審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第一章 七不思議の欠片

使者は倒した?

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 どすんっ、と重たい物が落ちたような音がして振り向く。
 ソファで眠っていた沢村が寝返りを打った拍子に落ちたようだ。沢村は大きな布に包まれたまま、床に転がっていた。呻き声も聞こえてくる。

「沢村、大丈夫か?」

 沢村の顔を覗き込むと、体を硬直させて大きく目を見開いていた。仰天のあまり声も出ないようだ。
 暫くしてから彼女は瞬いた。うろ、と室内へと目を向け、最後に俺を見る。

「……かなり驚いたけど、大丈夫」

 微かに震える手で、上半身を起こそうとした。見兼ねた月島が手を伸ばして、沢村を起き上がらせる。

「凄い音だったな」
「そんなに? でも打ち身とか無いみたい」

 沢村が自分の体を確認する。

「うん、大丈夫みたい。それより黒川くんも合流したのね」
「ああ。さっき来たばかりだ」

 使者を倉庫内に閉じ込めた後、俺は着信に気付いた。登録した覚えはなかったが、沢村の携帯番号だとすぐに分かったので、沢村の家に向かうことにしたのだ。するとリビング側の窓は割れている上に、二階の窓も開けっぱなしで泥棒にでも侵入されたかと思った。
 前者は月島が沢村の元に駆けつけた際の犠牲となったもので、後者は沢村の不注意だろうな。
 月島のしでかした跡から沢村の家に入ってみれば、沢村はソファで寝こけていたし、月島は呑気にテレビを見ていた。月島の頭を叩いて話を聞けば、二人して使者に襲われたようだ。同時刻とまでは行かないが、時間帯は大体同じなのだろう。

「黒川くんも無事で良かったわ」
「ああ、お前らもな」

 月島が勝手に人様の冷蔵庫から飲み物を取り出し、三つのグラスに注いで俺達に渡していく。何でそんなに順応してるんだ。

「まあ、沢村も起きた訳だし。これからどうするよ」

 さっきまで沢村が眠っていたソファに月島が座り、沢村もその真向いのソファのへりに腰を下ろした。

「情報が圧倒的に足りないが、早々に蹴りを付けた方が良いだろうな。既に実害が出ているからな。それに鏡の怪異が、複数のターゲットに手出し可能なことも分かったしな」

 沢村が複数のターゲット、と繰り返した。

「鏡の怪異は鏡にいる。例えば一人がその鏡に通りかかったとする。勿論鏡の怪異の矛先はそいつに向かう。だが複数人がその鏡を通りかけたら?」
「それって私たちと同じ状況……」
「幽霊でも同じような状況があるだろう。ある場所に行くと怨霊がいて、憑りつかれてしまう。それを聞いて面白がった奴も実際に行って、憑りつかれてしまった。そこにまた別の人間がやってくる。誰かが憑りつかれている間に、他の誰かに憑りつくことが出来るものなのか?」
「え――、怨霊が複数人いたとか?」
「同じ場所に怨霊が複数人いるのは、あまりないだろ。怨霊だぞ、怨霊。ホイホイいてたまるかよ」
「分身がいた……?」
「幽霊の分身なんて聞いたことないだろ」

 沢村が梅干しを食べたような顔をする。

「今のは例え話だ。俺達はほぼ同時に襲われたと考えて良い。だが一つの怪異は、一つの概念なんだ。普通は同時にあちこちへターゲットを向けることは出来ない筈だ。そう考えると使者は同時にターゲットに差し向けるために特化した可能性があるって話だ。つまり使者は単独で動ける」

 月島が「ちょっと待ってくれ」と声を上げた。「お前らは三つの影を見てたんだろ。その時点で使者は自由に動けるって訳じゃなかったのか」と訊いてきたので、「俺達は中庭まで避難した。もし自由に動けるのなら、そこまで追ってくるだろ」と返す。

「一理あるな」
「おそらく動ける範囲が広がったんじゃないかと思う」
「ふうん、なるほどな。ってことは使者を倒しても、鏡の怪異自体をなんとかしなければ駄目っつーことか」

 何気なく呟く月島の一言に、思考が停止した。
 今、何て言った? ――使者を倒しても?
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