審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第一章 七不思議の欠片

書庫の鍵を探せ!

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 そう言えば書庫の扉を開けようとしても、梃子でも動かないぐらいだったし、諦めて夢から醒めるのを待っていれば急に扉が開いたし。あの時は書庫の鍵を持っていなかったから扉が開かなかったってことね。

「鍵って現実にある物なんだよね? どんな形状をしているの?」
「存じ上げません」

 ……肝心なことが分からないって無理ゲー過ぎません?

「前館長は何もおっしゃっていませんでしたから」
「え~~!? 鍵がないと書庫は全く開かないのに、私にこの神秘を守れって言いたいわけ!?」

 げんなりして言えば、司書さんは味気なく頷くだけ。

「それじゃ私に全て丸投げってことじゃない! 要は鍵を探せ、って言いたいんでしょ? でもノーヒントじゃ何も分からないわよ」

 そんなの無茶だ。

「鍵は鍵です。館長が必要とすれば、いざと言う時に必ず見つかるでしょう」
「そんなの気休めにもならないわ。でも、まあ、とにかく鍵を探し出せば良いのね?」

 司書さんが首肯する。

「分かった。探してみる。あと一つだけ聞きたいことがあるんだけど、この書庫って怪異と関わりでもあるの?」

 現実味を帯びてきたこの書庫を、仮に現実だとする。それならこの書庫は非現実的で、でも現実に存在するもの。それって怪異にも通じると思う。
 司書さんはこの書庫のことを一種の伝説だと言っていた。
 最初は都市伝説、またはまとめ動画ないしサイトにでも載っていそうだと思っていたけれど、多くの人間が知るその状態も怪異になり得るのではないだろうか。それならこの書庫全体が怪異だって可能性だって残されているわよね。

「館長の言っている意味が理解できませんね。そも怪異とは何なのでしょう」
「え、怪異って……えっと、あれ? 司書さんって月島くんや黒川くんの存在を知っていたんですよね」
「ええ、覗いておりましたよ」
「それなら私たちが襲われていたのも、」

「勿論存じ上げてますよ」と司書さんが言葉を繋げる。
 私は黙り込んだ。司書さんの言っていることが理解できない。だって月島たちの存在や怪異に襲われていた事実を知っていたにも関わらず、怪異の存在を知らないってどういうことなんだろう。
 掌が汗ばむ。口内に溜まった唾液を飲み込むと、私の様子に気付いた司書さんが息を小さく吐いた。アンニュイな表情だ。
 美人は何をしても美人なんだな、と能天気にも思ってしまう。

「私が言いたいことは、貴方たちを襲っていたものが怪異と呼ばれている意味が、理解できないということです」
「え? あれは怪異じゃないってこと?」
「そうですね。あれは怪異とは言いません」
「……そうなんだ」

 ――そもそも何故怪異って話になったんだっけ。
 思考が巡る。最初は七不思議から始まった気がする。あの時は怪談として話していたけれど、いつの間にか怪異と言う概念に切り替わっていた。

『怪談と言うよりは怪異じゃないか?』

 ふと耳の奥で言葉が響いた。
 確か……黒川がそう、言っていた気がする。

「勿論怪異と言う言葉は存在します。簡潔に言えば、現実にはあり得ない事実のことですね。貴方たちを襲ったのも曖昧な存在ではありますが、怪異よりも不確かなもの。事実とは呼べない事象。絶対に起こり得ないものですが……」

 司書さんが視線をあらぬ方向へ向け、逡巡の色を見せる。

「――どうして発生したのでしょうね」
「絶対に起こらないものが起きているってことだよね。進化、とか……?」
「あれらに進化が必要だとは思いませんが。言葉と言うのは言霊でもありますからね。人には生まれながらに信じる力が備わっておりますし、おそらく言霊から誕生してしまったのかもしれませんね」
「言霊が誕生ってどう言う……」
「館長を含めた三人の人間が『怪異』という存在を信じたことが前提となり、その前提によって概念が世界に生まれ落ちた可能性がある、ということです」
「それって何でもありなの?」
「どう言う意味です」
「ええっと、私たちが信じるだけで、んんと、何でも生まれるのかなって?」

 焦って言葉を繋げると、自分でも何を言っているのかさっぱりだ。
 それでも私の意図を掬い上げてくれた司書さんが、「そんなことはありません」と一刀両断した。

「概念には前提と土台が必要です」

 なるほど、全然分かんないや。私は唇を舐めた。

「ま、まあ、怪異が普通では到底あり得ないような造りだとして……それならどうして黒川くんは『怪異』のことを知っていたんだろう?」
「さあ、どうでしょうね。私も多少は調べておきましょう。何かございましたら、またお呼びください」

 司書さんはそう言うと、司書室へと戻っていく。真っすぐと伸びた後ろ姿に惚れ惚れと眺めていると、司書さんはドアノブに手を掛けたところで一度振り向いた。

「申し伝えるのを忘れていました」
「はい?」
「鍵を探す際はくれぐれもお気をつけますよう」

 何を考えているのか全く読めない色の瞳でそう告げられ、私は狼狽えた。
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