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第一章 七不思議の欠片
愉しい提案
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思考に身を委ねかけていると、
「考えれば考えるほどドッペルだな」
月島の呟きに、俺たちはハッとした。
そう言えば七不思議の話をしていたんだっけな。
俺との会話に集中していた沢村も「あー……」と声を伸ばす。月島と千堂が何を話していたのか聞いていなかった。
空気を読んだ千堂が「ドッペルゲンガーの話をしてただけだぞ!」と言う。
「そっか、千堂くんありがとう。ドッペルゲンガーって、私ともう一人の私がいて、偶然出会ったら最後。私を殺してドッペルゲンガーが成り代わるって話でオーケー?」
「そうそう! パーフェクト回答!」
前提を先に詰めるのは嫌いじゃないな。
「――まあ、でも鏡の怪談の方が現実的にあり得そうな話よね」
沢村の言葉に反応した二人が、不思議そうに彼女を見やる。唐突の視線を浴びて、沢村があたふたとし始めた。
「えっと、ほら。ドッペルゲンガーってさ、何処から現れるのか、分からないじゃない。自分にそっくりな人は三人いるって聞いたことがあるけどさ。似た顔ってだけでしょ? それならドッペルゲンガーは一体何処にいたのかなって」
「確かになあ」
「それと比べたら、原因が鏡だって分かってるからさ。鏡の怪談の方が分かりやすいわよね」
千堂が沢村の言葉に何度も頷いたが、俺には何かが引っ掛かった。月島も同じ理由かどうか不明だが、彼も神妙そうにしている。
そも要点もすり替わっている気がするんだが、沢村だからな。どうせ緊張して自分が何を言ってるのか分からなくなっているんだろ。
「……ドッペルゲンガーは幻覚であり、霊魂が分離しただとか実体化したものとも言われている。だからどちらかと言うと怪談ではなく、怪異だろう」
やはり怪異と呼んだ方が良いな。この方が痛快だ。
「怪異?」
千堂の問いかけに頷く。
「ドッペルゲンガーは大方死の象徴であるから、はっきりとしたことは言えないが」
「へえ?」
「他人がドッペルゲンガーを見れば意味は変わるが、本人が見れば死への暗示と言われている。だからドッペルゲンガーは自身の窮地を教えてくれるキーパーソンであり、死を知らせる死神のようなものだ」
「ほーん。主観客観、希望絶望、プラスマイナスって感じ?」
月島がふざけて返した。
「何処から出現するのか。――その疑問に答えるのは難しいが、医学的には幻覚と言うべきか。空想の世界から現れるお友達、もしくは別側面から考えるに死に直面した際に魂やら何やらで現れるんだろ多分」
どちらにせよドッペルゲンガーなんて関係ないから、適当に話を切り上げる。
それにそも順序が違う。ドッペルゲンガーを見た者は死ぬと言われているし、沢村たちもそれを前提に考えている節がある。だがドッペルゲンガーを見たから死ぬのではなく、死ぬ前にドッペルゲンガーを見るのだ。
沢村が胡乱気な視線を向け、「投げやりじゃね」と小さく呟いた。
口に出して言わないが、聞こえているからな?
そう沢村を見返すと、彼女は肩を跳ねらせてすぐに顔を背けた。ビビりなら喧嘩を売るな。
「ほええ、すげえな。よく知ってるよな」
そんな中、千堂が腑抜けた声を出して感心している。無邪気な詮索は無用だ。億劫になって「全て海外ドラマやホラー映画の受け売りだ」と適当に抜かせば、千堂だけでなく沢村までもが目を輝かせた。納得がいかない。
「それでもすげえよ! ホラー映画が好きなんだ?」
スキではない。興味もない。だが適当に発言してしまった手前、帳尻を合わせなければいけない。
「まあな」
「へえ! オレもホラー映画、好きなんだよなあ。今度他メンも誘って、ホラー映画上映会でもしようぜ」
「それは良いわね。私もやりたい」
俺は遠慮しておきたいくらいだな。絶対に碌なことにならないだろ。
「七不思議って結構、面白いのな」
千堂が興奮のあまり、頬を上気させている。それを見た月島がケラケラと笑って、「いやお前はビビってただけだろ?」と言うと、千堂が「何だとぉ!」と声を上げた。因みに俺もばっちり見ていたからな。生まれたばかりの小鹿のように震えていた。
俺の物言わぬ視線と沢村の相槌に追い打ちを掛けられ、千堂は小さく呻いた。
「なあ。今度さ、七不思議の場所に行ってみねえ? 勿論夜に」
月島の思わぬ提案に、沢村と千堂が驚きの声を上げた。――いや、面白い。これは俺が望んでもいた未来だ。月島が言わなければ、俺がこいつらを巻き込もうと考えていたくらいだからな。
「面白そうね! 今月中ならお父さんも帰ってこないし、私は大丈夫よ」
「俺はちょっとね……ビビってる訳じゃねえけど……」
上々の結果に、俺は内心ほくそ笑んだ。
「考えれば考えるほどドッペルだな」
月島の呟きに、俺たちはハッとした。
そう言えば七不思議の話をしていたんだっけな。
俺との会話に集中していた沢村も「あー……」と声を伸ばす。月島と千堂が何を話していたのか聞いていなかった。
空気を読んだ千堂が「ドッペルゲンガーの話をしてただけだぞ!」と言う。
「そっか、千堂くんありがとう。ドッペルゲンガーって、私ともう一人の私がいて、偶然出会ったら最後。私を殺してドッペルゲンガーが成り代わるって話でオーケー?」
「そうそう! パーフェクト回答!」
前提を先に詰めるのは嫌いじゃないな。
「――まあ、でも鏡の怪談の方が現実的にあり得そうな話よね」
沢村の言葉に反応した二人が、不思議そうに彼女を見やる。唐突の視線を浴びて、沢村があたふたとし始めた。
「えっと、ほら。ドッペルゲンガーってさ、何処から現れるのか、分からないじゃない。自分にそっくりな人は三人いるって聞いたことがあるけどさ。似た顔ってだけでしょ? それならドッペルゲンガーは一体何処にいたのかなって」
「確かになあ」
「それと比べたら、原因が鏡だって分かってるからさ。鏡の怪談の方が分かりやすいわよね」
千堂が沢村の言葉に何度も頷いたが、俺には何かが引っ掛かった。月島も同じ理由かどうか不明だが、彼も神妙そうにしている。
そも要点もすり替わっている気がするんだが、沢村だからな。どうせ緊張して自分が何を言ってるのか分からなくなっているんだろ。
「……ドッペルゲンガーは幻覚であり、霊魂が分離しただとか実体化したものとも言われている。だからどちらかと言うと怪談ではなく、怪異だろう」
やはり怪異と呼んだ方が良いな。この方が痛快だ。
「怪異?」
千堂の問いかけに頷く。
「ドッペルゲンガーは大方死の象徴であるから、はっきりとしたことは言えないが」
「へえ?」
「他人がドッペルゲンガーを見れば意味は変わるが、本人が見れば死への暗示と言われている。だからドッペルゲンガーは自身の窮地を教えてくれるキーパーソンであり、死を知らせる死神のようなものだ」
「ほーん。主観客観、希望絶望、プラスマイナスって感じ?」
月島がふざけて返した。
「何処から出現するのか。――その疑問に答えるのは難しいが、医学的には幻覚と言うべきか。空想の世界から現れるお友達、もしくは別側面から考えるに死に直面した際に魂やら何やらで現れるんだろ多分」
どちらにせよドッペルゲンガーなんて関係ないから、適当に話を切り上げる。
それにそも順序が違う。ドッペルゲンガーを見た者は死ぬと言われているし、沢村たちもそれを前提に考えている節がある。だがドッペルゲンガーを見たから死ぬのではなく、死ぬ前にドッペルゲンガーを見るのだ。
沢村が胡乱気な視線を向け、「投げやりじゃね」と小さく呟いた。
口に出して言わないが、聞こえているからな?
そう沢村を見返すと、彼女は肩を跳ねらせてすぐに顔を背けた。ビビりなら喧嘩を売るな。
「ほええ、すげえな。よく知ってるよな」
そんな中、千堂が腑抜けた声を出して感心している。無邪気な詮索は無用だ。億劫になって「全て海外ドラマやホラー映画の受け売りだ」と適当に抜かせば、千堂だけでなく沢村までもが目を輝かせた。納得がいかない。
「それでもすげえよ! ホラー映画が好きなんだ?」
スキではない。興味もない。だが適当に発言してしまった手前、帳尻を合わせなければいけない。
「まあな」
「へえ! オレもホラー映画、好きなんだよなあ。今度他メンも誘って、ホラー映画上映会でもしようぜ」
「それは良いわね。私もやりたい」
俺は遠慮しておきたいくらいだな。絶対に碌なことにならないだろ。
「七不思議って結構、面白いのな」
千堂が興奮のあまり、頬を上気させている。それを見た月島がケラケラと笑って、「いやお前はビビってただけだろ?」と言うと、千堂が「何だとぉ!」と声を上げた。因みに俺もばっちり見ていたからな。生まれたばかりの小鹿のように震えていた。
俺の物言わぬ視線と沢村の相槌に追い打ちを掛けられ、千堂は小さく呻いた。
「なあ。今度さ、七不思議の場所に行ってみねえ? 勿論夜に」
月島の思わぬ提案に、沢村と千堂が驚きの声を上げた。――いや、面白い。これは俺が望んでもいた未来だ。月島が言わなければ、俺がこいつらを巻き込もうと考えていたくらいだからな。
「面白そうね! 今月中ならお父さんも帰ってこないし、私は大丈夫よ」
「俺はちょっとね……ビビってる訳じゃねえけど……」
上々の結果に、俺は内心ほくそ笑んだ。
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