審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第一章 七不思議の欠片

それは現実

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 意外と愛が重いな……。
 下世話な話だが、こういう奴を押し倒して乱れさせたら、最高の気分なんだろうな。そんな関係になるまで、億光年ぐらい掛かりそうだが。
 樋脇はそう言い捨てたきり、教室へと入っていった。
 その入れ違いになったのか、千堂が「なんか恐ろし気な会話が聞こえた気がするんだけど、気のせいだよな」と震える声で言いながら出てくる。壁に貼りついている俺の姿も視界に入っているのだろうが、それに気付かないふりをして、沢村のいる階段を降りようと駆け足になる。
 だがそこにも伏兵がいた。沢村も騒ぎが収まったのか様子を見ようと、階段に這いつくばったまま上がってきたのだ。

「うわあッ!? なに、ゾンビ!?」

 千堂は悲鳴を上げて尻もちをついた。のちに沢村は千堂から「ゾンビの動きをしていた」と告げられることになるが、それより話し合いが先だ。

「黒川くん、おはよう」

 沢村が何もなかったかのように声を掛けてきた。

「ああ」
「さっきは驚いちゃったよ」

 俺の方がお前の数倍は驚いたけどな。

「樋脇くんも凄かったよね。あの月島相手に……」

 沢村はビビりだからな、樋脇にも相当驚いたんじゃないか。

「あれだけの啖呵を切れるだなんて! すっごくカッコ良かったわね! 月島で困ったことがあったら樋脇くんに相談してみようかな」

 いや、何故そうなるんだ。樋脇に対して信頼度がマックス過ぎて、目が曇ってるのかよ。あれはどう見ても二重人格を疑うレベルじゃねえのか。まあ確かに俺の好み通りだったけどな、と脳内劇場を上演し、ハッとする。
 沢村に毒されている頭を緩く振って、「いいんじゃないか」と掠れた声で頷いた。

「昨日はよく眠れたか?」
「それは皮肉かしら。ちょっと待って、思い出したわよ! 昨日なんて頭がぼんやりしていた時に限って、黒川くんが今日の予定を押し付けてきたんだから。私の登校時間なんて全く気にしていなかったでしょ!? いっつも遅刻寸前で登校してるんだから、朝八時なんて早すぎるわよ」
「……いや」

 授業開始前に行う朝会は八時半からだ。早すぎることはないだろ。お前の腰が重たいだけだ。

「その沈黙は何さ。まあ、いいわ。昨日は……本当に、大変だったし」

 急に沢村が萎れた。どうせ鏡の怪異のことを思い出して、不安になったのだろう。本当に分かりやすい奴だな。

「ねえ、確認だけさせて貰えるかしら」
「何だ」
「アレは現実なの?」
「現実だな」
「……そう。その、何ていうか。まだ、信じられないのだけれど」
「だろうな。だが対処しなければ、どの道、俺達は皆殺しだ」
「対処?」

 このまま廊下で立ち話も構わないが、あまり人には聞かれたくはない内容だ。すれ違い様に会話を聞かれたら、正気の沙汰とは思えないだろう。現に一般的な思考を持つ沢村だって疑いの目で俺を見ているのだから。沢村のような真人間が教師に報告しても困るしな。
 俺は一番奥の空き教室に誘導する形で歩き出すと、沢村も後を追いかけるように歩いた。

「待って! そもそもアレは鏡の使者ってことで良いの?」
「あの暗夜、俺達を覗き込むように見ていた影のことか? それなら使者だろうな。信じ難いお前に言っても無駄だろうが、鏡の怪異は本物だ。でなければ三人同時で幻覚など見ない。実際、集団幻覚で幽霊を目撃することはあり得るから、断定は出来ないが。だが俺達は畏怖し、中庭まで走り抜けた。本能で生きている筈の、あの月島までもが動いた。それがどういう意味か、今のお前には分かるだろ」

 沢村が黙り込む。そして俺達は空き教室に辿り着いた。教室に入り、自然と窓際の席まで足を運ぶ。
 俺は自分の席と同じ位置にあった机の上に座った。沢村は行儀よく椅子を引いて座る。

「オーケー、今ので納得した。んで、対処って何をすれば良いの?」
「さあ。俺にも分からない」
「お前が頼りなのに困るじゃんか」

 いきなり月島が俺達の会話に割り込んで来やがった。
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