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第一章 七不思議の欠片
ガバガバ階段
しおりを挟む「ああ、そうだ。……最初から考えるぞ」
俺は黒板から離れて、先ほど座っていた机の椅子に腰かけた。沢村の近くで仁王立ちしていた月島も、沢村の後席の机の上に腰を下ろした。
「月島は何故この怪談話を知ったんだ?」
月島はうーん、と暫く考え込み、
「そうだな、確かクラスの女子たちと樋脇で話していた時だったかな。その時に女子たちから鏡の怪異を教えて貰ったんだ。樋脇は俺と同じで初めて聞いた話だったみたいで、驚いていたっけな。そしたら別の女子が階段で誰かが落とされなければ発生しないって言いだして、黒い影の幻想死の存在も知ったんだ」
「最近までは七不思議が無かったからな。話の出どころが知りたい。彼女たちが何処から知ったのか、聞いてくれるか?」
「分かった。聞いてみるよ」
月島が了承する。
話の出どころは俺の頼みを聞いたあいつらからだ。月島が調べても無意味だが、月島は第六感が働く。下手に手を抜けば、俺のことを怪しむかもしれない。沢村ならどうとでも躱せるが、月島の手綱を握れるのは樋脇ぐらいか。
「あのさ、ずっと気になってたんだけど」
沢村がおそるおそる片手を挙げた。
「どうかしたのか」
「そもそも黒い影の幻想死って出現してなくない?」
そう口籠りながら聞いてくるので、俺は月島へと視線をずらした。
それは月島のせいだ。こいつがふざけなければ、この事態は起こらなかった。俺にとっては幸運が転がり込んだものだが、沢村にとっては地獄へと呼び込む悪魔の囁きに違いない。
当の本人はただ笑みを浮かべるばかりで、沢村はこいつを殴っても良いだろ。その権利がある。
「悪い悪い。まさかさ、あれで判定されるとは思わなかったからさ」
――こりゃ駄目だ。反省する気がさらさらない。
沢村は未だに理解出来ていないようで、視線を彷徨わせた。
「あの時、こいつは俺を階段から落とそうとしただろ? 確かに俺は二、三段ほど階段から落下した。おそらくその時に鏡の怪異に目を付けられたんだ」
「え、あれだけで……?」
実際のところ、黒い影の幻想死なんて出現していなかったが、何を勘違いしたのか鏡の怪異は安易に出現してしまった。
「怪異ってやつは勝手ね」
「だよな! 判定がガバガバ過ぎてウケたわ」
「お前は反省しろ」
どうせ反省しないだろうがな。
「でもナンバー四って、一番上まで階段に上らない限りは出現しないんじゃないの?」
沢村の言う通り、俺もそこが引っ掛かっていた。出現する条件すら揃っていないのだから摩訶不思議な話だ。
「ナンバー四自体が存在しないって話もあんじゃねえの」
「それなら鏡の怪異の出現自体に問題があることにもなるだろ。発動条件が必ずしも存在するんだ。それなのに誰彼構わず襲う訳がない」
「うーん。そう言えば私を助けてくれたあの夜、黒川くんって何処にいたんだっけ。教室にいた、訳ないよね。真っ暗だったし、もっと早く私を助けに入ってくれただろうし」
たとえ教室にいたとしても、月島の情報があまりにも足りなかったので、沢村をすぐに助けることはしなかっただろうな。それに真っ暗な教室で一人、佇む俺はあまり想像したくない。
「俺は逆の階段を上って教室に向かってた。その最中でお前が月島に襲われていたのを見掛けたんだ」
「一応、階段は最上階まで上っていることにはなるわね。もしかしてそゆコト?」
沢村が困り眉になりながら声を潜ませる。
沈黙が広がる。――まさかの、階段があればどの階段でもお構いなしってことかよ。一体誰がそんな設定を考えたんだ。あいつらか、あいつらなのか? 頭が痛む話だが、阿呆が阿呆を呼んで実際に怪異が姿を現した。正しく偶然、否――悪運が強かったのかもしれない。俺は溜息を吐いた。
それとも怪異は未だに不安定だと言う証なのだろうか。あのニュースでもあいつは無事だったし、綺麗に稼働していない可能性もある。
「ナンバー四はスルーして良いだろ。発動条件を既に踏んでしまったし、考えても無駄だ」
「でも他の人が私たちみたいに遭遇しちゃうかもっ」
「お前らみたいに、夜まで校舎に潜むやつがいると思うか?」
他人を心配して声を荒げた沢村に反論すると、彼女は押し黙った。普通の感性を持つ人間は、夜の学校に忍び込もうなんて考えるかよ。校門や裏門には警報がセットされているし、下手を打てば警備員に捕まる恐れだってある。停学処分を受けてもおかしくはない。そんな誰しもが躊躇するようなことを実行したのはお前らだけだ。
「いませんね……」
「そうだろ」
「分かりましたよ! 私たちが悪うございました! それで何の話をしてたんだっけ」
「鏡の話だ」
「いや、それは分かってるんだけど……」
沢村が脱力する。
「ともかく本題は鏡の怪異だ。鏡の怪異とは、俺達が鏡の傍を横切るとドッペルのような使者が派遣され、その使者は俺達を殺しに来る。そして俺達に成り代わってしまうってことで、おおまかに合ってるな?」
月島は「ああ」と頷いた。
「昨夜、校舎の三階の窓から見えた影は三つ。頭数は揃う」
「じゃあオレたちを狙っていることは確実っつーことだろ」
ここからは俺にとっても未知なる存在。怪異について知っていることはあれども、怪異の個の力は無知だ。
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