイチローと手を繋いだ、 すると身体が瞬間移動するように軍部へ移動した。イチローは「『飛び込む』というより『ワープする』という感じだな」というようなどうでも良い感想を持った。
ワープした先では二人の女性が待っていた。
いや、軍部に行けば男に会えるんじゃなかったのかよ。ホモじゃねーぞ、違うけど女だらけの空間はどうも落ち着かない・・・。
イチローは「想像していた軍部と違う」とヘソを曲げながら周囲を見渡した。兵器の格納庫だろうか?大きな倉庫の中のような室内だ。照明はあるが一切の装飾はなく、壁はコンクリート打ちっぱなしだ。仮想現実世界の中なんだから装飾はないにしても壁に色を付けるくらい手間もないだろう。飾りっ気を無くす事で軍部の建物である、という風に演出してるのかな?ピンクの壁のファンシーな建物を「軍部の建物である」なんて言ってもしまらないもんなあ・・・などとくだらない事をイチローが考えていると大河がイチローに話しかけてきた。
「ようこそ日本が誇る自衛隊へ。あなたをここへ案内した理由は最初に説明したわね。あなたは自衛隊が注目していた二人にイザナミで勝利したの。圧勝と言ってもいいわ。あまり一般には知られていないけれどイザナミは軍事利用もされているの。だから、優れたゲーマー達を自衛隊にスカウトしているのよ。でもあなたに関するデータを自衛隊は全く持っていないのよ。だからあなたのパイロットとしての才能、適正をチェックさせて欲しいの」
未来の世界でも自衛隊ってあるんだ。
第三次大戦中、専守防衛って言ってられたのかなぁ?・・・などどイチローは疑問を持つ。ただ、今は言ってみたい言葉があるのだ。
「イヤだと言ったら?」イチローはニヒルに笑いながら言った。
「イヤなの?それならそれでしょうがないけれど」大河はサラッと言った。
ここまでアッサリ相手が引くとは思っていなかった。もしかしてイチローをパイロットにはしたくないのかも知れない。
「言いたかっただけですやん。本当にイヤな訳ないですやん。この時代に来て何して良いか、途方に暮れてたんだし、やる事が決まる事を拒否するわけないですやん。それが自分の趣味を活かせる事なら文句ある訳ないですやん」イチローはわけのわからないニセ関西弁を使った。
「じゃあパイロットの適性検査を始めるわね。まずは模擬戦から。あなたはこの機体『シデン』を操って私たち二人を相手に戦ってね。2vs1では不公平だから私達のうち一人をあなたの味方にするわ」
ものは言いようである。公平にしようと思うのなら2vs2にする必要はない。最初からタイマン勝負にすれば良いのだ。イチローの元に味方を送り込むのだって、味方が足を引っ張れば3vs1の構図が出来上がる。
それより何より、イチローが操る『シデン』はどノーマルなのに対し、大河達の操る機体は改造が施されている。
『仮想兵器シリーズ』の第四弾にあたるゲームでは同じ『シデン』でも色々と違う方向性で機体がチューンナップされていた。なので改造に気付かないイチローではない。
元から公平な勝負をする気などはないのだ。
上から「もしかしたら才能のあるパイロットがいるかもしれないから調べてみろ」と言われて、イチローのもとを訪れたが、優秀なパイロットと認めてしまうと、軽蔑すべき男と一緒に働かなくてはならない。
なので「調べてみたがたいした男ではなかった」と報告するつもりで、色々と画策していたのだ。
イチローは思った。憧れていた麻雀漫画のセリフを言える場面だ。
イチローは中二病という不治の病を患っている。
この状況での勝算など、全くない。恐らくボロ負けするだろう。だがイチローの中二病がまるで余裕があるような一言をつい言わせるのであった。
「『3vs1なら勝てるだろ』とか『イカサマしてるんだから勝てるだろ』とか・・・。麻雀漫画なら負ける雑魚悪役そのものの考え方じゃねーか。馬鹿じゃねーか?いいか?本当の強者っていうのは、そういった薄汚い小細工とは関係ないところに存在するんだ。コイツら・・・既に負けフラグが立ってるじゃねーか・・・」
イチローが元いた時代ではまだ「死亡フラグ」という言葉は使われていない。
元々アドベンチャーゲームの用語である「フラグ」という言葉はゲーマーの間で一般化しはじめていたが「死亡フラグ」とはまだ言われておらず「あの子との間に『恋愛フラグ』が立った」などと言う使われて方をしていた。
だがイチローはゲーマーであり、「死亡フラグ」という言葉は知らなかったが、「○○フラグ」という言葉を多用していた。
ゲーマーでない人間が「フラグを折る」とか「フラグが立つ」と言う時代がその後来る事などイチローは知らないので、イチローは「どうせ通じないだろ」と独り言を呟いた・・・つもりだった。
もちろん言いたかっただけである。イチローは3vs1で勝てるような才能あふれるプレイヤーではない。
イチローは大河達に意味が通じないだろうと思って、言いたかったカッコいいセリフを口にしたかっただけだ。
だが、不幸にも大河達にイチローの言った事は通じてしまった。
「まるで3vs1でも勝てるような事を言うのね。お手並み拝見といこうかしら」大河はもう不正も敵意も隠す気がないらしい。
「いやいや、勝てる訳ないから。冷静に考えて見ろよ」と言おうとするも、大河達はすでに機体に乗り込もうとしていた。
「こんな小さなビルの中に軍隊の本部はあるのか?」と思ったが、イチローがビルの入り口のオートロックの装置だと思っていた装置に少女が端末を翳すと、「軍部に移動します。飛び込んで下さい」という電子音声が流れた。
「街のそこいら中に軍部に飛び込める装置が置いてあるの。まぁ、この端末がないと飛び込めないんだけどね。この端末は身分証明書でもあるの。無くしたら大変な事になる、始末書じゃ済まないわね。それじゃあ行きましょうか?」
大河は言った、が、ちょっと待てよ!現実世界から仮想現実世界に飛び込む時の方法は学んだ、 ヘッドセットをつけてベッドで横になれば良い。
でも仮想現実世界からどこかに飛び込む時、どうすりゃ良いんだよ!?未経験の俺にも解りやすいように教えてくれよ。
まごまごするイチローに「本当に何にも知らないのね」と言いながら大河がイチローと手を繋いだ、 すると身体が瞬間移動するように軍部へ移動した。イチローは「『飛び込む』というより『ワープする』という感じだな」というようなどうでも良い感想を持った。
ワープした先では二人の女性が待っていた。
いや、軍部に行けば男に会えるんじゃなかったのかよ。ホモじゃねーぞ、違うけど女だらけの空間はどうも落ち着かない・・・。
イチローは「想像していた軍部と違う」とヘソを曲げながら周囲を見渡した。兵器の格納庫だろうか?大きな倉庫の中のような室内だ。照明はあるが一切の装飾はなく、壁はコンクリート打ちっぱなしだ。仮想現実世界の中なんだから装飾はないにしても壁に色を付けるくらい手間もないだろう。飾りっ気を無くす事で軍部の建物である、という風に演出してるのかな?ピンクの壁のファンシーな建物を「軍部の建物である」なんて言ってもしまらないもんなあ・・・などとくだらない事をイチローが考えていると大河がイチローに話しかけてきた。
「ようこそ日本が誇る自衛隊へ。あなたをここへ案内した理由は最初に説明したわね。あなたは自衛隊が注目していた二人にイザナミで勝利したの。圧勝と言ってもいいわ。あまり一般には知られていないけれどイザナミは軍事利用もされているの。だから、優れたゲーマー達を自衛隊にスカウトしているのよ。でもあなたに関するデータを自衛隊は全く持っていないのよ。だからあなたのパイロットとしての才能、適正をチェックさせて欲しいの」
未来の世界でも自衛隊ってあるんだ。
第三次大戦中、専守防衛って言ってられたのかなぁ?・・・などどイチローは疑問を持つ。ただ、今は言ってみたい言葉があるのだ。
「イヤだと言ったら?」イチローはニヒルに笑いながら言った。
「イヤなの?それならそれでしょうがないけれど」大河はサラッと言った。
ここまでアッサリ相手が引くとは思っていなかった。もしかしてイチローをパイロットにはしたくないのかも知れない。
「言いたかっただけですやん。本当にイヤな訳ないですやん。この時代に来て何して良いか、途方に暮れてたんだし、やる事が決まる事を拒否するわけないですやん。それが自分の趣味を活かせる事なら文句ある訳ないですやん」イチローはわけのわからないニセ関西弁を使った。
「じゃあパイロットの適性検査を始めるわね。まずは模擬戦から。あなたはこの機体『シデン』を操って私たち二人を相手に戦ってね。2vs1では不公平だから私達のうち一人をあなたの味方にするわ」
ものは言いようである。公平にしようと思うのなら2vs2にする必要はない。最初からタイマン勝負にすれば良いのだ。イチローの元に味方を送り込むのだって、味方が足を引っ張れば3vs1の構図が出来上がる。
それより何より、イチローが操る『シデン』はどノーマルなのに対し、大河達の操る機体は改造が施されている。
『仮想兵器シリーズ』の第四弾にあたるゲームでは同じ『シデン』でも色々と違う方向性で機体がチューンナップされていた。なので改造に気付かないイチローではない。
元から公平な勝負をする気などはないのだ。
上から「もしかしたら才能のあるパイロットがいるかもしれないから調べてみろ」と言われて、イチローのもとを訪れたが、優秀なパイロットと認めてしまうと、軽蔑すべき男と一緒に働かなくてはならない。
なので「調べてみたがたいした男ではなかった」と報告するつもりで、色々と画策していたのだ。
イチローは思った。憧れていた麻雀漫画のセリフを言える場面だ。
イチローは中二病という不治の病を患っている。
この状況での勝算など、全くない。恐らくボロ負けするだろう。だがイチローの中二病がまるで余裕があるような一言をつい言わせるのであった。
「『3vs1なら勝てるだろ』とか『イカサマしてるんだから勝てるだろ』とか・・・。麻雀漫画なら負ける雑魚悪役そのものの考え方じゃねーか。馬鹿じゃねーか?いいか?本当の強者っていうのは、そういった薄汚い小細工とは関係ないところに存在するんだ。コイツら・・・既に負けフラグが立ってるじゃねーか・・・」
イチローが元いた時代ではまだ「死亡フラグ」という言葉は使われていない。
元々アドベンチャーゲームの用語である「フラグ」という言葉はゲーマーの間で一般化しはじめていたが「死亡フラグ」とはまだ言われておらず「あの子との間に『恋愛フラグ』が立った」などと言う使われて方をしていた。
だがイチローはゲーマーであり、「死亡フラグ」という言葉は知らなかったが、「○○フラグ」という言葉を多用していた。
ゲーマーでない人間が「フラグを折る」とか「フラグが立つ」と言う時代がその後来る事などイチローは知らないので、イチローは「どうせ通じないだろ」と独り言を呟いた・・・つもりだった。
もちろん言いたかっただけである。イチローは3vs1で勝てるような才能あふれるプレイヤーではない。
イチローは大河達に意味が通じないだろうと思って、言いたかったカッコいいセリフを口にしたかっただけだ。
だが、不幸にも大河達にイチローの言った事は通じてしまった。
「まるで3vs1でも勝てるような事を言うのね。お手並み拝見といこうかしら」大河はもう不正も敵意も隠す気がないらしい。
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