74 / 111
第二章 わたし、めりーさん
この携帯、どうする?
しおりを挟む
「物が勝手に動くのなら、ポルターガイストって言っても良いんじゃないですか? 非科学的なことは信じませんが、すっきりしないのは嫌なんですよね」
「つまり適当に解釈してるだけじゃねえかよ。ウケる」
けらけらと月島が笑った。
「ええっ、じゃあポルターガイストじゃねえのか……?」
千堂が慄然とする。
「案外付喪神だったりしてな。千堂のこと、気に入っちまったとか」
「付喪神と言うものは、百年単位で物が妖怪に化けた存在じゃありませんでしたっけ」
「百年前に携帯なんてあったか?」
月島がそう訊くと、千堂が「絶対にこの機種じゃないことだけは分かるぜ」と震える声で言った。
「まあ、正体なんて考えたって分かりませんよ。科学的なのか非科学的なのか考えるのも無駄です。どうせ折り合いがつかないのですから」
沢村が僅かに「それは、確かにそうかもしれないね……」と相槌を打った。
「じゃあ、何が問題なんだよ」
不貞腐れたように千堂が唇を突き出す。
「千堂……お前、分かっているのか? この携帯電話は交番でお前が手渡したのに、今もお前が持っているんだぞ」
「あ、ああ……それは……」
「例えばお前がこの教室に置いて帰ったとしても、お前の家までついてくる可能性があるってことだ」
立川の諭旨に、千堂が蒼褪めた。
「お前の苦手なものって幽霊だろ。今のうちに月島くんたちと対処法を考えるべきだろ」
「……今日、お前ん家に泊まって良いか?」
「勿論、勉強合宿開始だからな」
嫌そうに顔を顰める千堂が、「背に腹は代えられないわあ」と言った。
「てかさ、あの時本当に返したのかよ?」
月島が軽く訊いた。
「返してただろ。一番俺の近くにいたのは月島じゃん」
「それもそうだよなあ。やっぱりお前の苦手な幽霊の仕業なのかもな」
月島が腕組みをしながらニヤリと笑えば、千堂が「お、俺は別に苦手ってワケじゃ……」とまだ言い訳をしている。腰が引けてるぞ。
「幽霊かどうかは問題ではありませんよ。何も無ければ、気のせいだったで構わない。言ったでしょう、対処法を考えるべきだと。どうすればこの携帯電話をきちんと手放せるかどうかって話です」
問題の対処には原因の解明が必須だ。だが、そも怪異が存在しているのかどうか、非科学的な事象が科学的かどうか、それを証明するのはかなり難しい。立川のように割り切っている方が楽かもしれないな。
沢村が「神社でも行ったら?」と言うので、
「この辺りに神社ってあったか?」
俺は首を傾げる。俺の記憶では無いに等しいが。
「……ないですね。大宮さんのところもお取り潰しになったのではありませんか?」
「大宮さんが誰なのか分からねえよ」
「僕と同じ地域に住んでると言うのに、全く……」
「誠に遺憾ですな」
おい沢村、何処からの目線なんだ?
「神社に持っていくのが無難なんだろうけどさあ、隣町まで行かないと駄目だしな。今日は平日だよな。バスも……運休、だな」
月島の指摘した通り、俺たちには移動手段がない。自転車では遠すぎる距離だ。
「じゃ、どうするよ?」
千堂がそう言うと、誰もが黙り込んだ。目を泳がせる者、あらぬ方向に視線を向ける者、思うことは多種多様。
別に千堂がどうなっても構わないが、この怪異はおふざけな気配を感じる。はあ、と息を吐きだして、
「俺が思うに破壊するのが一番だろうな」
「破壊ィ~~??」
千堂が聞き返す。
「お前たちが薄気味悪い思いまでして、持っている価値はないだろ。それなら手っ取り早く壊して捨てれば良いさ」
まだ怪異が発動していない段階で排除してしまった方が良い。そう思考していると、千堂が曇った表情を見せる。
「……でもさ」
そして一度、黙り込む。
「でも、持ち主がただ落としていただけで、そいつが困っていたらどうするんだよ」
いや、それは無いだろう。交番のくだりで、絶対に無い。
先ほどの立川の説教すら忘れて、自分の主張をする千堂に、立川も驚きの色を隠せないようだ。沢村もぽかり、と口を開けている。
「――ははっ!」
そんな中、月島が呵呵大笑する。
「面白えな、千堂! お前のそういうところ、好きだわ!」
「え、そうか? へへっ」
照れてる場合じゃないだろ。誰もが愚かだと思う選択肢を自ら選択する大莫迦者。そこに横たわる情は、俺にはよく分からないものだが、月島が千堂を構う理由もそこにあるのだろう。
「千堂、分かっていないようだが、それを持つことは危険だ。そのリスクを承知で、存在しない持ち主に返還したいと考えるのなら、俺を巻き込むなよ」
突き放すように言えば、千堂は少し怯んだ様子を見せた。
「つまり適当に解釈してるだけじゃねえかよ。ウケる」
けらけらと月島が笑った。
「ええっ、じゃあポルターガイストじゃねえのか……?」
千堂が慄然とする。
「案外付喪神だったりしてな。千堂のこと、気に入っちまったとか」
「付喪神と言うものは、百年単位で物が妖怪に化けた存在じゃありませんでしたっけ」
「百年前に携帯なんてあったか?」
月島がそう訊くと、千堂が「絶対にこの機種じゃないことだけは分かるぜ」と震える声で言った。
「まあ、正体なんて考えたって分かりませんよ。科学的なのか非科学的なのか考えるのも無駄です。どうせ折り合いがつかないのですから」
沢村が僅かに「それは、確かにそうかもしれないね……」と相槌を打った。
「じゃあ、何が問題なんだよ」
不貞腐れたように千堂が唇を突き出す。
「千堂……お前、分かっているのか? この携帯電話は交番でお前が手渡したのに、今もお前が持っているんだぞ」
「あ、ああ……それは……」
「例えばお前がこの教室に置いて帰ったとしても、お前の家までついてくる可能性があるってことだ」
立川の諭旨に、千堂が蒼褪めた。
「お前の苦手なものって幽霊だろ。今のうちに月島くんたちと対処法を考えるべきだろ」
「……今日、お前ん家に泊まって良いか?」
「勿論、勉強合宿開始だからな」
嫌そうに顔を顰める千堂が、「背に腹は代えられないわあ」と言った。
「てかさ、あの時本当に返したのかよ?」
月島が軽く訊いた。
「返してただろ。一番俺の近くにいたのは月島じゃん」
「それもそうだよなあ。やっぱりお前の苦手な幽霊の仕業なのかもな」
月島が腕組みをしながらニヤリと笑えば、千堂が「お、俺は別に苦手ってワケじゃ……」とまだ言い訳をしている。腰が引けてるぞ。
「幽霊かどうかは問題ではありませんよ。何も無ければ、気のせいだったで構わない。言ったでしょう、対処法を考えるべきだと。どうすればこの携帯電話をきちんと手放せるかどうかって話です」
問題の対処には原因の解明が必須だ。だが、そも怪異が存在しているのかどうか、非科学的な事象が科学的かどうか、それを証明するのはかなり難しい。立川のように割り切っている方が楽かもしれないな。
沢村が「神社でも行ったら?」と言うので、
「この辺りに神社ってあったか?」
俺は首を傾げる。俺の記憶では無いに等しいが。
「……ないですね。大宮さんのところもお取り潰しになったのではありませんか?」
「大宮さんが誰なのか分からねえよ」
「僕と同じ地域に住んでると言うのに、全く……」
「誠に遺憾ですな」
おい沢村、何処からの目線なんだ?
「神社に持っていくのが無難なんだろうけどさあ、隣町まで行かないと駄目だしな。今日は平日だよな。バスも……運休、だな」
月島の指摘した通り、俺たちには移動手段がない。自転車では遠すぎる距離だ。
「じゃ、どうするよ?」
千堂がそう言うと、誰もが黙り込んだ。目を泳がせる者、あらぬ方向に視線を向ける者、思うことは多種多様。
別に千堂がどうなっても構わないが、この怪異はおふざけな気配を感じる。はあ、と息を吐きだして、
「俺が思うに破壊するのが一番だろうな」
「破壊ィ~~??」
千堂が聞き返す。
「お前たちが薄気味悪い思いまでして、持っている価値はないだろ。それなら手っ取り早く壊して捨てれば良いさ」
まだ怪異が発動していない段階で排除してしまった方が良い。そう思考していると、千堂が曇った表情を見せる。
「……でもさ」
そして一度、黙り込む。
「でも、持ち主がただ落としていただけで、そいつが困っていたらどうするんだよ」
いや、それは無いだろう。交番のくだりで、絶対に無い。
先ほどの立川の説教すら忘れて、自分の主張をする千堂に、立川も驚きの色を隠せないようだ。沢村もぽかり、と口を開けている。
「――ははっ!」
そんな中、月島が呵呵大笑する。
「面白えな、千堂! お前のそういうところ、好きだわ!」
「え、そうか? へへっ」
照れてる場合じゃないだろ。誰もが愚かだと思う選択肢を自ら選択する大莫迦者。そこに横たわる情は、俺にはよく分からないものだが、月島が千堂を構う理由もそこにあるのだろう。
「千堂、分かっていないようだが、それを持つことは危険だ。そのリスクを承知で、存在しない持ち主に返還したいと考えるのなら、俺を巻き込むなよ」
突き放すように言えば、千堂は少し怯んだ様子を見せた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる