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第一章 七不思議の欠片
通じ合える謎
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俺としては恐怖など感じなくても、興味はある。何故ならこの怪談話をばら撒かせたのは俺だからだ。
「そこにさ、全身が映る大きな鏡があるじゃん。ナンバー四が起こった後にその鏡を横切ると、鏡の世界からやってくる使者が横切った人間の体をコピーするんだと。俺たちに成り代わるために。そして、鏡に映った人間を殺しに来る……」
月島の声が途絶える。皆が固唾を飲んでこいつの言葉を待った。
「家に帰って誰もいないのに気配がするんだ……。いつも通りに過ごしているのに、何だか胸騒ぎがする。ふと後ろを振り返ると……」
「振り返ると!? 振り返ると!?」
千堂が腰を浮かせた状態で月島の言葉を復唱するので、千堂の後ろの席の生徒が落ち着け、と言わんばかりに彼を椅子に座らせた。随分フランクな性格でもしているのか、序でに千堂の席をも蹴り上げる。確かにうるさいからな、そいつ。
「自分そっくりの人間がすぐ傍に立っているんだ。そいつはにたり、と笑って、一拍置いて襲い掛かってくる。そんで俺たちと入れ替わってしまうって話だ」
「こっわ!」
俺を除いた彼らはお互いに身を寄せ、声を潜めながら話していたのだが、恐怖を感じた沢村ががたり、と大きな音を立てて飛び上がった。
千堂に関しては白目を剝きながら気絶でもしているんじゃないか?
「その理屈ならナンバー四が起こっても死なないってことだな」
俺がそう言うと、沢村が「確かに!」と目を輝かせた。
「夢オチ説もおかしいよね?」
「まあ、そうなるな。元々七不思議は命を奪うようなものじゃないからな。七つ怪談話を集めて、ようやく命を貰うって話だろ」
「なるほどねえ。それってさ、ナンバー六の時点で命を狙われるなら、ナンバー七はどれだけやばいんだろうね」
「考えたくねーよ、オレ」
「私も」
千堂の言葉に、沢村が賛同する。
「幻想死だって何処に行っちまったんだよな! この怪談を作った奴は無理な設定を盛り込んだな」
――失礼な。俺は幻想死だなんて名付けてないからな。
月島がからりと笑う姿を視界に入れる度に腹が立つ。
「それにしても鏡の世界からやってくる使者、か。聞き覚えがあるような気がするんだよねえ……」
沢村が思い出そうと両腕を組んで瞳を閉じた。すると千堂が「それってドッペルじゃね?」と呟く。一斉に『それだっ!』と視線を向ければ、不安に思ったのか千堂が「そうだよな?」と上目遣いで聞いてくる。お前が上目遣いしたって気色悪いだけだから辞めろ。
ふと気になって、俺は廊下側の席へと視線を走らせた。樋脇は口元に手をやって、何かを考え込んでいた。どうやらお昼は食べ終わったらしく、課題か何かを勉強しているようだ。視線はテキストに向かっているので、おそらく難問にぶち当たったのだろう。真剣な目で眺めている、かと思えば、樋脇が俺の視線を察知したようで顔を上げた。
ーー樋脇と目が合った。彼は嬉しそうに微笑みながら、控えめに手を振った。俺は手を振り返すことなど普段でもしない。その可愛い仕草を目に焼き付けてから視線を逸らす。今日も同じことの繰り返しだったが、隣から「うわわ」と声がした。
その声の持ち主――沢村を見ると、彼女は肩を跳ねらせて「ひえっ」と恐怖の色を零した。
「何だよ」
「いや……」
歯切れの悪い返事だったので睨みつけると、沢村の顔色が真っ青を通り越し、血の気すら引いている。こいつ、大丈夫か。
「ま、まあ不躾に言っちゃうとさ。樋脇くんから挨拶してるんだから、黒川くんも少しは反応すれば良いのになって思うんだよね。無視するとか諸悪の根源でしかないっていうか……」
無視…? 俺は無視などしていない。
ちらり、と樋脇に視線を戻せば、彼は声を掛けられたのか隣席と話していた。だが俺の視線に気付いて、すぐに嬉しそうな顔で微笑んできた。
俺と樋脇はお互い接点がない。だからこそ、これは俺たちなりの逢瀬である。向こうはどう思っているのか知らないが、あんなに幸せそうにこちらを見やるのだ。好意的に捉えても良い筈だ。
「その必要はないだろ?」
あいつのことだから俺の気持ちに気付いてるだろ。他人なんてどうでも良いと思っているこの俺が、何故かあいつから目を離すことが出来ないんだ。俺の視線に気付くあいつなら、そのくらいお手の物に違いない。
「そ、そう……? 黒川くんがそう思うのなら、別に構わないけど」
何処となくドン引きした顔つきなんだが。
「言いたいことは、はっきり言った方が良いぞ」
「口は禍の元とも言うわね」
「つまり俺を怒らせたくない、と?」
「人間自体、あまり怒らせたくはないわ」
「……へえ」
俺は沢村を横目に見た。人間、の響きに隠された声音に闇を感じたのだ。こいつは何かを抱えているのではないだろうか。そもこいつは樋脇と特別仲が良い。
そこに何か理由があるのか――?
「そこにさ、全身が映る大きな鏡があるじゃん。ナンバー四が起こった後にその鏡を横切ると、鏡の世界からやってくる使者が横切った人間の体をコピーするんだと。俺たちに成り代わるために。そして、鏡に映った人間を殺しに来る……」
月島の声が途絶える。皆が固唾を飲んでこいつの言葉を待った。
「家に帰って誰もいないのに気配がするんだ……。いつも通りに過ごしているのに、何だか胸騒ぎがする。ふと後ろを振り返ると……」
「振り返ると!? 振り返ると!?」
千堂が腰を浮かせた状態で月島の言葉を復唱するので、千堂の後ろの席の生徒が落ち着け、と言わんばかりに彼を椅子に座らせた。随分フランクな性格でもしているのか、序でに千堂の席をも蹴り上げる。確かにうるさいからな、そいつ。
「自分そっくりの人間がすぐ傍に立っているんだ。そいつはにたり、と笑って、一拍置いて襲い掛かってくる。そんで俺たちと入れ替わってしまうって話だ」
「こっわ!」
俺を除いた彼らはお互いに身を寄せ、声を潜めながら話していたのだが、恐怖を感じた沢村ががたり、と大きな音を立てて飛び上がった。
千堂に関しては白目を剝きながら気絶でもしているんじゃないか?
「その理屈ならナンバー四が起こっても死なないってことだな」
俺がそう言うと、沢村が「確かに!」と目を輝かせた。
「夢オチ説もおかしいよね?」
「まあ、そうなるな。元々七不思議は命を奪うようなものじゃないからな。七つ怪談話を集めて、ようやく命を貰うって話だろ」
「なるほどねえ。それってさ、ナンバー六の時点で命を狙われるなら、ナンバー七はどれだけやばいんだろうね」
「考えたくねーよ、オレ」
「私も」
千堂の言葉に、沢村が賛同する。
「幻想死だって何処に行っちまったんだよな! この怪談を作った奴は無理な設定を盛り込んだな」
――失礼な。俺は幻想死だなんて名付けてないからな。
月島がからりと笑う姿を視界に入れる度に腹が立つ。
「それにしても鏡の世界からやってくる使者、か。聞き覚えがあるような気がするんだよねえ……」
沢村が思い出そうと両腕を組んで瞳を閉じた。すると千堂が「それってドッペルじゃね?」と呟く。一斉に『それだっ!』と視線を向ければ、不安に思ったのか千堂が「そうだよな?」と上目遣いで聞いてくる。お前が上目遣いしたって気色悪いだけだから辞めろ。
ふと気になって、俺は廊下側の席へと視線を走らせた。樋脇は口元に手をやって、何かを考え込んでいた。どうやらお昼は食べ終わったらしく、課題か何かを勉強しているようだ。視線はテキストに向かっているので、おそらく難問にぶち当たったのだろう。真剣な目で眺めている、かと思えば、樋脇が俺の視線を察知したようで顔を上げた。
ーー樋脇と目が合った。彼は嬉しそうに微笑みながら、控えめに手を振った。俺は手を振り返すことなど普段でもしない。その可愛い仕草を目に焼き付けてから視線を逸らす。今日も同じことの繰り返しだったが、隣から「うわわ」と声がした。
その声の持ち主――沢村を見ると、彼女は肩を跳ねらせて「ひえっ」と恐怖の色を零した。
「何だよ」
「いや……」
歯切れの悪い返事だったので睨みつけると、沢村の顔色が真っ青を通り越し、血の気すら引いている。こいつ、大丈夫か。
「ま、まあ不躾に言っちゃうとさ。樋脇くんから挨拶してるんだから、黒川くんも少しは反応すれば良いのになって思うんだよね。無視するとか諸悪の根源でしかないっていうか……」
無視…? 俺は無視などしていない。
ちらり、と樋脇に視線を戻せば、彼は声を掛けられたのか隣席と話していた。だが俺の視線に気付いて、すぐに嬉しそうな顔で微笑んできた。
俺と樋脇はお互い接点がない。だからこそ、これは俺たちなりの逢瀬である。向こうはどう思っているのか知らないが、あんなに幸せそうにこちらを見やるのだ。好意的に捉えても良い筈だ。
「その必要はないだろ?」
あいつのことだから俺の気持ちに気付いてるだろ。他人なんてどうでも良いと思っているこの俺が、何故かあいつから目を離すことが出来ないんだ。俺の視線に気付くあいつなら、そのくらいお手の物に違いない。
「そ、そう……? 黒川くんがそう思うのなら、別に構わないけど」
何処となくドン引きした顔つきなんだが。
「言いたいことは、はっきり言った方が良いぞ」
「口は禍の元とも言うわね」
「つまり俺を怒らせたくない、と?」
「人間自体、あまり怒らせたくはないわ」
「……へえ」
俺は沢村を横目に見た。人間、の響きに隠された声音に闇を感じたのだ。こいつは何かを抱えているのではないだろうか。そもこいつは樋脇と特別仲が良い。
そこに何か理由があるのか――?
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