鋼鉄のアレ(仮題)

海星

文字の大きさ
12 / 20

不正

しおりを挟む
    大河はイチローを雑居ビルに案内した。
    「こんな小さなビルの中に軍隊の本部はあるのか?」と思ったが、イチローがビルの入り口のオートロックの装置だと思っていた装置に少女が端末を翳すと、「軍部に移動します。飛び込んで下さい」という電子音声が流れた。
    「街のそこいら中に軍部に飛び込める装置が置いてあるの。まぁ、この端末がないと飛び込めないんだけどね。この端末は身分証明書でもあるの。無くしたら大変な事になる、始末書じゃ済まないわね。それじゃあ行きましょうか?」
    大河は言った、が、ちょっと待てよ!現実世界から仮想現実世界に飛び込む時の方法は学んだ、  ヘッドセットをつけてベッドで横になれば良い。
    でも仮想現実世界からどこかに飛び込む時、どうすりゃ良いんだよ!?未経験の俺にも解りやすいように教えてくれよ。
    まごまごするイチローに「本当に何にも知らないのね」と言いながら大河がイチローと手を繋いだ、  すると身体が瞬間移動するように軍部へ移動した。イチローは「『飛び込む』というより『ワープする』という感じだな」というようなどうでも良い感想を持った。

    ワープした先では二人の女性が待っていた。
    いや、軍部に行けば男に会えるんじゃなかったのかよ。ホモじゃねーぞ、違うけど女だらけの空間はどうも落ち着かない・・・。
    イチローは「想像していた軍部と違う」とヘソを曲げながら周囲を見渡した。兵器の格納庫だろうか?大きな倉庫の中のような室内だ。照明はあるが一切の装飾はなく、壁はコンクリート打ちっぱなしだ。仮想現実世界の中なんだから装飾はないにしても壁に色を付けるくらい手間もないだろう。飾りっ気を無くす事で軍部の建物である、という風に演出してるのかな?ピンクの壁のファンシーな建物を「軍部の建物である」なんて言ってもしまらないもんなあ・・・などとくだらない事をイチローが考えていると大河がイチローに話しかけてきた。

 「ようこそ日本が誇る自衛隊へ。あなたをここへ案内した理由は最初に説明したわね。あなたは自衛隊が注目していた二人にイザナミで勝利したの。圧勝と言ってもいいわ。あまり一般には知られていないけれどイザナミは軍事利用もされているの。だから、優れたゲーマー達を自衛隊にスカウトしているのよ。でもあなたに関するデータを自衛隊は全く持っていないのよ。だからあなたのパイロットとしての才能、適正をチェックさせて欲しいの」
    未来の世界でも自衛隊ってあるんだ。
    第三次大戦中、専守防衛って言ってられたのかなぁ?・・・などどイチローは疑問を持つ。ただ、今は言ってみたい言葉があるのだ。
 「イヤだと言ったら?」イチローはニヒルに笑いながら言った。
 「イヤなの?それならそれでしょうがないけれど」大河はサラッと言った。
    ここまでアッサリ相手が引くとは思っていなかった。もしかしてイチローをパイロットにはしたくないのかも知れない。
 「言いたかっただけですやん。本当にイヤな訳ないですやん。この時代に来て何して良いか、途方に暮れてたんだし、やる事が決まる事を拒否するわけないですやん。それが自分の趣味を活かせる事なら文句ある訳ないですやん」イチローはわけのわからないニセ関西弁を使った。

 「じゃあパイロットの適性検査を始めるわね。まずは模擬戦から。あなたはこの機体『シデン』を操って私たち二人を相手に戦ってね。2vs1では不公平だから私達のうち一人をあなたの味方にするわ」

 ものは言いようである。公平にしようと思うのなら2vs2にする必要はない。最初からタイマン勝負にすれば良いのだ。イチローの元に味方を送り込むのだって、味方が足を引っ張れば3vs1の構図が出来上がる。
 それより何より、イチローが操る『シデン』はどノーマルなのに対し、大河達の操る機体は改造が施されている。
 『仮想兵器シリーズ』の第四弾にあたるゲームでは同じ『シデン』でも色々と違う方向性で機体がチューンナップされていた。なので改造に気付かないイチローではない。
 元から公平な勝負をする気などはないのだ。
 上から「もしかしたら才能のあるパイロットがいるかもしれないから調べてみろ」と言われて、イチローのもとを訪れたが、優秀なパイロットと認めてしまうと、軽蔑すべき男と一緒に働かなくてはならない。
 なので「調べてみたがたいした男ではなかった」と報告するつもりで、色々と画策していたのだ。
 
    イチローは思った。憧れていた麻雀漫画のセリフを言える場面だ。
    イチローは中二病という不治の病を患っている。
    この状況での勝算など、全くない。恐らくボロ負けするだろう。だがイチローの中二病がまるで余裕があるような一言をつい言わせるのであった。

   「『3vs1なら勝てるだろ』とか『イカサマしてるんだから勝てるだろ』とか・・・。麻雀漫画なら負ける雑魚悪役そのものの考え方じゃねーか。馬鹿じゃねーか?いいか?本当の強者っていうのは、そういった薄汚い小細工とは関係ないところに存在するんだ。コイツら・・・既に負けフラグが立ってるじゃねーか・・・」
    イチローが元いた時代ではまだ「死亡フラグ」という言葉は使われていない。
    元々アドベンチャーゲームの用語である「フラグ」という言葉はゲーマーの間で一般化しはじめていたが「死亡フラグ」とはまだ言われておらず「あの子との間に『恋愛フラグ』が立った」などと言う使われて方をしていた。
    だがイチローはゲーマーであり、「死亡フラグ」という言葉は知らなかったが、「○○フラグ」という言葉を多用していた。
    ゲーマーでない人間が「フラグを折る」とか「フラグが立つ」と言う時代がその後来る事などイチローは知らないので、イチローは「どうせ通じないだろ」と独り言を呟いた・・・つもりだった。
 もちろん言いたかっただけである。イチローは3vs1で勝てるような才能あふれるプレイヤーではない。
 イチローは大河達に意味が通じないだろうと思って、言いたかったカッコいいセリフを口にしたかっただけだ。
    だが、不幸にも大河達にイチローの言った事は通じてしまった。

    「まるで3vs1でも勝てるような事を言うのね。お手並み拝見といこうかしら」大河はもう不正も敵意も隠す気がないらしい。
「いやいや、勝てる訳ないから。冷静に考えて見ろよ」と言おうとするも、大河達はすでに機体に乗り込もうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

航空自衛隊奮闘記

北条戦壱
SF
百年後の世界でロシアや中国が自衛隊に対して戦争を挑み,,, 第三次世界大戦勃発100年後の世界はどうなっているのだろうか ※本小説は仮想の話となっています

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...