CASTエソラ〜異世界で出会ったのは大きなペンギンでした〜

nano ひにゃ

文字の大きさ
1 / 26

プロローグ

しおりを挟む
 それはとても深い深い谷の底。
 日の光も届かないその場所に、小さな村がありました。
 村人はほんの三十人あまり。
 ある時その村にひとりの男の子が生まれました。
 とてもとても小さく生まれた男の子。
 村にたった一人のお医者様は、この子はそう長くは生きられないだろうとおっしゃるのです。

 それを聞いた村の民はとても嘆き悲しみました。
 その子は、その小さな小さな体に大きな大きな使命を持って生まれてきていたからでした。

 その谷では、遙か昔から精霊と契りを結び、世界を統治する力を与えられていたのです。
 でも、それは世界を支配するような力ではありませんでした。
 男の子の母は世界で唯一生き残っていた精霊で、父は谷の村を治める若き長でした。動物が植物が精霊が、それぞれがそれぞれのあるがままの姿で生きていくための力。
 
 大地の声を聞き、精霊と手を結び、空を感じて、星をよむ力。
 その力によって世界の均衡を保ちながら谷の人々は長い時を過ごしてきました。
 
 しかし。

 それほど遠くない昔。
 人という存在だけ誤った考えを持つようになっていきました。
 世界を司っているのは人という存在だけ、偉大なる力を人だけが持っていると思いこんでいったのです。
そしてある時、人々は谷を襲い、力を奪おうとしました。

 その時から、世界の姿は変わっていきました。
 精霊は姿を消し、植物は枯れていき、動物は姿を変えました。
 わずかに残った谷の民も、深く険しい谷底へ住まいを移し、二度と人と関わりを持たぬようになったのです。
 それでも、谷の人々は昔からの生活を変えることはありませんでした。
 大地の声を聞いて、空を感じて、星をよんで。

 谷の民は、世界の滅びの日がすぐ目の前にまで迫っていることを知りました。
 均衡が崩れた世界ではそう長くは持たなかったということなのでしょう。

 そんな時でした。

 精霊の娘に谷の子が宿っていることが分かったのは。
姿を消してしまった精霊に、谷の青年が根気強く語り続け、それに耳を傾けた1人の精霊と青年は恋に落ちました。そして二人の間に子が宿りました。
 もう二度と生まれることのないと思われていた子ども。
 その青年が村の長になった矢先にその事実は分かったのです。
 谷の人々は喜び、きっと世界の崩壊も止まることだろうと沸き立ちました。

 しかし、話を聞きつけた精霊の王様が谷へとやってきたのです。
 そして王様は言いました。
 世界の崩壊はもはや止めることはできない、一度崩れた歯車はもう元には戻せないのだ、と。
 またもや悲しみの中にくれようとした人々に王様はもう一言、言葉を続けました。

 ただし唯一方法がある。それがこの子だ。
 王様は一つの文を谷の長に渡しました。
 文には世界の滅びを止める方法が書かれていました。
 それが生まれてきた子供“シン”に与えられた使命だったのです。
 その赤ん坊の命が長くないというのは世界の滅びを意味しているのですから、皆の悲しみは計り知れないものだったでしょう。

 しかし、長の若き青年と精霊の娘は諦めませんでした。
 世界を守る事よりも一瞬でも長く生きて欲しいと願った両親は、お医者さまに助かる方法はないのかと必死にお願いしたのです。
 するとお医者様は、日の光を浴び成長したならば可能性はあると仰りました。
 それはつまり、谷から、二人の下から、遠く離れた土地で暮らさせろということ。

 それでも二人が悩むことはありませんでした。
 すぐに小さな赤ん坊がやっと乗れる谷で唯一の小さな小さなトロッコに、シンだけを乗せて谷から送り出しました。

 トロッコのたどり着く先は谷と唯一繋がっている人間の老夫婦が住んでいました。
 その老夫婦は谷では採ることの出来ない薬や物資を送ってくれる優しいヒト。
 突然谷からやってきた赤ん坊も、谷からの手紙を読むと、すぐさま返事の手紙をトロッコに乗せ送りました。
 大切に育てると、その手紙には書かれていたのでした。

 月日は流れ、シンは十七歳になりました。
 体は変わらず小さなままでしたが、元気いっぱいにしかっりと成長し、男の子は青年への道を確実に歩んでいました。
そんなある日。
 おじいさんとおばあさんは、シンに二通の手紙を渡しました。

 一通は両親から。
 もう一通は世界破壊を阻止する方法が書かれたもの。
 シンは両親からの手紙で自分の使命を知りました。
 そして、崩壊の時がすぐそこまで来ていることも。

 シンは一晩悩みました。
 月を眺めながら、自分がどうすべきか考えました。
 月は何も言いません。
 それでもシンは決心しました。
 シンは世界を救うべく、旅に出ます。
 この世界唯一の城に向けて。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。 これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。 ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。 気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた! これは?ドラゴン? 僕はドラゴンだったのか?! 自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。 しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって? この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。 ※派手なバトルやグロい表現はありません。 ※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。 ※なろうでも公開しています。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ
ファンタジー
『ヴェアリアスストーリー』は神秘と冒険が交差するファンタジー世界を舞台にした物語。    不思議なちからを操るセイシュの民、失ったそのちからを求めるイシュの民、そして特殊な力を持たないがゆえに知恵や技術で栄えたヒュムが共存する中、新たなる時代が幕を開けた。  彼らは悩み迷いながらも、自分たちが信じる正義を追求し、どのように未来を切り開いていくのか。ちからと知恵、絆が交差する物語の中で、彼らは自らの運命に立ち向かい、新しい数々のストーリーを紡いでいく。  第一章はセイシュの民の視点での物語。

処理中です...