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三話
しおりを挟む貴族街の一番外側に位置する場所にこじんまりとした屋敷がある。他の屋敷と比べて派手さはないが、屋敷の周囲に配置された草花木で彩られている。この情景を分かる者が見れば、素晴らしいの一言をこぼすこと受け合いの屋敷である。それが我が家の王都での屋敷だ。
私はお父様の執務室にいた。今日あったことを相談するためだ。
「どうしたものか。困ったものだ」
「えぇ、本当に困りました」
「どちらにしてもこちらからは動けん。先代がご存命であれば、このような厄介なことにはならなかったものを」
「そうですね。先代様は素晴らしい方でした。あの方がご存命のころはこのような仕打ちはありえませんでしたわ」
私達はため息を吐いた。ボウマン家の先代が亡くなって3ヶ月にしてこれなのだ。かの御仁はこの国に珍しく新参である我が家にも誠実であったのだ。新参と言っても我が家はこの国ですでに400年の歴史があるのだ。しかし、私達が属するアーシャル王国は2000年の歴史を誇る栄えある大国である。つまり、この国の貴族はそれに見合った歴史があるのだ。それに我が家やこの国で珍しい平民上がりの貴族である。だから、なおさら風当たりが強いのだ。
400年前にこの国で起きた謀反があったときに王太子を助けた私達の先祖がその功で叙爵されたのである。具体的に言うと、旅の薬師であった先祖が毒矢で死にかけていた王太子を助けたのである。そして、謀反は失敗に終わり王太子は王となり、先祖は爵位と山岳地帯の平地がほとんどない領地を賜ることになったのだ。先祖は爵位をもらうのが嫌だったようだが、断れるはずもなく辺境で暮らすことになった。かなり大変な思いをしたと日記に書いてあった。しかし、幸いなことに先祖には薬師として天才であった。さらに世界中を旅して得た知識と種があったのだ。それを元に山奥で薬園を作った。そして400年間、改良と研究を重ね、我が家の薬はこの国で重要な役割を担うことになったのだ。
「何はともあれもう少し様子見が必要だ。エリはもう少しこちらの屋敷に残りなさい」
「……ですが、新しい薬草の効能調査があるのです。早く戻ってやらなくては! 他の家に越されてしまうやもしれません」
私は、不貞腐されて言った。早く私のユートピアに戻りたかったのだ。いつもであればもう社交の季節は終わって領地へ直行だった。そして、研究三昧の生活が送れるはずだったのだ。
「そんなことを心配しなくても大丈夫だとお前一番理解しているだろう? 誰も我が家に敵う薬園を持った貴族はいない。それに残念ながら、断れない筋から夜会の誘いが来ている。出席しなければいけないぞ」
「……」
私はお父様と視線を合わせた。しかし、お父様の眼力に耐えられず私は頷いた。
「さて、今日は休みなさい。いろいろあってお前も疲れているだろう」
「はい」
私は執務室を退出し自分の部屋に入った。そして、ベッドに倒れ込み一息ついた。今日、私にかかっていた枷が一つ外れたのだ。あのマザコン野郎から開放されたからだ。あれはない。あのような人とは上手くやっていける自信もなければ、そんな自信もつけたくない。元々、我が家はあまり乗り気ではなかったのだ。しかし、うちはボウマンの先代には義理があったから、婚約することになってしまった。それが今日無くなった。私は頬が緩んでいる感覚を感じた。
「私は自由だ~」
何となく声を出してみた。心がすっーと浄化されるようだ。これからが楽しみだと思いながら目を閉じて思いを馳せるのであった。
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