審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第二章 わたし、めりーさん

複雑な生き物

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「僕たちにもさっぱりなんですよね。千堂が遅刻しないようにと、彼のお母様から登下校を任されているので、今朝も一緒だったんですよ。普段通りに暫く歩いていたら、この携帯電話が電柱の下に落ちていて、拾っちゃったんです」

 立川が目で『こいつ、が』と強調する。

「どうして拾っちゃったのよ」

 思わず沢村が呟いた。

「や、分かんねえけど……なんか、可哀そうだったって言うか」
「物に愛着が湧くタイプじゃねえだろ」
「何だと、月島!」
「否定できますか?」
「……出来ないデス」

 席から立ちあがって、月島へと顔を近づけた千堂が、大人しく座った。

「ともかく、交番に届けようとしている途中で、月島くんに会いましてね」
「なんか雑な紹介だなあ、立川。オレは寂しい」
「そうか。それから、三人で交番に届けたんですよ」

 立川も中々に天晴と言うべきか、ただ一言だけ肯定し、何も無かったかのような態度は将来、大物になる予感がする。

「その十分後くらいですかね。僕たちが学校に向かっている傍ら、千堂が急に衣嚢へと手を伸ばして、交番で渡した筈の、その携帯電話を取り出したんですよ。ですが僕たちは実際に、千堂が警官へと手渡していたのを目撃しているんです」
「あの時はマジでビビったよな。お前がスリの手口でも使って、俺たちや交番の人を騙したのかと思ったわ」

 月島が千堂の背中を遠慮せずに叩くと、千堂が悲鳴を上げた。そりゃ月島の腕力を考えたら痛いだろうな。

「俺は不良でも、スリなんてちゃちいことはしねえんだよっ」
「スリってちゃちい……の?」

 沢村が言いにくそうにして問うた。

「僕はそう思わないですね。盗人は盗むこと自体を愉しむ莫迦者と、生活基盤の為に仕方なく盗む社会的弱者が行うものです。誰にも平等を与えるべき国家が、盗みをしなくても良いように生活を保障するべきです」
「ほおん。それは確かに?」

 月島が首を傾げながら頷く。その反応は賛同なのか疑問なのか、どっちなんだ。

「でもさ、この世って不平等じゃない? 国家がある限り、その差って埋められないんじゃないの?」
「国家がある限り……。それでは人をまとめることが出来ないじゃないですか。国と国の関係、国の目指す先。決断するには、人の上に立つ人が必要です」
「それはそうだけどさ。でも上に立つ人って、まともな人間はどれだけいるの?」
「昨今の不正問題ですね。確かに政を行う身分が自ら悪いことに手を出すのは、いけないことでしょう。その温床にもなっていると言っても過言ではない。しかし、誰が上に立っても同じことだ」
「温床になってたら意味ないじゃん」
「権力を握れば、誰もが自身を過信し、驕る。そういうものですよ」
「お前らの小競り合いには問題があるぜ。根拠がないってのもそうだけどよ、人間ってよ、複雑なもんだろ。簡単にタイプ別なんて分けられる訳がねえのさ。簡略化できれば楽だけどな。まっ、そうキリキリするなよ」

 月島が立川と沢村の間に割り込んだ。

「……」
「……」

 二人は互いを射るように見つめ合い、「僕の話は論理的じゃなかった。すみません」と立川が謝った。

「ううん、こっちこそごめん。私、莫迦なのに、つっけんどんな態度を取っちゃって」

 沢村が俯く。

「別に良いんですよ。自分の意見を持つことは、素晴らしいことです。言の葉に流され、その通りだと思っている人間は、自分で判断することのできない怠惰な人だ」
「……そっか」
「ただ、自分の意見ばかり正しいと思っている連中も駄目だ。いくら人と意見を交わそうが、自分のことしか考えていない。議論を交わしても無駄な人とは、そういう人なんです。自分の意見に匹敵する根拠と論理を持ち、しかし相手の話に耳を傾けることが出来るのも大事なんですよ。勿論、相手の感情も。感情が読み解ければ、自分がどれほど正しくても、相手が感情的になっているのか見抜けますから。相手が聞き耳を持つことの出来る人か、そもそも自分のことしか考えていない能無しか。それが分かってから、判断すれば良いんだ」

 立川は一息でそう告げ、「――要は、僕も能無しの一人だった訳です」と締めた。

「そんなことはないよ。だって、私に今教えてくれたじゃない」

 沢村が微笑む。二人の間に吹いていた隙間風が、薫風のように明るくなった。その様子を眺めていると、

「――何故、人は両極端なんだろうな」

 俺はふと疑問を呟いた。
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