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第一章 七不思議の欠片
17.夜の校舎へカムバック!
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この学校の音楽室は敷地内にはあるが、校舎の外に建物がある。校舎を母屋とするなら、音楽室は離れと言える。そのため、わざわざ外履きに履き替えないといけないので、移動するのが面倒だ。
俺は月明を頼りに音楽室の建物を探した。簡単に見つかったが、窓には灯りは見えない。
誰もいないのかと、扉を押すと、僅かに軋んで開いた。
僅かな廊下を歩き、室内にある戸口を開けば、沢村がグラウンドピアノの傍の椅子に座っていた。膝に手を回して身体を丸めながら、顔を上げて瞳を瞑っている。
「おい、電気くらい点けろよ」
「あ、黒川くん」
沢村が勢いよく目を開けて俺を見る。その顔はあっけらかんとしているが、少し覇気が無かった。
「いやあ、だって電気を点けて良いのか分かんなかったから」
こいつって莫迦だか利口だか俺には分からねえな。
「点けて大丈夫っしょ」
突然、俺の背後から声がした。振り返らなくても月島だと分かる。
沢村も声で判断したのだろう、特段驚くこともなく「だってバレちゃ困るでしょ?」と返す。
「いや、そもそも教師だっていないし、今日は警備員がいない日だぜ?」
「え、そうなの」
「明日から警備員が代わるんだ。いつもの警備員は昨日で仕事を辞めたからな。次の警備員が来れるのは明日なんだと」
月島の代わりに言葉を引き継ぐと、沢村が眉根を寄せる。それから、「あんたたちはどうやってそんな情報を知る訳さ?」と首を傾げた。
月島も俺も答えるつもりはなく、月島は笑顔を貫いて、俺はそっぽを向いた。月島には強力な情報屋がいるからな。口の軽い千堂か、聞けば何でも教えてくれる樋脇の二択だが。
「全員揃ったし、早速鏡をぶっ壊そうぜ」
月島が歯を剝き出しにして凶悪な笑顔を晒した。
「円陣でも組んじゃう?」
「組まないっつってんだろ」
テンションが上がった月島を制するように言う。
「このメンバーで行くのは辛いわ」
沢村が小さく呟いた。言っておくが聞こえているからな。
俺だって好んでお前らと自分の命を賭けに行きたくはない。これは只の仕事なんだ。自分にそう言い聞かし、「行くぞ」と短く声を掛けた。
俺達は音楽室から出て、入口にある傘立てに置かれた金属バッドを持った。野球部から拝借したものだから、無事に送り届けなければいけない。月島に持たせるとバッドごと破壊しそうなんだが、沢村には持たせたくないと我儘を言う月島に免じて、俺と月島がバッドを持っていくことになった。
まあ二本もあれば十分だろ。
予め鍵を開けておいた窓から校舎に入り込む。
「やっば! こんな簡単に校内に侵入出来るとか神かよ! 黒川と一緒だと何もかもがスムーズだな」
俺、沢村の順に校舎に侵入し、最後の月島が窓枠に足を掛けながら言う。それを無視して例の鏡がある階段へと足を向ける。
「無視すんなよ。褒めてんのにさ」とぼやく月島に、沢村が乾いた笑い声を出す。
「月島くんは鏡を見た方が良いよ」
「おおっと。それは駄洒落か?」
「えっ、そんなつもりは毛頭ないんだけど」
「ジョーダンだよ。あ~~鏡を普通に割れば良いんだよな?」
バッドを振り回しながら、俺を抜いて真っ先に階段に上っていく月島に、げんなりしながらも頷く。
「おそらく使者も出てくるぞ。拳で撃退したお前の力量を見せてもらうからな」
「おう、任せておけ」
挑発するように言っても、月島は特に気にすることなく、からりとした笑みを浮かべる。それが腹立たしくて仕方が無い。
無言で返すと、後ろに控える沢村が「大丈夫なの、このチーム」と呟いた。
即席チームなんだから、最初の時点でアウトだろ。
俺は月明を頼りに音楽室の建物を探した。簡単に見つかったが、窓には灯りは見えない。
誰もいないのかと、扉を押すと、僅かに軋んで開いた。
僅かな廊下を歩き、室内にある戸口を開けば、沢村がグラウンドピアノの傍の椅子に座っていた。膝に手を回して身体を丸めながら、顔を上げて瞳を瞑っている。
「おい、電気くらい点けろよ」
「あ、黒川くん」
沢村が勢いよく目を開けて俺を見る。その顔はあっけらかんとしているが、少し覇気が無かった。
「いやあ、だって電気を点けて良いのか分かんなかったから」
こいつって莫迦だか利口だか俺には分からねえな。
「点けて大丈夫っしょ」
突然、俺の背後から声がした。振り返らなくても月島だと分かる。
沢村も声で判断したのだろう、特段驚くこともなく「だってバレちゃ困るでしょ?」と返す。
「いや、そもそも教師だっていないし、今日は警備員がいない日だぜ?」
「え、そうなの」
「明日から警備員が代わるんだ。いつもの警備員は昨日で仕事を辞めたからな。次の警備員が来れるのは明日なんだと」
月島の代わりに言葉を引き継ぐと、沢村が眉根を寄せる。それから、「あんたたちはどうやってそんな情報を知る訳さ?」と首を傾げた。
月島も俺も答えるつもりはなく、月島は笑顔を貫いて、俺はそっぽを向いた。月島には強力な情報屋がいるからな。口の軽い千堂か、聞けば何でも教えてくれる樋脇の二択だが。
「全員揃ったし、早速鏡をぶっ壊そうぜ」
月島が歯を剝き出しにして凶悪な笑顔を晒した。
「円陣でも組んじゃう?」
「組まないっつってんだろ」
テンションが上がった月島を制するように言う。
「このメンバーで行くのは辛いわ」
沢村が小さく呟いた。言っておくが聞こえているからな。
俺だって好んでお前らと自分の命を賭けに行きたくはない。これは只の仕事なんだ。自分にそう言い聞かし、「行くぞ」と短く声を掛けた。
俺達は音楽室から出て、入口にある傘立てに置かれた金属バッドを持った。野球部から拝借したものだから、無事に送り届けなければいけない。月島に持たせるとバッドごと破壊しそうなんだが、沢村には持たせたくないと我儘を言う月島に免じて、俺と月島がバッドを持っていくことになった。
まあ二本もあれば十分だろ。
予め鍵を開けておいた窓から校舎に入り込む。
「やっば! こんな簡単に校内に侵入出来るとか神かよ! 黒川と一緒だと何もかもがスムーズだな」
俺、沢村の順に校舎に侵入し、最後の月島が窓枠に足を掛けながら言う。それを無視して例の鏡がある階段へと足を向ける。
「無視すんなよ。褒めてんのにさ」とぼやく月島に、沢村が乾いた笑い声を出す。
「月島くんは鏡を見た方が良いよ」
「おおっと。それは駄洒落か?」
「えっ、そんなつもりは毛頭ないんだけど」
「ジョーダンだよ。あ~~鏡を普通に割れば良いんだよな?」
バッドを振り回しながら、俺を抜いて真っ先に階段に上っていく月島に、げんなりしながらも頷く。
「おそらく使者も出てくるぞ。拳で撃退したお前の力量を見せてもらうからな」
「おう、任せておけ」
挑発するように言っても、月島は特に気にすることなく、からりとした笑みを浮かべる。それが腹立たしくて仕方が無い。
無言で返すと、後ろに控える沢村が「大丈夫なの、このチーム」と呟いた。
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