審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第一章 七不思議の欠片

5.新たな七不思議

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 昼食の時間になると、樋脇が教室に入ってきた。体調不良による遅刻だったそうだ。周囲の人間に声を掛けられて、そう答えていた。
 ばちり、と樋脇と目が合った。彼は一度目を逸らしてから、そろりと視線をこちらに戻した。俺が樋脇を見ていると知ると、照れくさそうにはにかんで小さく手を振った。
 クソ可愛いんだが、どうしたらいいんだ。一瞬芽生えた花を脳内で枯らし、俺は樋脇から目を逸らした。

「なあ、沢村、黒川」

 今度は一体何なんだ。俺は顔を顰めながら、沢村は目を丸くさせて振り返ると、月島が笑い掛けてきた。

「どうかしたの?」

 沢村が首を傾げる。

「さっき面白い話を聞いたからさ、お前らにも伝えたいと思って!」
「面白い話?」
「この学校にも七不思議が現れたんだよ!」

 ――七不思議。その音は、俺の胸に歓喜の鐘を鳴り響かせた。俺たちを破滅へと導く片道切符になるかもしれない。だが試す価値は、ある。
 開いた窓から薄ら寒い風が迷い込み、俺たちの間を通った。

「まだ予鈴、鳴らないよな」
「大丈夫に決まってるじゃない。お昼になってから、そんなに経ってないよ」

 そう言って、沢村は椅子を後ろに回した。そして月島の真正面に座り、話の聞ける体勢を万全に整えた。

「よっしゃ! あー、千堂もいたら良かったのにな」
「千堂くんは怖い話とか苦手そうだからなあ」
「納得の一言……」

 月島が項垂れる。

「月島、それで。ええと」

 一向に話を進めない月島に焦れたのか、沢村が口籠った。その様子に気付いた月島が「ああ」と頷く。

「どうやら怪談話が二つも現れたらしい。ナンバー四とナンバー五だってさっ」

 嬉々として告げる月島だが、話が全くと言って見えない。

「ナンバー四?」

 沢村も首を捻る。おそらく四つ目の怪談を指しているんだろう。それにしてもナンバーって呼び方は初めて聞いたんだが、英語に憧れでもあったのか??

「どっちもありきたりな怪談なんだけどよ、面白いことに連動しているらしいぜ。ナンバー五はナンバー四の出現後にしか出ないってさ」
「へえ、ナンバー四って何なの?」
「東階段ってあんだろ。あそこの階段を深夜二十四時に歩くと、階段が一段増えてるんだってさ」
「ああ! よく聞く怪談よね」

 沢村が大きく頷く。だが場所の指定が入るとは思わなかった。発生の条件にしても限定的だ。まあ、確かにどの階段で発生して、被験者が勝手に増えても困るからな。妥当な条件なのかもしれない。

「だな。それで登り切ったら、目の前に人の形をした何かが立っているんだと。そいつは全身真っ黒で、上ってきた者を突き落とすんだ。だからナンバー四の怪談話を『黒い影の幻想死』って言うんだってよ」
「なんかちょっと中二病っぽくない?」
「そう言ってやるなよ、沢村。頑張って名付けたんだろうよ」

 少し引いたような顔つきで沢村が呟くので、月島がフォローした。
 ……何でお前がフォローするんだ? 
 正直俺もその呼び方はどうかと思う(ただ怪談の中身を心に響きそうな言葉で言い換えただけじゃねえか)が、納得いかない。

「ま、まあ、そうよね。……そうかも?」

 あまり月島のフォローは効果が無かったらしい。困惑した沢村は頷いて、また首を傾げて歯切れの悪そうに再び頷いた。

「んーと、幻想死ってことは突き落とされた人は死んじゃうの?」
「それは分かんないな。幻想による死であるのなら、夢の中で死んだ夢オチ説があるらしいけど。今のところ誰も試してないらしいからなあ」

 月島が腕を組んで頭を悩ませている。確かに試した人間がいない限り、この怪談話はただの夢物語だ。現実に起こり得るかも怪しい。

「じゃじゃじゃ……、ナンバー五って何だよ」

 後ろから震えた声が聞こえてきた。――千堂だ。いつの間にか、こいつも途中から話を聞いていたのか。
 先日の古典の課題は俺が手伝ってやったから間に合ったが、今回は大丈夫なんだろうな。冷たい視線を向ければ、千堂は全身を小刻みに動かしていた。そんなに怪談話が怖いのなら、聞かなければ良いのにな。莫迦な奴だ。

「ほら、突き落とされたら踊場まで転がるだろ」
「ああ……」

 月島が声を潜ませると、千堂も身を守るかのように背中を丸くさせた。
 周囲の音が全て雑音へと変わり、この場にいる彼らは月島の話へと呑み込まれていた。これは怪談話を行う際、特有の雰囲気だ。背筋にぞくり、とした悪寒が走り、誰かが唾液を飲み込む音が聞こえてくる。
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