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家に帰っても泉水の混乱は続いていた。
別れろと言われたことは想定内だが、國実の家族の、いや今日会った彼の重度のブラコンを目の当たりにしてしまいそれを受け止めきれずにいる感覚だった。
ソファーで何も手にできず宙を見ているとき、携帯がなった。
見ると國実からのメールで、今週は土曜日昼過ぎにホテルにとの連絡だった。
いつもなら了承の返事を返すだけだが、泉水は思わず通話ボタンを押していた。
数コールで國実が出た。
『どうした、珍しいな』
國実の声はいつもと変わらず穏やかで優しい。顔が見えないのに微笑んでいるのがわかるようだった。
「國実さんのご兄弟の方に会って」
『あはは、ついに直接来たか。誰だった?」
そう言われて結局名前を聞いてなかったことを思い出した。
「・・・・・・名前は聞かなくて、でも双子だって」
『ああ、志寿加(しずか)だな』
「兄でも弟でもないって」
『先に生まれてるし、ちゃんと兄なんだが、ほら上にもう二人もいるから差別化を図りたいみたいなんだ』
「國実さんに特別に思われたいってこと?」
『ちょっと俺だけ育ちが違うからだろうな』
「・・・・・・」
聞いていいことなのか戸惑いがあった。
その沈黙で心情を理解したのか、國実は明るい声で答えた。
『土曜日説明してやるから』
「うん」
泉水は電話を切った後、ゆっくり深呼吸してからシャワーに向かった。
落ち着かないまま迎えた土曜日。
指定されていたのは大きなシティホテルで、待ち合わせのロビーにいると旅行客らしき人々が行ったり来たりと楽しそうな雰囲気であふれたいた。中には結婚式があるようで着飾った人たちもいた。
地元でわざわざそんなホテルに泊まることもなく、ホテルのレストランにも興味がなかった泉水はこれまで知っているのは名前だけだったのだが、近場でこれほど非日常を味わえることに少し驚いていた。
気持ちが高ぶって時間よりかなり早めに来てしまった泉水はロビーでもじっとしていられず、ラウンジでコーヒーを頼み何とか時間をつぶした。
そこへスーツ姿の國実が予定時間通りにやってきた。
「待たせか?」
「いえ、今日も仕事?」
「部長に呼び出されて仕方なくな、サラリーマンの悲しさだよ」
「もういいの?」
「いい、いい。俺じゃなくてもなんとかなる」
自営の端くれの泉水には正確にサラリーマンの性を知ることはできないが、國実のそれは一般のものと少し違う気がした。執着心のなさが滲んでいるのに決していい加減ではない。不真面目そうなのに、忙しさは目に見える。
國実は知れば知るほど謎が多くなっていく男だった。
「昼飯食ったか?」
「あ、忘れてた」
「わりー、俺軽く済ませてきたからさ。コーヒーくらいは付き合うぞ」
「いいや、なんか食べれそうもない」
「そんな緊張してんのか?」
「そうみたい」
國実は笑いながら食事を強行させることもなく泉水を促し一緒にフロントに向かった。
予約を確認していると、國実はなぜか少し困ったような顔をした。
ホテルマンとのやり取りに違和感はないように感じた泉水だったが、國実のその変化ははっきりとわかった。
「どうかしたの?」
予約できていなかったのかと考えた泉水だったが、ルームキーはすんなり國実に渡されていた。
「國実さん?」
「うーん、部屋見ればわかるだろうな」
意味はさっぱり理解できない泉水だったが、そう言われてしまえばついて行くだけだった。
そして國実に続いて入った部屋で泉水は思わず声をあげてしまった。
「すごーーい! どうしたの、こんないい部屋じゃなくても全然いいのに」
「俺もそのつもりだったんだけどなー」
「どういうこと?」
國実は完全に苦笑しながら、ソファーに座り部屋を見回していた。
ツインのベッドはサイズも大きく、ソファーセットも余裕で配置され、泉水がのぞけばバスルームも展望が開けたガラスばりだった。
泉水は珍しさに一通り見まわってから、國実の横に腰を落とした。
「スイートルームってやつ?」
「そこまでじゃないよ、ここのスイートはもうホテルじゃないから」
泉水には想像もできなかったが、今いる部屋でも十分泉水の常識を超えていた。
「ホントにどうしてこんないい部屋なの?」
「知り合いに頼んだのがまずかったな、一応普通の部屋でって念押しはしたんだけど」
無理やり押し付けられたのだと分かれば小市民泉水の心配は金銭面に及んでしまう。
男の矜持だからと金の話をするのを拒む輩もいるが、國実に関してはそのあたりの明瞭さも信頼している。
事前に奢りだと言われていたが、一泊の値段が想定を上回るなら話は別だ。
「・・・・・・お金大丈夫?」
暗に割り勘もありだと滲ませるように泉水が言うとさっぱりとした答えが返ってきた。
「それは大丈夫だ、俺が払うのは普通の料金だけ。向こうが勝手にやったことだから気にする必要ないよ」
けれど浮かない表情はそのまま。
「じゃあどうして困ってるの?」
泉水が広いソファーの上でお座りするようにして國実を伺うと、國実は少し泉水を眺めた後視線を外し浮かないため息を一つ。
「前に自分で全然別のホテル予約したことがあったんだ、そしたらやたら怒られてさ。どこで聞きつけたのか、予約変更されてここの系列の高級ホテルになってた。今日のことも勝手にされるよりはと思って頼んだのに・・・。まあ、あいつの場合ビジネスからんでるから構わないんだけどさ、俺はただの一般人だから身の丈に合わない高級志向だと思われると恥ずかしいだろ」
困っていただけじゃなくて恥ずかしがってもいたのかと泉水は思わずクスリと笑ってしまった。
すると國実は明後日の方向を向いたまま足を組み換え、肘掛けに頬杖をついて途方に暮れているようだった。
泉水は拗ねているような國実を少し可愛く感じながらも國実に無理を押し通す人がどんななのか気になった。
「あいつって友達なの?」
「そうそう、大学の時のな。ちなみに俺をクインズに誘うのもそいつ、高木敦人(たかぎあつと)て知らないか?」
部屋を豪華にされたと困ってはいてもその友人に怒りは向いていならしく、口調はいつもらしく軽やかだった。
泉水の方はちょっと驚いていた。それは、高木敦人という名前が出てきたことにだった。
「知ってる」
界隈じゃ少々有名人だった。整った顔のよくモテる男だったが詳しい素性は明かさず、いくつも店を経営してるだの結婚もしてないのに愛人が山ほどいるだの、逆にその人たちのヒモで生きているとか、支離滅裂な噂の絶えない人だった。
そう言えば國実に声をかけた時にも一緒にいた気がする。泉水はもうすっかり國実に集中していたので周りにあまり関心がなかったから思い出せばというレベルだった。
「高木さんがこのホテルの関係者?」
素性が知れないはずの人の正体はあっさり泉水に知らされた。
「経営者の一人というのが正しいかな」
簡単に言ってもいいのかと問えば、何がどう回っても嘘っぽいだろっと國実は笑った。
「噂もあながち嘘じゃなかったんだ」
「あいつの噂はほとんど本物だ、そういう人生を楽しんでんだよ」
泉水は直接話したことはない。ハードなプレイもたしなむ相手だとは聞いていたが地に足のついてなさそうな男にはとても相手にされないだろうという思いと、気まぐれでも遊ばれるのは御免だと思っていたからだ。
「その人がこの部屋をとってくれたんだね」
人となりが少し分かってもその理由はまだ分からなかった。
泉水が首を傾げていると、國実はぽつりと言った。
「ポイント稼ぎたいんだろうな」
「ポイント?」
何のと口が動きそうになった間際、國実は颯爽と立ち上がった。
「さて、その話をする前に、最終試練といきますか」
びくりと泉水も思わず立ち上がっていた。
別れろと言われたことは想定内だが、國実の家族の、いや今日会った彼の重度のブラコンを目の当たりにしてしまいそれを受け止めきれずにいる感覚だった。
ソファーで何も手にできず宙を見ているとき、携帯がなった。
見ると國実からのメールで、今週は土曜日昼過ぎにホテルにとの連絡だった。
いつもなら了承の返事を返すだけだが、泉水は思わず通話ボタンを押していた。
数コールで國実が出た。
『どうした、珍しいな』
國実の声はいつもと変わらず穏やかで優しい。顔が見えないのに微笑んでいるのがわかるようだった。
「國実さんのご兄弟の方に会って」
『あはは、ついに直接来たか。誰だった?」
そう言われて結局名前を聞いてなかったことを思い出した。
「・・・・・・名前は聞かなくて、でも双子だって」
『ああ、志寿加(しずか)だな』
「兄でも弟でもないって」
『先に生まれてるし、ちゃんと兄なんだが、ほら上にもう二人もいるから差別化を図りたいみたいなんだ』
「國実さんに特別に思われたいってこと?」
『ちょっと俺だけ育ちが違うからだろうな』
「・・・・・・」
聞いていいことなのか戸惑いがあった。
その沈黙で心情を理解したのか、國実は明るい声で答えた。
『土曜日説明してやるから』
「うん」
泉水は電話を切った後、ゆっくり深呼吸してからシャワーに向かった。
落ち着かないまま迎えた土曜日。
指定されていたのは大きなシティホテルで、待ち合わせのロビーにいると旅行客らしき人々が行ったり来たりと楽しそうな雰囲気であふれたいた。中には結婚式があるようで着飾った人たちもいた。
地元でわざわざそんなホテルに泊まることもなく、ホテルのレストランにも興味がなかった泉水はこれまで知っているのは名前だけだったのだが、近場でこれほど非日常を味わえることに少し驚いていた。
気持ちが高ぶって時間よりかなり早めに来てしまった泉水はロビーでもじっとしていられず、ラウンジでコーヒーを頼み何とか時間をつぶした。
そこへスーツ姿の國実が予定時間通りにやってきた。
「待たせか?」
「いえ、今日も仕事?」
「部長に呼び出されて仕方なくな、サラリーマンの悲しさだよ」
「もういいの?」
「いい、いい。俺じゃなくてもなんとかなる」
自営の端くれの泉水には正確にサラリーマンの性を知ることはできないが、國実のそれは一般のものと少し違う気がした。執着心のなさが滲んでいるのに決していい加減ではない。不真面目そうなのに、忙しさは目に見える。
國実は知れば知るほど謎が多くなっていく男だった。
「昼飯食ったか?」
「あ、忘れてた」
「わりー、俺軽く済ませてきたからさ。コーヒーくらいは付き合うぞ」
「いいや、なんか食べれそうもない」
「そんな緊張してんのか?」
「そうみたい」
國実は笑いながら食事を強行させることもなく泉水を促し一緒にフロントに向かった。
予約を確認していると、國実はなぜか少し困ったような顔をした。
ホテルマンとのやり取りに違和感はないように感じた泉水だったが、國実のその変化ははっきりとわかった。
「どうかしたの?」
予約できていなかったのかと考えた泉水だったが、ルームキーはすんなり國実に渡されていた。
「國実さん?」
「うーん、部屋見ればわかるだろうな」
意味はさっぱり理解できない泉水だったが、そう言われてしまえばついて行くだけだった。
そして國実に続いて入った部屋で泉水は思わず声をあげてしまった。
「すごーーい! どうしたの、こんないい部屋じゃなくても全然いいのに」
「俺もそのつもりだったんだけどなー」
「どういうこと?」
國実は完全に苦笑しながら、ソファーに座り部屋を見回していた。
ツインのベッドはサイズも大きく、ソファーセットも余裕で配置され、泉水がのぞけばバスルームも展望が開けたガラスばりだった。
泉水は珍しさに一通り見まわってから、國実の横に腰を落とした。
「スイートルームってやつ?」
「そこまでじゃないよ、ここのスイートはもうホテルじゃないから」
泉水には想像もできなかったが、今いる部屋でも十分泉水の常識を超えていた。
「ホントにどうしてこんないい部屋なの?」
「知り合いに頼んだのがまずかったな、一応普通の部屋でって念押しはしたんだけど」
無理やり押し付けられたのだと分かれば小市民泉水の心配は金銭面に及んでしまう。
男の矜持だからと金の話をするのを拒む輩もいるが、國実に関してはそのあたりの明瞭さも信頼している。
事前に奢りだと言われていたが、一泊の値段が想定を上回るなら話は別だ。
「・・・・・・お金大丈夫?」
暗に割り勘もありだと滲ませるように泉水が言うとさっぱりとした答えが返ってきた。
「それは大丈夫だ、俺が払うのは普通の料金だけ。向こうが勝手にやったことだから気にする必要ないよ」
けれど浮かない表情はそのまま。
「じゃあどうして困ってるの?」
泉水が広いソファーの上でお座りするようにして國実を伺うと、國実は少し泉水を眺めた後視線を外し浮かないため息を一つ。
「前に自分で全然別のホテル予約したことがあったんだ、そしたらやたら怒られてさ。どこで聞きつけたのか、予約変更されてここの系列の高級ホテルになってた。今日のことも勝手にされるよりはと思って頼んだのに・・・。まあ、あいつの場合ビジネスからんでるから構わないんだけどさ、俺はただの一般人だから身の丈に合わない高級志向だと思われると恥ずかしいだろ」
困っていただけじゃなくて恥ずかしがってもいたのかと泉水は思わずクスリと笑ってしまった。
すると國実は明後日の方向を向いたまま足を組み換え、肘掛けに頬杖をついて途方に暮れているようだった。
泉水は拗ねているような國実を少し可愛く感じながらも國実に無理を押し通す人がどんななのか気になった。
「あいつって友達なの?」
「そうそう、大学の時のな。ちなみに俺をクインズに誘うのもそいつ、高木敦人(たかぎあつと)て知らないか?」
部屋を豪華にされたと困ってはいてもその友人に怒りは向いていならしく、口調はいつもらしく軽やかだった。
泉水の方はちょっと驚いていた。それは、高木敦人という名前が出てきたことにだった。
「知ってる」
界隈じゃ少々有名人だった。整った顔のよくモテる男だったが詳しい素性は明かさず、いくつも店を経営してるだの結婚もしてないのに愛人が山ほどいるだの、逆にその人たちのヒモで生きているとか、支離滅裂な噂の絶えない人だった。
そう言えば國実に声をかけた時にも一緒にいた気がする。泉水はもうすっかり國実に集中していたので周りにあまり関心がなかったから思い出せばというレベルだった。
「高木さんがこのホテルの関係者?」
素性が知れないはずの人の正体はあっさり泉水に知らされた。
「経営者の一人というのが正しいかな」
簡単に言ってもいいのかと問えば、何がどう回っても嘘っぽいだろっと國実は笑った。
「噂もあながち嘘じゃなかったんだ」
「あいつの噂はほとんど本物だ、そういう人生を楽しんでんだよ」
泉水は直接話したことはない。ハードなプレイもたしなむ相手だとは聞いていたが地に足のついてなさそうな男にはとても相手にされないだろうという思いと、気まぐれでも遊ばれるのは御免だと思っていたからだ。
「その人がこの部屋をとってくれたんだね」
人となりが少し分かってもその理由はまだ分からなかった。
泉水が首を傾げていると、國実はぽつりと言った。
「ポイント稼ぎたいんだろうな」
「ポイント?」
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