錬金術科は私ひとり! なのに“世界の理に触れた者”とかあだ名が痛すぎる

くじら

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第6話(中編1): 見えない贈りものと、信じる力

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ユウ・ラングレー君の依頼で“家庭の味”を再現することになったものの、正直私は最初から自信があったわけじゃない。
 でも、レシピノートであったり再現しようと細かにとってあるメモを見て本気の人だとわかった。ならばなるべくその気持ちに応えたい。

 
 放課後のアトリエ。机には購買部で買い込んだ野菜、バター、小麦粉、そしてなぜか精霊用に小さな菓子パンも。
 精霊が「もしかしてご褒美!?」とばかりに菓子パンの袋に頭から突っ込んでいる。
 レシピノートを確認しながら、まずは市販の材料だけで料理に挑戦してみることにした。


「よし、じゃあ、まずは“煮込みスープ”から作ってみようか」


ラングレー君はノートを読み上げてくれる。


「玉ねぎのみじん切りは涙に注意してくださいね」
「玉ねぎを炒めて、にんじんとじゃがいもを加えて……」


イラストも分かりやすいし、都度大事なところはメモも見て教えてくれるので何度か自分で作ったんだろうなと伺えた。


 精霊は、私の肩から鍋のそばに飛び降りては、
「おいしくなぁれ」とばかりに手をかざしたり、
パン生地をふくらませるために精霊魔法をかけたり。
 私は思わず「ありがと」と声に出してしまい、
ラングレー君が不思議そうにこちらを見る。



「……今、何か?」


「え?……あ」



や、やらかした。思わず精霊に話しかけてしまったけど、ユウ君には精霊が見えないはずだ。
 一瞬、空気がきゅっと止まる。慌ててごまかそうかと思ったけれど、


"「……家の畑で採れた野菜のスープと、薪窯で焼くパン。
母や祖母がよく作ってくれて、家族みんなで手伝ったり、精霊が野菜の周りを飛び回ってるって母の言葉とかの思い出もあって。
学園のご飯も美味しいけど、どうしても“あの味”が恋しくなってしまったんです」"


さっき依頼のことで話した会話から“精霊”って言葉が出ていたことを思い出す。
グッと閉じてしまった口をゆっくりと開き、言葉にする。


「――その、うちの精霊がちょっと手伝ってくれてて。私、精霊が見えるからつい話しかけちゃって……」


 正直にそう打ち明けると、ラングレー君は少し驚いたような顔をして、それからすぐにやわらかく笑った。

 
「母から、錬金術師さんは精霊と一緒に料理や畑仕事をするって聞いたことがあります。僕は見えないんですけど……でも、そういうの、すごくいいなって思います」


その言葉に、思わずほっと胸をなでおろす。

 
「……ありがとう。精霊のことを誰かに話すの、ちょっとだけ勇気がいるから」


それを聞いたラングレー君も苦笑いしながら、相槌をする。


「よく魔術科でその話題がでます。それが授業中だったり、休み時間だったりと不定期なのですが、先生の中でも信じている人と居ない人でまちまちです。
僕の場合は、母や祖母が錬金術師なので、よく話を聞きました」

「私のことも信じてくれるんだね」

「まぁ、実際居ないと自分の中でもおかしい現象おきてますからね。
今だったらパンの発酵に時間かかるのにもうできていますし」



これも精霊のおかげですよね?とその素直さと優しい言葉に、私も自然と笑顔になり頷いた。
続けて、精霊は今どこに居ますか?と聞いてきたので、ここにいると発酵したパンの上で浮いている精霊を示す。


ラングレーくんは見えない相手に向かって「よろしくお願いします」と普通にぺこりと頭を下げた。

これにはびっくり。


「精霊の力は奇跡に近いですし、僕は魔術を使うから本来精霊にとっても良くないと思うんです。実際、僕の魔術で体調を崩した精霊が居たって母から聞いたりしたので。
だからこうして力を貸してもらった時はお礼を言うんです」


母もお礼言ってるので習慣みたいなものです。と、言う彼に精霊は「へぇ~!」と嬉しそうに私の肩でくるくる踊っている。


『この子、いい子だな~。
魔術は確かに毒になるけど、魔力はその人の本質が出るの。
だから魔術さえ使わなければこの子の魔力は精霊に害はないわ。真剣に私たちに向き合うこの性格は精霊にも好かれやすいかも』



 精霊は、私の肩でくるりと一回転して、何かを嗅ぐように空気をすんすんと吸い込んでいた。


『ふふ、やっぱり!罪な男ね。
精霊の祝福を受けてるじゃない』


「え!?」


 私は思わず目を見開いてしまった。

 精霊の祝福――
それは錬金術師や、精霊を本当に大事にするごく限られた人しか与えられないものだと、昔から聞いていた。

祝福を受ければ、たとえば野菜や花がすくすく育ったり、ケガをしてもすぐに治ったり、
道に迷っても“偶然”誰かに助けられたりと――
小さな幸運や自然のめぐみが、その人のまわりに集まるようになる。

 それだけじゃない。
ごくまれに、精霊の“声”や“気配”を感じ取れるようになったり、本当に危ないときには、精霊が命を守るために奇跡を起こすこともあるという。

 もちろん、それは祝福をくれた精霊が、
自分の“命”をその人と少しだけ分けあうという大きな覚悟とリスクを背負ってくれた証でもある。

 祝福を受けることは、それだけ重い――
でも、本当に“自然”や“精霊”に愛された人にしか、決して与えられない贈り物だ。


まして魔術師は、精霊からは“相容れない”と思われがちな存在。
なぜなら、魔術の“強い意志や魔力”が、精霊の力と反発しあうことが多いからだ。


「……ラングレーくん、君ってすごい人だよ」

「え?」

「今精霊に聞いた事だけど、精霊の祝福を受けてるんだね。」

「精霊の祝福……?なんでしょうか、それは」



首をかしげて私を見る彼に説明をすれば、かなり驚いた顔をしていた。


「母も“精霊が懐いてくれるといいね”って言ってましたけど……僕には見えないから、正直よく分かっていませんでした」


『魔術士が祝福もらうなんて、ほとんど奇跡なんだぞ~』


精霊が、パンの上でドヤ顔している。



「……本当に、これはすごいことなの。精霊たちもラングレー君のことが好きってことなんだ。
だから、もっと自信を持ってもいいと思う」


 そう伝えると、ラングレー君はちょっと恥ずかしそうに頬をかきながら、「ありがとうございます」と小さく笑った。
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