審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

文字の大きさ
70 / 111
第二章 わたし、めりーさん

4.遅刻してきた三人衆

しおりを挟む
 授業が終わり、俺は視線を左にずらした。そこには沢村が机へと覆いかぶさっていた。途中から居眠りを始め、本格的に寝ていた。教師の目が光ったようにも見えたので、沢村の点数は引かれるだろうな。まあ、自業自得ってやつだ。

 するとバタバタと慌ただしい足音が聞こえ、教室の扉が勢いよく開いた。月島たちだった。
 月島と千堂は息も荒々しく、その後ろにいた立川もずり落ちた眼鏡を上げていた。そのまま月島の席を囲んで、三人は重苦しい沈黙でお互いを見合っている。
 目が死んでいるんだが……?

「遅刻か?」

 そう聞くと、月島が「いやあ、まあちょっと、色々あってな」と苦笑した。
 月島と千堂だけならともかく、立川がいると話が変わる。

「それで?」

 話を促せば、月島の視線が俺を飛び越える。おそらく沢村を見たのだろう、横から小さく「あっ」と声が聞こえてきた。
 沢村も巻き込まれる空気を察し、慌てて席を立とうと腰を浮かしたが、月島が「沢村も見てくれよ」と笑いかけたことで逃げ道を失った。苦虫を噛み潰したかのように沢村が顔を顰めた。先月、学園保護委員会からちょっかいを掛けられたことで、あまり俺たちと関わりたくないらしい。
 俺はともかく、月島のような人気者と関われば周囲から鋭い視線が飛んでくる。とは言っても、人気者からの誘いを蹴ってしまえば、責めるような眼で見られる。どちらを選択しても地獄だ。沢村の空っぽな頭でも演算出来たようで、月島を無視することも叶わずに、「ええ、と」と口を開いた。

「何かあったの?」

 沢村の返答に満足した月島が、沢村と俺に見えるよう、体をずらした。月島の机上にあったのは、一つの青い携帯電話だった。えらく年季の入ったもので、泥に塗れた痕も窺えた。

「何それ?」
「千堂が拾ってきたんですよ。登校中に道端でね」

 腕を組んだ立川がそう答える。

「へえ」

 沢村が物珍し気に頷くと、千堂が「そうなんだよお!」と大声を出した。教室内にいるクラスメイトたちが驚いてこちらを見やる。
 その途端に、沢村の背中が小さくなった。目立ちたくないんだわ、と顔に出ている。……ここまで分かりやすいと、最早笑えてくるな。

「わり、何でもない!」

 月島が周囲のクラスメイトに声を掛けると、彼らはすぐに自分らの世界へと戻っていった。その間に、俺たちはその怪しい携帯電話を眺める。

「よく拾ってきたな」

 薄汚れた誰かの携帯電話を拾ってくる莫迦がいるのか? ――ここにいたか。

「本当にその通りですよ。僕だってそう言いました」

 立川がやれやれ、と溜息を吐いた。

「ま、まあ、確かにこんなに怪しそうな物なんて拾って来ないよね……普通は……」

 沢村も声を落として、そう言った。

「でしょう? だけど、こいつは人の話を聞かないんだ」

 呆れ果てたような口調に、千堂が「何だとぉ!?」と立川へと掴みかかろうとした。だが、立川の「お母様」と言う一言に、仰け反るようにして離れていった。
 どれだけ恐ろしい親なんだ、千堂の母親は。

「交番に届ければ良いんじゃないか」

 拾ってしまったからには仕方がない。持ち主が探している可能性が全くの零ではないだろう。それなら、と提案してみたが、彼らは貝のように黙り込んでしまった。こいつらが一限をすっぽかした理由はそこにあるのか。

「それが……交番には届けたんだよな」

 神妙な顔つきで月島が答える。

「それなら、どうしてここにあるんだ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...