ようこそ、むし屋へ  ~深山ほたるの初恋物語~

箕面四季

文字の大きさ
32 / 69
ほたるの記憶 ~中学生編~

もも様の恋のお悩み相談

しおりを挟む
 味もわからないままクッキーの試食が終わり、ぼうっと片づけをしていると「ほたるっち、放課後時間ある?」とももちゃんが近寄ってきた。

「顧問の先生から、部活後に職員室で手伝いして欲しいって言われてるのー。紗良っちは今日ピアノのレッスンでしょ。ほたるっち一緒にできない?」
「うん、大丈夫」

「そっか。それなら、私は先に帰ってるね」
「ごめんねー、紗良っち。明日は一緒に帰ろうねー」とももちゃんが手を合わせた。

 片付けを終えた部員たちがわいわい去って行く。

 調理室の施錠は部長の役割なので、みんなが帰るまでほたるはぼんやり窓辺の椅子に座って外を眺めていた。
 紫色になった空は寒そうで、部活が始まったばかりの頃よりもアカトンボの数も減っている。
 いなくなったアカトンボたちはどこに行ったんだろう。
 
 篤が好きと言った紗良に、ほたるはつい「応援する」と言ってしまった。
 篤とは幼馴染で、それ以外の感情はないと言った手前、そう言うしかなかった。

(紗良が篤に告白したらどうしよう)
 考えただけで、胸が苦しくなる。

「おまたせ! 帰ろっか」とももちゃんが言った。
「職員室は?」

「嘘に決まってるでしょ。もも様の恋のお悩み相談へようこそ。暗くなるし、話は帰りながらしよっか」と、ももちゃんがウィンクして、歩き出す。

「に、しても、紗良っち、さすがに不意打ちだったよねー。でも、ほたるっちも本当は紗良っちの気持ち知ってて、知らんぷりしてたでしょー」
 こくり、と、ほたるは正直に頷いた。

 知っていた。

 だから、わざと篤と仲がいいことを見せつけて紗良を牽制していたのだ。
 自分では告白する勇気がなかったから。

 篤は女子に人気だけど、顔が可愛いだけで付き合うほど軽薄じゃない。
 あとは、紗良さえアクションを起こさなければ、ほたるのポジションは揺るがないと、打算があった。

「とにかく、ほたるっちの本当の気持ちを紗良っちに伝えて、正々堂々戦いなよ。紗良っちはあれで、行動力ある子だよー」
「……知ってる」

 紗良はやると決めたらやる子だ。篤と同じで。
 ほたると違って、紗良はいい子で、綺麗で、頭も運動神経もよくて、将来の夢もあって。

 バシンと、ももちゃんがほたるの背中を叩いた。

「あのね、ほたるっち。確かに紗良っちは可愛い。むっちゃ可愛い。頭もいいし、運動神経もいいし、おまけに性格もいいよ。ど天然だけど、そこも含めて男子は萌え萌えする。はっきり言って最強だよ……最強だな」
「ももちゃ~ん、これ以上あたしの心をえぐらないでぇ」

「でもさ、一つだけ、紗良っちよりほたるっちが勝っているところがあるんだよね」
「ど、どこ?」
 藁をもすがる思いで尋ねる。

「年月」
「はい?」

「だからぁ、ほたるっちは篤君の幼馴染みで、紗良っちより一緒に過ごした時間が長いでしょ? しかも篤ママとも仲良し。『母親同士のつながりが、幼馴染みの強み』と、かの有名なお方もおっしゃっていた」
「かの有名なって、さなえちゃんじゃん」

「あのお方は、恋愛に興味なさそうな顔して、さっくり彼氏作っちゃう恋愛のカリスマですわよ」
「確かに……」

「でしょー。だから、頑張れほたるっち。玉砕したら、あたしが慰めてあげるから」
「フラれる前提?」

「人の不幸は蜜の味」
 むふふと笑うももちゃんに「ありがとう。なんか元気出た」と、ほたるも笑った。

「あたしはほたるっちも紗良っちも好きだから、どっちの味方もしたいし、どっちの応援もしたい。だから恋のライバル宣言して、正々堂々と篤君の愛をかけてドロドロしなよ。あたしは、その泥沼愛憎劇から新作お菓子のインスピレーションをもらうのだ」

 ももちゃんはにたりと悪そうに笑ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...