盲いた王子と悪役令嬢

早乙女 純

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ヴァーデル領編

村長宅の食卓で

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 私がログハウス風の村長宅で木の香りと雰囲気を楽しんでいると、アンナがノックをして入ってきた。

「お嬢様。夕食の準備が整いました」

「わかったわ。ヴァーデル領の料理が楽しみだわ」

 私はどんな未知の料理が出てくるのか楽しみだった。私がこの世界に生まれてから、この旅で食べたサンドウィッチを除けば王都の料理のあまり美味しくない料理しか知らない。だから、私の食の探求欲ここ最近で鰻登りになっていた。今まで抑圧していた分が押し寄せてきたのだろう。私はルンルンで食卓に向かった。

 食卓にはすでにアルベール様は席に座っており、その後ろにはアンドレが立っていた。村長夫婦は私を待っていたのか立っていた。私が食卓に近くと

「さぁ、こちらへどうぞ」
 
 と村長がアルベール様の隣の席を施した。私はその席に着き、テーブルにある料理を見た。テーブルには底が深い器にシチューのようなものが入っていた。それから鶏に似た鳥の丸焼きがあった。他にも判断もつかない食べ物などがテーブルに並んでいた。私がこの世界で初めてみる料理ばかりだった。早く食べたいという思いに駆られていた。しかし、村長が挨拶をし出したのだ。

「えぇ~、第一王子殿下並びに婚約者様におかれましては、この度はこのような辺境の地にお越しいたしまして大変ありがとうございます。また……」

 話がひたすら長い。私がぐったりしていることに気づいたのか村長の奥様が

「あなた! お二方が困惑なされいますわ! 早く夕食にしましょう!」

 と言って、村長も私たちの表情にやっと気づいたのか気まずそうに話をしめた。そして早速、私はそのシチューのようなものに手をつけた。スプーンでそれをゆっくりと沈めた。すると中には何か具材が入っているようだ。私はシチューを少し避けて中身を見てみるとそこには米らしい粒々が無数に見えた。私はすぐにそれをスプーンで掬い口に含んだ。噛み締めて食べるともっちりとした感触にシチューがかかって分かりづらいが僅かに米の甘みのようなものを感じた。私は一心不乱にその料理を食べた。すぐになくなり私が満足しているとアルベール様がまるで小さい子を見るような微笑ましいと言わんばかりの温かい目で私を見ていた。私は恥ずかしさを覚え、下を向いた。そのとき、私は茹で蟹のように真っ赤になっていたことだろう。すると村長の奥様が

「すごく気にいっていただけで良かったです」

 と言った。

「えぇ、とてもおいしかったです。まるで昔を思い出すような味でした。ちなみにこのシチューの下にある穀物は何でしょう?」

 私は気を取り直して一番気になることを聞いた。

「これは米という食べ物です。遠い昔にここに訪れた旅人がここら辺で自生していた米の食べ方と育て方を伝えたと聞いています」

「その方について詳しく教えて頂けないでしょうか?」

 私は、私と同じ転生者の可能性を感じてついそう聞いてしまった。すると今度は村長が答えた。

「私も詳しくは知りません。なんせ昔のことで真偽も確かではありません。その旅人がここに住み着き、それからここらではこれが主食になったという話を私が幼い頃に聞いたくらいです」

 村長の奥様も首を縦に振り村長と同じようだ。

「……そうですか」

 私は少しがっかりした。だけど、これからここで暮らすことになる私は、つまり毎日ご飯を食べることができるのだ。誰が伝えたのかは分からないが、私はその人に感謝した。その後も私は料理を楽しんだ。
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