ミロス公爵の独白〜君の愛こそが本物だとやっと気づいた〜

早乙女 純

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オレリアがミロスに送った手紙

聖暦1256年3月21日

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 親愛なるミロス様へ

 拝啓 軽暖の候、春の訪れを感じさせる温かい日の光と共に菫が咲き誇る時期となりました。ミロス様は如何お過ごしでしょうか。ご存知だと思われますが、私は現在隣国の学園におります。あなたさまと会えない日々に悲しみを覚えております。しかし、陛下直々の推薦であるため私はこの留学を投げ出すことはできません。私のミロス様への想いが募るばかりでございます。さて、本国ではそろそろ聖祭が開かれる時期と存じます。幼少期はよく二人で遊んだことを覚えております。ミロス様もこの日ばかりは楽しみしておられて私といっぱい遊んでくださいました。街の屋台で食べ歩きをしましたし、ダンスも踊りました。聖祭の時は眉間のしわを常時つけていらっしゃたミロス様の顔も私や他の子供と変わらないほどキラキラとしておりました。ミロス様は公爵家の嫡男として辛い勉強ばかりの日々をお過ごしでした。私はそのようなあなたさまの姿を拝見して私もさらに精進いたしました。そのような勉強に追われる日々を送る私たち二人でしたが、聖祭の日だけが私たちがただの子供でいられた時間でした。とても楽しい日でございました。そしてある程度の歳になるとミロス様が私をエスコートして下さって夜会に参加しましたね。幼かった日々のような楽しさはありませんでしたが、ミロス様が私をまるで繊細なガラス細工を扱うようにエスコートして下さる数少ない機会であったので私は聖祭を毎年楽しみにしておりました。もちろん、平時では雑に扱われていたなどと口にする気はございません。しかしながら、その時には私たちはライバルのようなお互い競い合う間柄になってしまっていたのでございます。あなたさまにとっては邪魔者でしかないような存在に私は成り下がってしまいました。ですが、だからといって手を抜くということはできませんでした。それはあなたさまに対する冒涜になってしまうからでございます。私はそのようなジレンマに陥りました。さらに私はあなたさまの前で自分の想いをさらけ出せないということに気づき苦悩の日々を過ごしておりました。私たちはそのようなあまり仲の良いと呼べない状況にございましたが、唯一聖祭では、ミロス様は私をただの淑女と扱って下さったのです。そのような私にとって素晴らしい日である聖祭でございますが今年は私は参加することが叶いません。誠に残念で仕方ありません。そこで私が気になったのが今年の聖祭では、ミロス様はどなたをパートナーにお選びになられたかということでございます。やはり、アリア嬢でしょうか。私が留学をする前にはすでにアリア嬢が貴方様のそばにいらっしゃったと存じます。私はミロス様とアリア嬢の情事を聞くたびに嫉妬心が燃え上がりました。気が狂いそうなほどアリア嬢を嫌悪してしまうこともありました。しかし、これも必然であると思う自分もおりました。可愛げのなく生意気な私と可愛らしくミロス様を持ち上げることのできるアリア嬢。比較対象にもなりません。ですが、私はミロス様の婚約者です。さらには長い時間を共にしてきたのです。この絆を簡単に越えられる訳はずがないと思いながら、それを心の拠り所にして日々を過ごしております。ミロス様がこの手紙をお読みになり、私の心の声が届いて欲しいと願うばかりでございます。もしよろしければ手紙を書いて頂けませんか。差し出がましいお願いであるということは理解しております。しかし、言わずにいられません。あなたさまに私の想いが届いているという自信が私にはないのでございます。ぜひお願い致します。



                                                                                                                                     敬具     
                                
                                                   聖暦1256年3月21日
                                         
                             あなたさまを深愛しているオレリア・ド・ローラン
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感想 1

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みんなの感想(1件)

鴨南蛮そば
2020.10.10 鴨南蛮そば

公爵は気づけて良かったですね。他視点も気になりました^ ^

2020.10.10 早乙女 純

コメントありがとうございます。本当にそうですね。自分が犯した過ちに気付けない人がいる中、公爵はよく気づいた!と言う心境です。他視点は今執筆中ですのでもうしばらくお待ちくださいませ。

解除

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