審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第一章 七不思議の欠片

鈍い光を放つ手鏡

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「全然だよ。大丈夫だから気にしないで。むしろ月島くんが変なことを言ったみたいでごめん。樋脇くんのせいなんかじゃ、絶対にないから」
「そう……? でも気になっちゃったし、沢村さんも疲れてない?」
「え、分かる?」
「いつもより元気ないよね」
「……うん、ありがとう。ちょっとね、忙しいだけだから。本当に気にしないで」

 沢村と樋脇の関係性は俺でさえ理解出来ていない。
 初めて樋脇を見た時、その傍らには向日葵のような沢村の笑顔があった。距離もほかの生徒より近しいので、恋人関係でも結んでいるのかと思っていたが、肉体的接触は特になかった。ただ会話だけだった。
 しかし初めて沢村と話した時に感じた、彼女の世界を見る目。狂った月島との対話。憶測だが沢村には何か過去があって、樋脇は誰よりもその事態を知っているが故に、気を遣っているのではないかと推測している。
 まっ、人間なんて誰もが過去を持っている。
 深く考えても仕方が無いし、樋脇が沢村と付き合っていたらあんな視線を俺に向けることはしない。まるで俺を突き刺すほど鋭く、熱を分かち合おうとするような視線。

「それは絶対に持っていてね。使えると思うから」

 思索に耽っていると、いつの間にか話が終わっていたらしく、樋脇が「またね」と言う。軽い足音も聞こえてきたので、自分の席に戻ったのだろう。
 俺は数秒だけ固まっていたが、埒が明かない。教室に音を立てて入れば、樋脇は読書をしていた。その姿を視界で確認してから自分の席へと向かう。
 沢村は自分の机の前に立っていた。後ろ姿では何をしているのか分からない。俺は自分の席に鞄を置くと沢村もこちらに気付いた。

「あ、黒川くん。おはよ」
「ああ」

 沢村の手には手のひらサイズの丸い鏡が収まっていた。縁は暗赤色の桔梗で彩られ、鏡の表面は傷一つなく綺麗だ。

「……それはどうしたんだ?」
「これ? 樋脇くんから貰ったの。こういうのをアンティークって言うのかな?」

 沢村はご丁寧にもその鏡を俺に見せてくれた。
 鏡を覗き込めば自分の顔が映る。だが何処となくピントが合っていない。鏡の表面が曇っている訳でも傷がある訳でもないのに映りが悪いのだろうか。

「……そうかもな」
「気のない返事をありがと。折角貰ったんだから、早速身に着けておこ」

 沢村は喜悦の色を声音に滲ませ、満面の笑みを浮かべていた。そして鏡を制服の内ポケットに入れた。
 俺は樋脇に視線を向けたが、彼は一度もこちらを振り返らなかった。……樋脇のことだ。この鏡には何かある。そう確信を持って言えるが、見当もつかない。樋脇は何かが足りないと言っていた。足りないピースはこの鏡と言いたいのか。
 俺が見ている景色と、樋脇が見ている世界は全く違う。観点が違うからこそ行動が違う。だからムカつくほど樋脇の思考を読み解けない。

「一限が始まるまで、まだ時間があるわね」

 沢村は朝の準備を終えたらしく席に座った。

「月島はどうした?」
「いないわよ。私が起きた時には二人して、いなかったもの」

 恨みがかった目で俺を見る。やはり置いて行かれたことに対してご立腹だったらしい。
 だが沢村はすぐに肩を竦めて首を振った。

「別に構わないわよ。月島がお父さんに割れた窓硝子のことや男友達が泊まったこととか、言い訳してくれたし。おかげで助かったわ」
「怒られたか?」
「ううん、納得してくれたみたい。ああいうのをコミュ力お化けって言うのよね。黒川くんとは大違い。むしろ黒川くんが残ってたら碌な言い訳しかしなそうだし、早々に帰ってくれて好都合だったわ」

 おい、それは失礼だろ。内心でそう突っ込む俺の様子に気付かず、沢村は唇を尖らせていた。面倒な事態にならなかったことに一抹の歓心と、全てを収めた月島に納得がいかない歯がゆさを感じているらしい。その気持ちは痛いほど理解できる。あいつは規格外だ。

「ねえ、夜八時になったら何処に向かえば良いの?」
「そうだな、音楽室で集合しよう。あそこは鍵が壊れてるからな」
「そうなの? 何で知ってる訳?」
「昨日、吹奏楽部の顧問が愚痴ってたんだ」

 そう言うと沢村がふうん、と呟いた。

「鏡の破壊を目指すが、その過程か直前で、使者が飛び出してくる可能性もある」
「つまり使者は月島に任せておけってことね」

 俺の意図を瞬時に理解した沢村は、軽い調子で「了解」と告げる。
 今回みたいに、沢村は頭の回転が速いのかもしれない、と思える事態が何度かあった。しかし、それと同じくらい沢村は阿呆なことを言い出しては、その度やらかしている。
 利口なのか莫迦なのか、さっぱりだなと結論を下し、俺は席に座った。

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