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一罪
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俺の名前は「ともべ」という。昔はちゃんとした漢字があったがいつの間にか忘れてしまった。そして今はその名前さえもどうでもいい。俺の名を呼ぶ者はもう存在しない。
今俺の目の前で、食事の準備をしている男は俺の名前を一度も呼んだことがない。確かこの部屋に監禁される前に名乗ったと思うのだが、男は俺の事を「カミサマ」と嘲くように言うだけだ。勿論、「カミサマ」扱いをされたことなどない。
鉄のプレートに乗った食事内容を見て、今は朝だと気付く。何のこだわりか知らないが、男が運んでくる食事は一日三食それぞれ違っていた。しかも朝はパンに目玉焼き、昼は白米に焼き魚など無駄に手が込んだ内容のもので、監禁しているなら「それなり」のものを出せばいいのに、と思ったりもした。それにしても、男は無精ひげを生やし本人自身も痩せ気味だ。どうにもこの食事をこいつが作っているとは思えない。この部屋以外のどこかに他の誰かがいるだろうか。
ここは部屋というより、倉庫みたいな感じだった。白いコンクリートの壁と床。俺が拘束されている場所からは置物などは見えない。あるのはこの拘束椅子と、食事を置くテーブルだけだ。窓も時計もない。俺が監禁されて五ヵ月程、と分かるのは男がたま携帯電話を触る時にちらりと目に入る時間を覚えているからだ。
この時、情けなく思うことがある。時も神が人間に与えたものだ。それが今となっては、人間が発明した機器に時間を教えてもらうとは。
「食え」
「……」
男がスープを掬ったスプーンを俺の口前に持ってくる。
毒物が入っていないことはこの五ヵ月で分かっている。
それでも俺が恐る恐る口を開くと、男は乱暴にスプーンを突っ込んできた。
コーンスープの濃い味が口中で広がる。味わった俺の喉がごくんと動いたを確認すると、男はスプーンを俺の口内でゆっくりと動かし始めた。
「ふぅ……あぅふぅ…」
歯の裏をなぞられ、舌の上でもどかしく転がされる。スプーンにはもう一滴もコーンスープは残っておらず、口の中にはサビの味が広がる。
「……フェラは教えた覚えはねぇんだけどな。随分エロい顔すんじゃねえか」
下衆な笑みを含んで言った男の言葉に俺はハッとした。
「あ……」
「そんなつもりじゃ、みたいな顔だな。まぁどうでもいいが」
また嬲りを受けると思ったのだが、男はあっさりと受け流して、またスープを俺に食わせようとする。俺は一瞬戸惑ったが、二口目をすすった。
「うまいか?」
「……」
「あついのか?」
「……んん」
俺は首を振って、否定する。男はそうか、と言ってスプーンを置き、今度はパンを千切ろうとする。
これ、だ。
俺は食事の時間が嫌いだった。まだ凌辱されている間の方がマシだった。
男はこうしてたまに、俺を心配しているような、「やさしさ」を見せる。神を犯すという冒涜者なのにどこか隙をみせるのだ。それは勿論優しさではないかもしれない。油断した俺を更にどん底に突き落とすためにわざと「振り」をしているのかもしれない。だから罵声を浴びせ、言葉で責めてくる性暴力の時の方が、妙な勘繰りをしなくていいから忌々しくも、マシなのだ。
食べやすいようにと男が千切ったパンを食べ、ぬるめのコーンスープをすすり、オレンジジュースをストローで飲まされる。
そして食事が終わると、男は俺の口元を丁寧にハンカチで吹いた。
「……何が目的なんだ…」
食器を運んでいこうとする男の背に話しかけた。聴こえなくてもいい。独り言ような小さな声だった。
「さぁ。何だろうな」
男は聞こえたらしく、立ち止まることなく答える。
「……辛くないのか」
俺が続けると今度は立ち止まり、俺を見据える。まさか振り返るとは思わなかったので、俺は視線を逸らした。
「何が」
「………」
男の質問に俺が応えないでいると、男は、また前を向き、歩きながら、
「ガキに突っ込むほど、苦労してないんでな」
鼻で笑った。
「……じゃあ、なんでこんなことするんだ」
男は答えることはなかった。代わりに返ってきたのは、重たい扉がガタンと閉まる音だけだった。続く鍵のかかる音に、俺は虚しさ以上の何かを感じた。
今俺の目の前で、食事の準備をしている男は俺の名前を一度も呼んだことがない。確かこの部屋に監禁される前に名乗ったと思うのだが、男は俺の事を「カミサマ」と嘲くように言うだけだ。勿論、「カミサマ」扱いをされたことなどない。
鉄のプレートに乗った食事内容を見て、今は朝だと気付く。何のこだわりか知らないが、男が運んでくる食事は一日三食それぞれ違っていた。しかも朝はパンに目玉焼き、昼は白米に焼き魚など無駄に手が込んだ内容のもので、監禁しているなら「それなり」のものを出せばいいのに、と思ったりもした。それにしても、男は無精ひげを生やし本人自身も痩せ気味だ。どうにもこの食事をこいつが作っているとは思えない。この部屋以外のどこかに他の誰かがいるだろうか。
ここは部屋というより、倉庫みたいな感じだった。白いコンクリートの壁と床。俺が拘束されている場所からは置物などは見えない。あるのはこの拘束椅子と、食事を置くテーブルだけだ。窓も時計もない。俺が監禁されて五ヵ月程、と分かるのは男がたま携帯電話を触る時にちらりと目に入る時間を覚えているからだ。
この時、情けなく思うことがある。時も神が人間に与えたものだ。それが今となっては、人間が発明した機器に時間を教えてもらうとは。
「食え」
「……」
男がスープを掬ったスプーンを俺の口前に持ってくる。
毒物が入っていないことはこの五ヵ月で分かっている。
それでも俺が恐る恐る口を開くと、男は乱暴にスプーンを突っ込んできた。
コーンスープの濃い味が口中で広がる。味わった俺の喉がごくんと動いたを確認すると、男はスプーンを俺の口内でゆっくりと動かし始めた。
「ふぅ……あぅふぅ…」
歯の裏をなぞられ、舌の上でもどかしく転がされる。スプーンにはもう一滴もコーンスープは残っておらず、口の中にはサビの味が広がる。
「……フェラは教えた覚えはねぇんだけどな。随分エロい顔すんじゃねえか」
下衆な笑みを含んで言った男の言葉に俺はハッとした。
「あ……」
「そんなつもりじゃ、みたいな顔だな。まぁどうでもいいが」
また嬲りを受けると思ったのだが、男はあっさりと受け流して、またスープを俺に食わせようとする。俺は一瞬戸惑ったが、二口目をすすった。
「うまいか?」
「……」
「あついのか?」
「……んん」
俺は首を振って、否定する。男はそうか、と言ってスプーンを置き、今度はパンを千切ろうとする。
これ、だ。
俺は食事の時間が嫌いだった。まだ凌辱されている間の方がマシだった。
男はこうしてたまに、俺を心配しているような、「やさしさ」を見せる。神を犯すという冒涜者なのにどこか隙をみせるのだ。それは勿論優しさではないかもしれない。油断した俺を更にどん底に突き落とすためにわざと「振り」をしているのかもしれない。だから罵声を浴びせ、言葉で責めてくる性暴力の時の方が、妙な勘繰りをしなくていいから忌々しくも、マシなのだ。
食べやすいようにと男が千切ったパンを食べ、ぬるめのコーンスープをすすり、オレンジジュースをストローで飲まされる。
そして食事が終わると、男は俺の口元を丁寧にハンカチで吹いた。
「……何が目的なんだ…」
食器を運んでいこうとする男の背に話しかけた。聴こえなくてもいい。独り言ような小さな声だった。
「さぁ。何だろうな」
男は聞こえたらしく、立ち止まることなく答える。
「……辛くないのか」
俺が続けると今度は立ち止まり、俺を見据える。まさか振り返るとは思わなかったので、俺は視線を逸らした。
「何が」
「………」
男の質問に俺が応えないでいると、男は、また前を向き、歩きながら、
「ガキに突っ込むほど、苦労してないんでな」
鼻で笑った。
「……じゃあ、なんでこんなことするんだ」
男は答えることはなかった。代わりに返ってきたのは、重たい扉がガタンと閉まる音だけだった。続く鍵のかかる音に、俺は虚しさ以上の何かを感じた。
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