審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第二章 わたし、めりーさん

この携帯、どうする?

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「物が勝手に動くのなら、ポルターガイストって言っても良いんじゃないですか? 非科学的なことは信じませんが、すっきりしないのは嫌なんですよね」
「つまり適当に解釈してるだけじゃねえかよ。ウケる」

 けらけらと月島が笑った。

「ええっ、じゃあポルターガイストじゃねえのか……?」

 千堂が慄然とする。

「案外付喪神だったりしてな。千堂のこと、気に入っちまったとか」
「付喪神と言うものは、百年単位で物が妖怪に化けた存在じゃありませんでしたっけ」
「百年前に携帯なんてあったか?」

 月島がそう訊くと、千堂が「絶対にこの機種じゃないことだけは分かるぜ」と震える声で言った。

「まあ、正体なんて考えたって分かりませんよ。科学的なのか非科学的なのか考えるのも無駄です。どうせ折り合いがつかないのですから」

 沢村が僅かに「それは、確かにそうかもしれないね……」と相槌を打った。

「じゃあ、何が問題なんだよ」

 不貞腐れたように千堂が唇を突き出す。

「千堂……お前、分かっているのか? この携帯電話は交番でお前が手渡したのに、今もお前が持っているんだぞ」
「あ、ああ……それは……」
「例えばお前がこの教室に置いて帰ったとしても、お前の家までついてくる可能性があるってことだ」

 立川の諭旨に、千堂が蒼褪めた。

「お前の苦手なものって幽霊だろ。今のうちに月島くんたちと対処法を考えるべきだろ」
「……今日、お前ん家に泊まって良いか?」
「勿論、勉強合宿開始だからな」

 嫌そうに顔を顰める千堂が、「背に腹は代えられないわあ」と言った。

「てかさ、あの時本当に返したのかよ?」

 月島が軽く訊いた。

「返してただろ。一番俺の近くにいたのは月島じゃん」
「それもそうだよなあ。やっぱりお前の苦手な幽霊の仕業なのかもな」

 月島が腕組みをしながらニヤリと笑えば、千堂が「お、俺は別に苦手ってワケじゃ……」とまだ言い訳をしている。腰が引けてるぞ。

「幽霊かどうかは問題ではありませんよ。何も無ければ、気のせいだったで構わない。言ったでしょう、対処法を考えるべきだと。どうすればこの携帯電話をきちんと手放せるかどうかって話です」

 問題の対処には原因の解明が必須だ。だが、そも怪異が存在しているのかどうか、非科学的な事象が科学的かどうか、それを証明するのはかなり難しい。立川のように割り切っている方が楽かもしれないな。
 沢村が「神社でも行ったら?」と言うので、

「この辺りに神社ってあったか?」

 俺は首を傾げる。俺の記憶では無いに等しいが。

「……ないですね。大宮さんのところもお取り潰しになったのではありませんか?」
「大宮さんが誰なのか分からねえよ」
「僕と同じ地域に住んでると言うのに、全く……」
「誠に遺憾ですな」

 おい沢村、何処からの目線なんだ?

「神社に持っていくのが無難なんだろうけどさあ、隣町まで行かないと駄目だしな。今日は平日だよな。バスも……運休、だな」

 月島の指摘した通り、俺たちには移動手段がない。自転車では遠すぎる距離だ。

「じゃ、どうするよ?」

 千堂がそう言うと、誰もが黙り込んだ。目を泳がせる者、あらぬ方向に視線を向ける者、思うことは多種多様。
 別に千堂がどうなっても構わないが、この怪異はおふざけな気配を感じる。はあ、と息を吐きだして、

「俺が思うに破壊するのが一番だろうな」
「破壊ィ~~??」

 千堂が聞き返す。

「お前たちが薄気味悪い思いまでして、持っている価値はないだろ。それなら手っ取り早く壊して捨てれば良いさ」

 まだ怪異が発動していない段階で排除してしまった方が良い。そう思考していると、千堂が曇った表情を見せる。

「……でもさ」

 そして一度、黙り込む。

「でも、持ち主がただ落としていただけで、そいつが困っていたらどうするんだよ」

 いや、それは無いだろう。交番のくだりで、絶対に無い。
 先ほどの立川の説教すら忘れて、自分の主張をする千堂に、立川も驚きの色を隠せないようだ。沢村もぽかり、と口を開けている。

「――ははっ!」

 そんな中、月島が呵呵大笑する。

「面白えな、千堂! お前のそういうところ、好きだわ!」
「え、そうか? へへっ」

 照れてる場合じゃないだろ。誰もが愚かだと思う選択肢を自ら選択する大莫迦者。そこに横たわる情は、俺にはよく分からないものだが、月島が千堂を構う理由もそこにあるのだろう。

「千堂、分かっていないようだが、それを持つことは危険だ。そのリスクを承知で、存在しない持ち主に返還したいと考えるのなら、俺を巻き込むなよ」

 突き放すように言えば、千堂は少し怯んだ様子を見せた。
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