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修行編
第三話 妹よ、俺は今現状を把握しています。
しおりを挟む風呂上がりにカミリッカさんから渡された粘土。魔力向上のため、スキル「創造」でこいつを使えとのこと。
今の魔力量で出来るのは歪な形の泥団子くらいらしいから無理せず立方体でも作るか。魔力枯渇怖いし・・・
「創造」
おー出来た。なかなか綺麗な立方体だ。魔力はどれくらい減ったのかな?
「上位鑑定」
げっ、10も減った。そりゃ割り箸なんて作ったら気絶するよ。ん・・・基本ステータス上がっている。
名前 トキオ セラ(21)
レベル 1
種族 人間
性別 男
基本ステータス
体力 23/23
魔力 19/29
筋力 20
耐久 22
俊敏 25
器用 34
知能 31
幸運 9
魔法
火 E
水 E
風 D
土 D
光 E
闇 E
空間 E
時間 D
スキル
自動翻訳10 鑑定10 交渉4 料理2 創造1 不動心1
加護
創造神の加護
魔力と器用と知能が滅茶上がっている。魔力枯渇するほどの物を「創造」で作ったからか。でも無理は禁物、安全第一。
体力系も結構上がっているなぁ。そりゃそうか、カミリッカさんのヒールがなければあんなに長時間全力疾走したり出来ないし。前世ではあり得ないトレーニング方法だ。教官殿に感謝、感謝。
おー、新しいスキルを取得している。どんなスキルだ・・・
「不動心」
不測の事態にも動じない精神。レベルに応じて動揺を抑えられる。動揺したとしても表情に出さない。
悪くない。こっちに来てから散々恥をかかされたからな。是非とも育てたいスキルだ。
さてと、残りの魔力もぎりぎりまで消費して早く寝よ。
取りあえずもう一回立方体を作って魔力残量は9。立方体より簡単なものって何だろう?
歪な形の泥団子でも作っておくか。
「はい、「創造」っと」
「おー、出来た、出来た。あれ、粘土が土に変って、ガハッ・・・」
次の瞬間、目の前が暗転し意識を失った。
♢ ♢ ♢
「トキオ様、どうして昨日と同じ格好で寝ているのですか・・・」
「すみません・・そいつを作ったら」
俺が指をさす先には昨晩最後に作った泥団子が。
「私がお渡ししたのは粘土だった筈ですが」
「そうですよね・・・」
カミリッカさんに昨晩のいきさつを話す。たしかに泥団子をイメージして「創造」を使ったが、まさか粘土から土の成分を抽出して本物の泥団子が出来るとは考えてもしなかった。
「なるほど・・・私の説明も不足していました。申し訳ありません」
「謝らないでください、これも経験です」
「たしかに経験に勝る学びはありませんが魔力枯渇は本当に危険です。中には二度と意識を回復しなかった事例もありますので、今後は十分に注意してください」
「・・・はい」
カミリッカさんのご飯サイコー!
朝からご飯も味噌汁も御代わりしちゃったもんねー
さあ、今日は周辺国家の講義だ。学ぶぞ、オー!
「本日は予定を変更して今後トキオ様に危険が及ばないよう現状を知っていただきます」
周辺国家の話は楽しみだったが二度も魔力枯渇を起こしている手前いた仕方ない。たしかに現状を把握するのは大切だ。
「まず把握しておかなければならないのが、トキオ様は前世の記憶をお持ちだということ。トキオ様が持つ物理や化学の知識はまだこの世界では解明されておらず、工業やネットワークの知識はこの世界では完全なオーバーテクノロジーです」
そうだ、この世界には魔法がある。魔法が無かった前世とは進歩の仕方が異なる。
「例えば、トキオ様は化石燃料がエネルギーに変換できることを知っています。ですが、この世界の人々はエネルギー概念すら持っていません」
魔力がエネルギーの代替えとなり魔法が科学の進歩を妨げている。しかし、前世では科学の進歩によって便利な世の中にはなったがそれと同時に弊害もあった。どちらの世界がいいのかなんて俺には判断できない。
「先日トキオ様が作られた割り箸が良い例です。この世界の人があの割り箸を見れば職人が作ったと思うでしょう。しかし、トキオ様は割り箸が工場で大量生産されていることを知っています。知らず知らずのうちに割り箸を作る工業機械や生産ラインをイメージしてしまう為クオリティーの高い物が出来上がる反面、必要以上の魔力を消費してしまいます」
そいつは厄介だぞ。この世界で「創造」のスキルを持った人に比べて燃費が悪すぎる。知識が邪魔をするなんて考えもしなかった。スキルの選択を失敗したか・・・
「現状のトキオ様にとって前世の知識はマイナスに働いていますが、いずれは途轍もない武器となるでしょう。この世界にはレベルがあり、トキオ様には創造神様の加護があるからです」
この世界にエネルギーの概念が無いように前世ではレベルなど無かった。いかに精進したとて人がチターより速く走ることも、象より力を持つこともあり得ない。だが、この世界ではそれが可能だ。人よりも大きな巨石を持ち上げることも、魔法で空を飛ぶことも出来る。それを前世では化学が補った。
「トキオ様がお持ちのスキル「創造」と創造神様の加護は相性が抜群です。魔力が跳ね上がれば大量の魔力消費に耐えられるのは勿論、知能も跳ね上がるからです。トキオ様が前世で存在は知っていても原理や構造を理解できなかったもの、前世で目にした全てのものをトキオ様は具現化できるようになります」
「ぜ、全部ですか?」
「はい、トキオ様が知りうるもの全て、スマートフォンも、マシンガンも、ロケットも、原子力発電所も、全てです」
「しかし、「創造」には材料が必要です。この世界に必要な資源が無いかもしれないじゃないですか」
「創造神様の加護により前世ではあり得ない高さの知能に前世の知識が加われば資源など無くとも代替え品を造作も無く見つけ出すでしょう。見つからなければ自ら作り出すことすら可能になります。この世界の知能は魔法の為にあるようなものです。高度な魔法を使うには高い知能が必要です。トキオ様だけが前世の知識とスキル「創造」によって高い知能を科学に使えるのです」
なんだよ、それ・・・・
そんなことが出来れば世界を変えられてしまう。そんな力を一人の人間が持っていいのか。これじゃあまるで・・・神じゃないか。
「この力を悪しき者がもてば世界は終末に向かうでしょう。ですが、私は確信しています。トキオ様であれば、決してそのようにはならないと」
「どうして、どうして会ったばかりのカミリッカさんにそんなことを言えるのですか。俺にはこの力を正しく使う自信がありません。修行を中断してください」
たしかに俺は自分自身を悪人だとは思っていない。だが、悪人じゃないからといって力を正しく使えるとは限らない。善悪以前の問題だ。
俺は知ってしまっている。遠く離れた人と話せることも、鉄の塊が空を飛ぶことも、何万人もの人を一瞬にして灰に変えてしまえることも。
無理だ・・・俺には過ぎた力だ。
「自信を持ってください。創造神様はトキオ様だからこそレベル10のスキルも、ご自身の加護も与えたのです。トキオ様ならこの力を正しく使えます」
「無理ですよ。まだ二日目ですけどカミリッカさんだって俺がどんな奴か大体わかるでしょ」
「わかっています。やさしく素直なお人柄。他者を妬まず己を律する強い心。利益を顧みず弱者に手を差し伸べられる正義感」
「だ、誰の話をしているんですか・・・」
「あなたです、トキオ様。私も神界の末席に名を連ねる者として沢山の魂を見てまいりましたが、トキオ様ほど清い魂には出会ったことがありません」
「それは妹の間違いじゃないですか?」
「いいえ、女神様の希望がなければ創造神様もこの世界の神になってほしいと打診したでしょう」
創造神様は俺に何をさせたいんだ。何を期待している。俺は妹の希望をかなえる為、充実した人生を送る為に生まれ変わったのではないのか。
「神でもなければ神界の住人でもない俺に、人々を導くことなどできません」
「そんなことをする必要はありません。トキオ様が成すべきことはただ一つ、充実した人生を送ることのみです。その過程でトキオ様が良かれと思ったことを成し、思わないことは成さなければよいのです。トキオ様のお力でこの世界にどんな変化が起きようともトキオ様が気にすることではありません。創造神様は加護をお与えになった時点ですべて受け入れておいでです」
充実した人生を送るのに、こんな力が必要か?
身を守る力だけで十分ではないのか?
本当に俺がこんな力を持っていいのか?
今ならまだ引き返せる。力を持つ前の今なら。
「トキオ様は前世で科学の進歩が何をもたらし、何を失ったかをすでに学んでいます。この力はトキオ様が充実した人生を送る中で多くの人を幸せに出来る可能性を持っています。私はトキオ様を信じています。トキオ様がこの力を悪しきことに使わないと確信しています。今、その証拠をご覧に入れましょう」
何をするつもりだ。
「己自身に誓約する。トキオ セラが創造神より受けし力を悪しきことに用いらぬと」
これは、スキル大全集に載っていた「制約」
「制約」
魔力を対価に他者を制約できる。制約を守らなかった場合は対価を払わすことができる。自分自身に誓約を課すことも可能。使用制限一日一回。
「対価は我が魂」
な、なんて無茶をするんだ。俺には散々無茶をするなと言っていたくせに。
「駄目だ。待ってください」
慌てて止めに入るがカミリッカさんは待ってくれない。
「誓約」
カミリッカさんの体が光に包まれる。止められなかった。なんてことを・・・
光が収まる。カミリッカさんはスキルを使う前と何も変わらない涼しい顔のままだ。
「どうして、カミリッカさんには何の得にもならない誓約を・・・」
「いいえ、私にも大きな利益があります」
嘘だ。そんなものある筈がない。
「女神様同様、私もトキオ様が主人公の物語を楽しみにしていますので。もしかしたら女神様以上に楽しみにしているのかもしれませんね。だって、私は既に物語の登場人物なのですから」
「だからって、こんな馬鹿げた賭けを・・・」
「こんなものは賭けとして成立していません。トキオ様が悪しきことにお力を使うことなど、ある訳がない」
そう言って微笑むカミリッカさんの顔を見て、幼いころ悪戯が成功して喜ぶ妹を思い出した。
まったく、恐ろしい師匠だ。
だが、心には火が付いた。
妹が、創造神様が、そして新たに師が、俺の物語を見ている。俺がどんな人生を送るのかを楽しみにしている。
ここまでされて臆するようで何が主人公だ。やってやる。この力で最高に充実した人生を送ってやる。
「覚悟が決まりました。これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
「はい、お引き受けいたします。それでは周辺国家の説明から」
何事も無かったかのように講義が始まった。
応援ありがとうございます!
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