婚約者は私を愛していると言いますが、別の女のところに足しげく通うので、私は本当の愛を探します

早乙女 純

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十四話

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 私は今、馬車に乗りベルラント様が住うノートン公爵邸に向かっていた。どうしてそのような事になったかと言うと、昨日カミラの提案通りお母様にベルラント様に夜会でエスコートしてもらえないか手紙をお願いしたときのことだ。

~昨日のアーレンス邸にて~

 私はカミラのお茶会を終えて屋敷に戻るとすぐにお母様の部屋に来ていた。お母様はいつも通り紅茶を飲みながら小説を読んでいた。

「お母様。お願いがあるの」

 お母様は小説にシオリを挟み私の方を見て、

「あら、アデリナが私に頼みをするなんて珍しいわね。何かしら?」

 キラキラした目でそう言った。いつも私はお父様ばかり頼るものだから、私が頼ってくれたのが嬉しかったのだろう。

「はい、リシャール公が開かられる夜会のことなのですが……」

「あぁ、あの話ね。お兄様が御存命であったなら、そのような暴挙なんて絶対に許さなかったのに!」

 お母様は眉をひそめてそう言った。お母様のお兄様、つまり先代ノートン公爵は軍事貴族のトップであるノートン家の当主にも関わらず、その優秀さを先代皇帝陛下に見込まれて宰相を務めていた方だ。そして、伯父様が宰相を務めた時代は日の沈まない国と呼ばれるほど帝国は栄華を極めたのだ。しかし、今代の陛下が即位されたあとすぐに持病を拗らせてそのまま亡くなってしまわれたのだ。そして、皇帝陛下至上主義のリシャール公を制御できる人物がいなくなってしまったのだ。リシャール公も悪いお方ではないのだ。伯父様が御存命の時は伯父様が上手く扱い、リシャール公は帝国の三本柱の一人と呼ばれるほど優秀なお方だったのだ。しかし、今は手綱がなくなり自分の考えのままに自由奔放に動き回る馬と同じような状態になってしまったのだ。

「えぇ、伯父様が御存命であれば帝国が斜陽の国と呼ばれることもなかったでしょう」

「そうね。今上陛下は浮世離れしたお考えをされるお方だから、誰か現実的な考えをお持ちの方が陛下の側についてくだれば良いのだけど……」

 私たちはため息を吐いた。私は最近ため息ばかり吐いている気がする。それも仕方ないことだろう。結婚適齢期になり、問題が山ほど浮上して来たのだから。お母様は一度紅茶を口に含み喉を癒してから

「それで、私にお願いごとについてだけど、何かしら?」

 と話を戻した。

「えぇ、その夜会でパートナーを探していまして。その、もしベルラント様もご出席されるならパートナーになっていただけないかなぁと思い、そのための手紙をお母様に書いていただきたいと思いまして」

 お母様はさっきの五倍増しで目をキラつかせていた。

「まぁ~! それはいい考えだわ! ベルトラント様には婚約者はいないし、きっとベルトラント様もお喜びになるわ。さて、すぐに誰かをノートン邸に向かわせないと!! 誰か~!」

 お母様がそう言うと勝手にどんどん話が進んでいき、その日のうちに使いの者をベルトラン様の元に送られた。そして、ノートン邸に行く事になったのだ。


~~~~

 これが昨日あったことの全てだ。お母様はとてもロマンティストで少女趣味なのだ。私の話を聞いてきっと今頃には私とベルラント様の結婚まで思い描いているに違いない。ついため息が溢れてしまいそうになる。ベルラント様はきっと私のことをなんとも思っていないし、私もベルラント様と私が釣り合うと思っていない。相手は帝国トップクラスの家柄でしかも当主なのだ。私以外にもっと相応しい令嬢はいる。ベルラント様はまさに高嶺の花なのだ。今回は血縁の伝でたまたま接点を作ってもらえただけなのだ。お母様の妄想と同じことが起きるとは思えない。私は少しぐったり気味に外の景色をボッーと眺めた。馬車は世界一大きいと噂の帝城に近づいて行った。さすが公爵家である。帝都の中心にある城の側に屋敷を与えられているのだ。そしてノートン邸の門まで着き馬車で通り抜け、ずっと真っ直ぐ進んでいくが全然屋敷が見えて来ないのだ。とてつもなく広い。かれこれ数分立ちやっと屋敷が見て来た。その屋敷はお城と言ってもいいくらい大きく私は圧倒された。馬車が屋敷の前に止まった。私は御者に手を借り馬車を降りた。屋敷の前には年老いた執事と数人のメイドが立って待っていた。

「ようこそ、おいでくださいました。私はノートン家に務めておりますアルマンと申します。何卒よろしくお願い致します」

 と綺麗な礼をした。メイド達もアルマンに合わせて礼をした。私は、

「この度は急な訪問で申し訳ありませんでした。私がアデリナ・フォン・アーレンスでございます。よしなにお願いします」

「えぇ、あなた様のお母様であらせられるアンジェリーヌ様から話をよく聞いております。では、旦那様がお待ちですので、中へお入りくださいませ」

 アルマンが手を屋敷のドアの方に向けそう言うと、メイド達がドアを開けた。私はアルマンの後に従って屋敷の中に入るのだった。
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