婚約者はママのいいなりだったので、婚約を解消できて幸せです。

一話

　「何度言ったら分かるのかしら？　我がボウマン家は、お宅と違って名家なのです。あなたのやり方ではダメといっているでしょう！」

　ボウマン夫人は、私の頬に扇を叩きながらそう言った。自分の子分を集めたお茶会の場でだ。私をいびるためにわざわざご苦労なことだ。子分共は、私を嘲笑している。なにが楽しいのやら。

　「申し訳ございません」

　私は頭を下げた。

　「はぁ、なんて出来の悪い娘なのかしら。もっといい娘はそこら中いるのに。アルナウトが可愛そうだわ」
　「おっしゃるとおりですわ！　このような方がボウマン家に嫁ぐなんて私たちのときではありえませんでしたわ」
　「ほんとにそうだわ。大した領地も持たない零細貴族の嫁なんてありえないわ」

　ボウマン夫人は、今日も絶好調のようだ。私の家と私のことをネタに何時間も子分共と話しているのだ。子分共は、ボウマン夫人をおだてて、ボウマン家を持ち上げて私を罵る。本当に困ったものだ。こんなつまらないお茶会に誘われる私の身にもなってほしい。私は出そうになったため息を飲み込み頭を下げ続けた。いつも通り不毛な時間だ。はやく終わらないかぁ～。そんなことを思いながらガミガミおばさん達の話を聞き続けた。

　日が空の真ん中に辿り着いたころ、お茶会の場に背丈の高い男の人が現れた。

　「只今、戻りました。母上」

　どうやら顔だけ男のアルナウトが戻ってきたようだ。私は顔を上げて彼を見ると、大好きなママンと熱い抱擁をしていた。彼はご自慢のママと同じ金髪が乗っかる頭を撫でられてご満悦のようだ。毎回この光景を見ると口がひん曲がりそうになる。

　「お帰りなさい！　私のアルナウト。　今日はどうだったかしら」
　「変わりなくお勤めを果たしてきました。母上はお変わりありませんでしたか？」
　「えぇ、いつも通りよ～。　だけど、エリステルさんは何回言っても私の言っていることをわかってくれないのよ！　あなたからも言ってあげてちょうだい！」

　アルナウトは不機嫌そうに私のほうを見て言った。

　「エリステル！！　何度言ったら分かるんだ。　母上を困らすなと！！」
　「申し訳ございません」

　私はまた謝罪をした。これがいつもの流れだ。いわゆるルーティンというやつだ。こう言っとけば、後はあちらで勝手に私の悪口を言い合って終わる。これが最善。私も初めはこうではなかったのだ。アルナウトにこの理不尽を訴えたこともあった。しかし、彼にとって重要なのはママで、私は自分の亡き父親が選んだ人に過ぎない。一度も私の話を聞いてくれることはなかった。いつも一言「お前が悪いのだろう」と勝手な予測で片付けるだけだ。

　今日も私はいつものように彼らが楽しそうに話すをただただ眺めるのであった。