6 / 156
第一章 修行編
第二話 妹よ、俺は今異世界を学んでいます。
しおりを挟む「トキオ様、朝食の準備が整いました」
昨晩は夕食後入浴もせず寝てしまわれたようだ。復活したばかりで慣れぬ異世界、さぞお疲れになったご様子。
「トキオ様、おはようございます」
返事がない。朝は苦手なのだろうか。
「トキオ様、トキオ様」
おかしい。何かあったのか。
「トキオ様、トキオ様!」
ドアをノックしながら大声で呼びかけても反応がない。
「トキオ様、失礼します」
慌てて部屋に入ると、トキオ様は床に這い蹲っていた。
♢ ♢ ♢
「トキオ様、如何なさいました。トキオ様」
「うぅ・・・カミリッカさん・・あれ・・」
カミリッカさんが焦った様子で駆け寄ってくる。なんで俺、床で寝ていたんだっけ・・・
「トキオ様、大丈夫ですか」
「はい・・・あ、そっか・・・昨日、風呂に入る前に魔力を使おうと思って・・・」
思い出した。「創造」で割り箸を作ったら気絶したんだ・・・そのまま寝ちゃったのか。
「すみません。魔力枯渇で気を失ったまま寝ちゃったみたいです」
「無茶をなさらないでください。何を作られたのですか?」
「無茶なんてしていませんよ。ええっと・・・」
周りを見渡す。たしか、ちゃんと出来上がった筈・・・あった。
「ほら、これです。割り箸を作っただけです」
「なんという無茶を・・・」
「いやいや、ただの割り箸ですよ」
「今のトキオ様の魔力で作ることができるのは、せいぜい歪な形の泥団子くらいです」
「えっ、マジっすか?」
「マジです」
歪な形の泥団子って、手で作った方が早くないですか?大丈夫か「創造」さん・・・
「とりあえず朝食を・・・その前に入浴なされますか?」
「あ、はい・・・そうします」
恥ずかしい。カミリッカさんの顔をまともに見ることができない。どうしてこうなっちゃうかなぁ・・・幸運のステータスが低いからか?
あー、お風呂気持ちよかったー。
朝ごはんも激ウマ。シジミの味噌汁サイコー!
へへんだ。もう何も怖くないぞ。かける恥は全てかいたもんねーだ。
風呂に入る前まで気付かなかったが、前世で死んだとき葬式の帰りだったからずっと喪服を着ていた。そりゃ運にも見放されるよ。
カミリッカさんが用意してくれた真新しい異世界仕様の服にも着替えたし、靴もかっこいいブーツに履き替えた。
午前中は異世界の常識や習慣についてだったな。気分一新頑張るぞー!
「それではこの世界の常識を説明します。先ずは暦から」
国家や身分制度からと思っていたがもっと根本的なことからカミリッカさんの講義は始まった。自分がこの世界のことを何も知らない雛鳥同然の存在なのだと改めて思い知らされる。
小学一年生に戻ったつもりでしっかり学ぼう。足し算、引き算が出来るようになってから掛け算、割り算。掛け算、割り算が出来るようになってから一次方程式、二次方程式。いきなり微分積分は出来ないのだ。
今日の講義は暦と通貨がメインだった。
通貨に関してはすんなり受け入れられた。
一般に流通している通貨は銅貨、銀貨、金貨の三種類。銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚。一般的な食堂での昼食代が平均で銀貨一枚とのことなので日本円にして千円くらい。銅貨が百円、金貨が一万円くらいの認識でよさそうだ。
他にも白金貨がありこちらは一枚で金貨百枚と同価値。日本円にして百万円だ。貴族や国家間の取引などで使われるらしい。
面倒だったのは暦の方。
一年は十二カ月で、一週間は七日。前世と同じだが偶然ではない。なんでも創造神様が先輩の世界、そう、俺が居た世界の創造神様を見本にしたらしい。
問題は曜日。前世の月火水木金土日がこちらでは火水風土光空時となる。魔法の属性からきているものだが闇は縁起が悪いので無い。
前世の月曜がここでは火曜、火曜が水曜、木曜が土曜になる。なんとも紛らわしいが曜日など大した問題ではないと軽んじてはいけない。
前世での俺が、異世界人が居るなんて考えた事が無いように、この世界の人達にも異世界人が居るなんて考えは無い。だが、転移、転生した人は居るのだ。
俺がこれから踏み出そうとしている時代に居るかはわからないが、居るものと考えて行動すべきであり、その場合曜日を頻繁に間違えるのは正体を晒しているのも同然だ。
異世界から来た者にはもれなく特典が付く。俺だけが特別ではない。
カミリッカさんが教えてくれることに無駄なんて無い。俺がこの世界で生き残るために必要なことだと気を引き締めて受講しなくては、生存確率は確実に落ちる。
お昼ご飯のきつねうどん美味しかったー。
午後からは戦闘訓練だ。やったるでー!
「結界の外に出ないよう注意しながら、私がいいと言うまで走ってください」
「はい」
言われた通り整地された結界内を走る。ランニングは全てのスポーツで基本だ。
「何をしているのですか。全力で走ってください」
「全力疾走ですか。すぐにバテてしまいますよ」
「いいから言われたとおりにする!」
「は、はい!」
怖っ!戦闘訓練中のカミリッカさんは鬼教官モードになるのか・・・
陸上競技でも最初から最後まで全力疾走するのは200m走までだ。トラック一周の400m走でもペース配分をする。案の定三十秒ほどで限界が来た。
「ヒール」
「えっ、魔法?」
「休まず走る!」
「はい!」
その後も全力疾走は続く。バテそうになるたび魔法で回復され、結局一時間以上も全力疾走は続いた。
「次は腕立て伏せ」
「ちょっと休憩を・・・」
「かまいませんが、休めば休むだけ旅立つ日が遅くなりますよ」
「や、やります・・・」
鬼だ。鬼教官だ。やってやるさ。自分の為だ。
「いーち、にーい、さーん、よーん、ごーお、ろーく、しーち、はー・・・・」
「ヒール」
「・・・ち、きゅーう、じゅーう、じゅーいち、じゅーに、じゅーさん、じゅーよん、じゅーご、じゅーろ・・・」
「ヒール。数なんて数えなくてもいい、無心でやる!」
「は、はい!」
終始こんな感じで腕立て、腹筋、スクワット、それぞれ一時間。千回以上やったんじゃないか。
「今日は初日ですのでこれくらいにしましょう。当分は基礎体力の強化のみを行います」
「・・・はい」
限界が来る度、ヒールで回復するので肉体的に疲れはないが、精神的にもの凄く疲れた。
それにしても驚くべきはカミリッカさんの魔力量。ヒールを千回以上は使っている筈だが魔力枯渇する気配がまるでない。
「汗を流したいと思いますが、運動後の食事は体作りに効果的ですので先に夕食にしましょう」
「了解しました、教官」
「トキオ様、私のことはカミリッカとお呼びください」
「・・・はい」
晩御飯も美味しかったー。
カミリッカが作った野菜炒め、サイコー!
さてと、後はお風呂で汗を流して、「創造」で魔力使って寝るだけ。お風呂へレッツゴー!
「あのー・・・」
「いかがいたしましたかトキオ様」
カミリッカさんが隣で服を脱ごうとしているんですけど・・・
「カミリッカさんが入るなら、俺は後にします」
「いえ、トキオ様の御背中を流させていただこうと思いまして」
「け、け、け、結構です。そ、それに、背中を流すだけなら服を脱がなくてもいいでしょうが」
「こちらの方が、殿方は喜ぶのでは?」
「と、殿方って、な、な、何を言っているんですか。じょ、女性が簡単に肌を見せてはいけません」
「そうですか・・・では、夜伽の方はいかが致しましょう」
「よ、夜伽って・・・」
「そちらの処理もお任せください。なにぶん不慣れですのでご満足いただけるかはわかりませんが」
「だ、だ、だ、大丈夫です。自分で出来ますから」
「自分でなされるのですか・・・」
「だぁー、今の無し。今すぐ忘れてください」
「・・・かしこまりました。それでは失礼いたします」
「・・・・・・・・・」
妹よ、俺は今・・・恥の多い人生を送っています。
297
あなたにおすすめの小説
辺境の最強魔導師 ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~
日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。
アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。
その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ
ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた
いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう
その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った
だけど仲間に裏切られてしまった
生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい
そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー
みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。
魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。
人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。
そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。
物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる