Last flag

雨実 和兎

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<風を切る月>1

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「本当にコレで良いんですか団長?」

次の日もその次の日も基地に来ないチビを、ハカセは心配するが「辞めた奴の事なんか、もう良いんちゃうけ?」とその度洋介が話しの腰を折り、再びチビを誘いに行く事は出来なくなっていた。

チビが基地に来れなくなって一週間が過ぎようとしていた頃、それでも放課後基地での練習は続いていた。

「お~!マネージャーが来た~!」

堤防を自転車で走るナナを見つけた健太は、大きく手を振り跳びはねる。

「アレッ?みんな駅に行ってないの?」

立ち止まったナナは不思議そうに三人を見つめ返す。

「えっ?駅で試合やってるんか?」

素っ頓狂な健太の返答に「違うよ~!光久君今日で転校でしょ~!」とナナは吹き出している。

「‥‥その話、本当ですか‥‥?」

真剣な表情で思わず乗り出すハカセに「お母さんが言ってたよ~!今日の5時に出発だって!」と破門の事情を知らないナナは笑顔を返す。

「じゃあ私は塾が有るから行くね!試合の日には来るから!」

そう言ってナナが去って行くと「破門にしたんやしちょうど良いやんけ」と洋介は格好つけてか妙に悪ぶる。

「団長!応援してあげるんじゃなかったんですか?!」

ハカセは声を荒げるが「まだ言うとんけ~!」と洋介は面倒臭さそうに頭を掻いている。

「黙ってて下さい!団旗よりも大事な事が有るんじゃないですか!」

ずっと黙っていた健太は覚悟を決めたかのように「行こう!!」と大きな声をあげて、チビが置き忘れた団旗を手に取った。

「急がないと時間が有りませんよ!」

二人が停めていた自転車の場所迄駆け出そうとすると「居った!居った~!」とニヤついたブラバン部員の五人が、三人の自転車を蹴り倒す。

「またか、あいつら~!」

健太は睨みつけるが、部員達は相変わらずニヤついている。

「俺達の踏み跡が着いた旗、大事そうに持ってるや~ん!」

部員の一人が健太を指差すと、残りの部員達も指差しケタケタと笑い出す。

「団長!相手にしている暇は有りませんよ!」

時間も無く焦るハカセと健太に、一人だけ落ち着いた表情の洋介は「俺が何とかしたるけお前達行け」と二人の背中を押す。

「無理ですよ!相手は五人も居るんですよ!」

ハカセは引き止めようとするが「団旗の件は俺のせいやったみたいやけアイツに謝っといてくれ」と洋介の意思は固く、再び二人の背中を強く押し出す。

「団長!走りましょう!」

倒れた自転車の近くには五人が居たせいか、自転車に乗るのを諦めた二人は駅に向かい走り始める。

「待てコラー!」

叫び声をあげ部員の二人が追いかけようとするが「早う行け~!!」と飛び付いた洋介に阻まれ倒れる二人。

「駅ならまだ間に合うはずです」

息を切らしながら走り続ける二人に、倒れた二人も立ち上がり走って追いかけるが距離は一向に縮まらない。

「‥‥何やアイツ達‥‥逃げんの必死やな‥‥」

疲れきって立ち止まった部員は、笑ってからかうが「オラー!行け行け~!」と部員達に揉みくちゃにされながらも叫び続ける洋介の姿が、部員の言葉を負け惜しみに変える。
健太とハカセの後ろ姿が見えなくなっても、大空に拳と声を突き上げる洋介の気持ちは団員としてひとつだった。

「ハア‥‥ハア‥‥、しまった‥‥、太鼓忘れたな‥‥」
「そ‥‥それどころじゃ‥‥、なかったですよ‥‥」

息を整え立ち止まる二人が見上げる線路沿いには、もう少しで駅が見える所迄来ていた。

「コレ‥‥、撥代わりに良いんちゃう‥‥」

落ちていた木の棒を健太が手渡すと「もしかして‥‥、太鼓代わりは壁ですか‥‥」と受け取ったハカセは思わず吹き出す。

「さあー、チビが俺達の応援を待っとるで!」

再び走りだした二人の行く先には、一時間に二車両しか走らない古びた駅がひっそりと建っていた。

「間に‥‥合いましたかね‥‥」

駅に駆け付けた二人は無人の改札を駆け抜け、心配そうに辺りを見渡す。
発車待ちの先頭車両付近では、今まさに担任と話し終えて電車に乗ろうとしているチビと母親の姿があった。
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