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むしコンシェルジュの業務

そっくりすぎる二人

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「オレの苗字と名前をそんな風に解釈してくれた人間に、未だかつて出会ったことがない。残念ながら向尸井はただの苗字だが、君はなんて、アメイジングなキッズだ! 感激で、な、涙が……」
 失礼、と言って、向尸井さんが、ジャケットの内ポケットから真っ白いハンカチを取り出し、目元を拭う。

「最近は、あそこのアホウのように、虫と無関係な人名と間違えられることが多くてな。ほとほと嫌気が指していたところだったんだよ。そうだよな、おさむと言ったら、手塚治虫だよな! 君、記念館は行ったことあるか?」

「もちろんっす! 虫マニアなら一度は行きたい聖地っすよね。特に自分、手塚先生が手書きした昆虫の絵が並んでる常設展示が好きっす。オレ、あそこで一日いられるっす。なんなら寝袋持って行って夜を明かしたいっす!!」

 何故か体育会系の口調になった優太君が、ハイテンションに手を差しだす。
 その手をがしっと握りしめる向尸井さん。
 なんだ、これ。
 
「気が合うな。オレも常々、あそこで夜を明かしたいと考えていた。なら、オサムシのオリジナルムービーを観たことは?」
「めっちゃ深いっすよね! オレ、一日に六回見ました」
「オレもだ!! あれは大傑作だよな」

 向尸井さんも「私」から「オレ」になってるし。

「あっれぇ~、むしコンシェルジュが仕事放棄してるぅ~」
 碧ちゃんがニヤニヤ冷やかした途端、はっと我に返った向尸井が「こほん」と一つ咳ばらいをして、着席した。

「大変失礼致しました。私としたことが、ついつい興奮してしまいました」
(「私」に戻った)

「では、続きをお話致しましょう」
 あっという間に切り替えて、両腕をテーブルの上で組む向尸井さん。

「当店はむし屋でございます。原理は質屋に似たものとお考え下さい。お客様は、質をご利用されたことはございますか?」
 優太君もすとん、と着席。

「ないですけど、自分の身の回りのものを担保にしてお金を借りるんですよね。で、期日までにお金が返せないと、預けたものが『質流れ』になっちゃうって、前に塾の社会でちょっとやりました」
 向尸井さんに合わせて、丁寧な返答に戻っている。
 この二人、瞬時に二面性を使い分けるところもそっくりだ。
 虫好きで、二面性があって、賢い。
 優太君って、実は向尸井さんの隠し子なんじゃ、と、ほたるは勘繰る。
 そんなほたるの視線には気づかず、向尸井さんが上品に頷いた。

「その通りでございます。むし屋も質屋同様、むしを担保にお金を融資することが可能です。返済期限は、むしの寿命などを考慮して決定します。また、むしの買取りも行っております。こちらはリサイクルショップの原理とお考え下さい。買取りの場合は、むしをお客様の体内から取り出し、その場で査定して買取り金額をご提示致します。金額にご納得頂ければ即日買取り、ご納得頂けない場合はもう一度むしを体内へ戻し、そのままお帰りいただきます。ただし、当店では16歳未満のお客様に関しましては、金銭の授受ができませんので、むしむし交換のみ、承っております」

『むしむし交換?』
 優太君とほたるの声が重なった。
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