審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第一章 七不思議の欠片

実験モルモット

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 俺は樋脇と出くわした廊下まで引き返した。無駄に歩いたが、樋脇との会話には収穫があった。
 とりあえず樋脇の件は保留で良いだろう。こちらの邪魔をするつもりはないようだし、何より……いや、樋脇自身も葛藤があるようだ。自分の思想の為に俺を利用するべきか、それとも恋に屈して砂糖でも贈ってくれるのか。
 ……何だかんだうぬ惚れても良いよな、俺。
 相手が樋脇でも利用できるものは利用したいが、ふと樋脇の顔が浮かんだ。普段はゆるふわ(沢村が言っていた)なあいつが、眉根を寄せて迷惑そうにこちらを見やる、その情景が。
 判断を迷わせるなよ、クソが。

「計画は続行だ。自分の身は自分で守る」

 俺は自身に言い聞かせるようにして呟いた。
 職員室へと向かうと、微かに電気が点いていた。この学校は教師の残業を禁じた。その代わり、教師のアシスタントとして何人か雇い、教師の負担を軽減させたのだ。生徒の面倒は担任の教師も見るが、スクールカウンセラーを正規雇用することで、子供たちのケアで足りない分を専門的に補っている。
 家庭の経済を緩和するよりも、教育機関の土台をしっかり立て直すことで、将来子供たちが社会に貢献して経済を回す、といった考えが出てきたらしい。そのため家庭に給付金を渡すのではなく、人材取得に向けた予算を学校らに確保することが出来たという次第である。それが政策的に正しいのかどうかはこれから分かるのだろうが、おかげで俺達は助かった。多くの大人たちが関わることで、学校に潜伏しやすくなったのだ。

「邪魔をする」

 職員室に入ると、二人の男が振り返った。こいつらは俺の組織が協力者として学校に送り出した人材だ。

「お待ちしておりました。黒川様」
「ああ。お前ら、よくやった。俺だけじゃ七不思議の核となる怪異をばらまくことは不可能だった。一風変わっていたが、あいつらの食いつきは良かったぞ」
「そのようなお言葉をいただけるとは、ありがたき幸せ」

 男が深く礼をしてくる。

「別に構わない。俺にも目指してる目標があるからな」
「分かりますよ。教祖様の計画を遂行することが第一。そのためにはこのような実験が必要でしょう」

 いいや、お前らは何もわかっちゃいない。俺は教祖の為に動いている訳じゃないからな。

「それでどんな感じなんだ?」
「どのクラスも一定数以上が信じている様子ですね。これなら強力な怪異になる……行けますね。ただ舞台が夜ですからね。この学校の生徒はみな、素直で従順だ。自分から怪異を見に行こうとする生徒は、今のところ皆無です」

 従順ねえ……。
 それより実験体がいないのは困る。誰かが怪異を体感し、生きるか死ぬかのデスレースをぶちかましてくれないと、その効果は何もわからない。前例がないからだ。だが、その心配は無用だ。

「それに関しては気にするな。俺のクラスメイトを宛がうつもりだ」

 沢村と月島。怪異の正体を知りたいあいつらなら、俺が誘えば必ず夜の学校に来る。どうせ幽霊の正体見たり枯れ尾花、と呑気に考えているのだろう?
 俺は口の端を上げる。そんなに気になるのなら見せてやるよ。勿論俺もそのデスレースに参加する。怪異による祟り殺しは実際に強いのか、俺は体感したいんだ。

「それは流石ですね! 我々は何をしたら良いのでしょう」
「特にない。俺もこの実験に参加するからな。お前らの所蔵する書物をいつでも見れるように手配してくれ。仮にあいつらが同じ事態に陥るとして、書物を探っただけでどうにでもなるのか知りたいだろ?」
「……それは確かに。一般人でも対処可能であれば、他に強力な怪異を作り出すしかないですな」
「しかし、私は御身が心配です。貴方様がもし、」
「俺が死ぬ、とでも思ってんのか」

 威圧的に声を掛ければ、男どもは口をつぐんだ。

「俺はこんなところで死ねないからな。安心しろ、データを取るだけだ。お前らは書庫の準備をするだけで良い」

 そう言えば、男どもは頷いた。先ほど見せていた不安は何処にもない。
 俺を疑って教祖に言いつけられても困るからな。ま、教祖も俺達を処罰することなんて出来やしない。怪異に関して実際に動けるのは、俺とあいつだけだ。あいつも扱い辛い人材故に、下手な手法は取れないだろ。

「解散だ」

 彼らの返事を待つことなく、背を向ける。もうここに用はない。荷物を取りに教室に向かうとするか。先ほど樋脇を見送った時に持って来れば良かったが、すっかり忘れていた。

 廊下に出ると、校舎内はつつ闇だった。
 壁と廊下が黒と同化している。ヘッドライトで照らされていた職員室も暗すぎたが、この暗さとは比ではない。そも樋脇と話していた時でさえ、時間がかなり遅かった。
 あいつは無事に帰れたんだろうな。それともあいつの家まで送っていけば良かったのか? それなら一石二鳥だったろうに、まあ後悔しても無駄だ。
 目が暗闇に慣れてくると、うっすらと廊下の先が見える。俺はこの暗澹を歩き出した。
 他に考えるべきなのは、どうやって沢村と月島をこの夜の学校に連れてくるか。夜中に家族のいる家を抜け出されても、家族が通報してしまえばアウトだ。沢村は父親が帰ってこないと言っていたが、他に家族はいるのか。月島の家族だって謎に包まれているしな。本人たちが乗り気でも、周囲の人間の邪魔が入らないように画策しなければいけない。
 その上、一度帰宅してから夜の学校に侵入することは難しいだろう。警備員に見つかる危険性もある。それなら最初から学校に身を潜め、夜中になってから動き出すべきだ。

 そう思考していると、階段の上から声が聞こえてきた。
 ――まだ校舎に人が残っていたのか? 
 僅かな疑問が浮上し、当惑した。上の階は三階であり、ちょうど俺の教室があるのだ。俺がこの時間帯まで居残りをしていた事実を、あまり残したくはないが、背に腹は代えられない。
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