審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

文字の大きさ
12 / 111
第一章 七不思議の欠片

愉しい提案

しおりを挟む
 思考に身を委ねかけていると、

「考えれば考えるほどドッペルだな」

 月島の呟きに、俺たちはハッとした。
 そう言えば七不思議の話をしていたんだっけな。
 俺との会話に集中していた沢村も「あー……」と声を伸ばす。月島と千堂が何を話していたのか聞いていなかった。
 空気を読んだ千堂が「ドッペルゲンガーの話をしてただけだぞ!」と言う。

「そっか、千堂くんありがとう。ドッペルゲンガーって、私ともう一人の私がいて、偶然出会ったら最後。私を殺してドッペルゲンガーが成り代わるって話でオーケー?」
「そうそう! パーフェクト回答!」

 前提を先に詰めるのは嫌いじゃないな。

「――まあ、でも鏡の怪談の方が現実的にあり得そうな話よね」

 沢村の言葉に反応した二人が、不思議そうに彼女を見やる。唐突の視線を浴びて、沢村があたふたとし始めた。

「えっと、ほら。ドッペルゲンガーってさ、何処から現れるのか、分からないじゃない。自分にそっくりな人は三人いるって聞いたことがあるけどさ。似た顔ってだけでしょ? それならドッペルゲンガーは一体何処にいたのかなって」
「確かになあ」
「それと比べたら、原因が鏡だって分かってるからさ。鏡の怪談の方が分かりやすいわよね」

 千堂が沢村の言葉に何度も頷いたが、俺には何かが引っ掛かった。月島も同じ理由かどうか不明だが、彼も神妙そうにしている。
 そも要点もすり替わっている気がするんだが、沢村だからな。どうせ緊張して自分が何を言ってるのか分からなくなっているんだろ。

「……ドッペルゲンガーは幻覚であり、霊魂が分離しただとか実体化したものとも言われている。だからどちらかと言うと怪談ではなく、怪異だろう」

 やはり怪異と呼んだ方が良いな。この方が痛快だ。

「怪異?」

 千堂の問いかけに頷く。

「ドッペルゲンガーは大方死の象徴であるから、はっきりとしたことは言えないが」
「へえ?」
「他人がドッペルゲンガーを見れば意味は変わるが、本人が見れば死への暗示と言われている。だからドッペルゲンガーは自身の窮地を教えてくれるキーパーソンであり、死を知らせる死神のようなものだ」
「ほーん。主観客観、希望絶望、プラスマイナスって感じ?」

 月島がふざけて返した。

「何処から出現するのか。――その疑問に答えるのは難しいが、医学的には幻覚と言うべきか。空想の世界から現れるお友達、もしくは別側面から考えるに死に直面した際に魂やら何やらで現れるんだろ多分」

 どちらにせよドッペルゲンガーなんて関係ないから、適当に話を切り上げる。
 それにそも順序が違う。ドッペルゲンガーを見た者は死ぬと言われているし、沢村たちもそれを前提に考えている節がある。だがドッペルゲンガーを見たから死ぬのではなく、死ぬ前にドッペルゲンガーを見るのだ。
 
 沢村が胡乱気な視線を向け、「投げやりじゃね」と小さく呟いた。
 口に出して言わないが、聞こえているからな? 
 そう沢村を見返すと、彼女は肩を跳ねらせてすぐに顔を背けた。ビビりなら喧嘩を売るな。

「ほええ、すげえな。よく知ってるよな」

 そんな中、千堂が腑抜けた声を出して感心している。無邪気な詮索は無用だ。億劫になって「全て海外ドラマやホラー映画の受け売りだ」と適当に抜かせば、千堂だけでなく沢村までもが目を輝かせた。納得がいかない。

「それでもすげえよ! ホラー映画が好きなんだ?」

 スキではない。興味もない。だが適当に発言してしまった手前、帳尻を合わせなければいけない。

「まあな」
「へえ! オレもホラー映画、好きなんだよなあ。今度他メンも誘って、ホラー映画上映会でもしようぜ」
「それは良いわね。私もやりたい」

 俺は遠慮しておきたいくらいだな。絶対に碌なことにならないだろ。

「七不思議って結構、面白いのな」

 千堂が興奮のあまり、頬を上気させている。それを見た月島がケラケラと笑って、「いやお前はビビってただけだろ?」と言うと、千堂が「何だとぉ!」と声を上げた。因みに俺もばっちり見ていたからな。生まれたばかりの小鹿のように震えていた。
 俺の物言わぬ視線と沢村の相槌に追い打ちを掛けられ、千堂は小さく呻いた。

「なあ。今度さ、七不思議の場所に行ってみねえ? 勿論夜に」

 月島の思わぬ提案に、沢村と千堂が驚きの声を上げた。――いや、面白い。これは俺が望んでもいた未来だ。月島が言わなければ、俺がこいつらを巻き込もうと考えていたくらいだからな。

「面白そうね! 今月中ならお父さんも帰ってこないし、私は大丈夫よ」
「俺はちょっとね……ビビってる訳じゃねえけど……」

 上々の結果に、俺は内心ほくそ笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...