審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第一章 七不思議の欠片

7.世の中をどう思う?

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「――沢村ってさ、この世の中をどう思ってる?」

 階段を上り切る前に、思いもよらない声が聞こえてきた。まさかと思い、顔だけ覗かせると、月に照らされた廊下で沢村と月島が対峙していた。
 月島には影がかかっており、暗闇にひっそりと佇むその姿は無機質に近い。彼を普段から知っている奴らは、かなり驚くだろうな。
 月島から少し離れた先にいた沢村も、怯えた表情を見せているが、気丈に「どういうこと?」と聞き返した。

「分かるだろ、オレが聞きたいこと。分からない振りはやめようぜ」
「全然分からないわよ。何よ、どうかしちゃったわけ?」
「オレは沢村の本心が聞きたいんだよ。なあ、この世の中をどう思う?」

 それは興味深い問いだな。

「……答える必要性を感じないわ」
「いいや、あるぜ。オレが今、ここにいる。それだけでお前は答えなきゃいけない」

 月島から発せられる殺意は沢村にも伝わっているだろう。彼女は狼狽え、半歩下がった。暫く黙りこくっていたが、このまま月島が見逃してくれるとは思ってはいないようで、「この世は地獄だわ」と返した。

「とてもくだらない、くそったれな世の中なんてごめんだわ」
「へえ? それが沢村の答え? オレはさ、そうは思わないんだわ。だけどお前らはオレとは違うんだろうなあって。ただの興味本位だったけど、楽しくなってきちゃったなあ?」

 はあっ、と息を荒げる月島は変態だ。

「なあ、どうしてくだらない世の中だって決めつけるんだ?」
「……私を知りたいの?」
「う~ん、そう、かもしれない。何て言えば良いかな。食指を動かされた?」

 ……こいつは何を言ってるんだ。
 沢村と月島をターゲットにしようかと思っていたが、月島が変態すぎて辞めようかとも思えてきた。

「月島くんが何を求めているのかさっぱり分からないけれど、この際だから言っておくわ。私はこの世の中が嫌い。憎い、すべてが憎い! 私からあの子を奪った、この世界が! 色のない世界なんて、憎しみしか残らない世界なんて――くだらないわ」

 感情が昂ったのか、沢村が叫んだ。しかしその悲痛な声は月島に届かなかったらしい。あいつの空気は剣呑さを帯びたままで、沢村へと一歩足を踏み出した。

「それってさあ、ただの憎しみだけで決めつけてるんじゃねえの?」

 そのままゆったりと沢村へ近づいていく。月島を止めても良いが、もう暫く沢村を観察したい。沢村が何故、樋脇と近しいのか。その理由があいつの求めている理想に近しいものではないかと感じたからだ。
 影と一体化していた月島の体の線が、月虹から溢れる光に照らされて露わとなる。神秘的な現象と共に、月島の醸し出す迫力は増していく。

「……あんたは誰?」

 沢村が揺らぐような音を吐き出した。彼女がいかに動揺しているのか伝わってくるが、正直俺もだ。こんな狂犬はいない方がマシだ。
 月島は無言で返し、沢村へと近づいていく。

「……そうね。あんたの言う通り、私はこの世を憎むばかりよ。でもそれが私の在り方! 何か文句でもある!?」

 頬に伝う冷や汗すら拭えないのに、啖呵を切る沢村。確かに沢村に何かしらの引っ掛かりを感じていたのだが、それは沢村がこの世界を憎んでいたからなのか? ――どうだろう。
 喉元がすっきりした心地もするが、あっさりとし過ぎている感じも否めない。

「ふはっ。自分の在り方に関しては、オレも同感だわ。オレは憎しみよりも悦楽を取るけどな。まあ、どうでも良いんだけどさ」
「それなら、何が……」
「それでさ、沢村はどう思っている訳?」

 沢村の言葉を遮って、月島が質問を質問で返した。

「沢村は死にたいって思ってるよな」
「……!」

 俺は目を見開く。俺の隣席で、のほほんとしていた彼女に、そんな感情があったなど気付かなかった。
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