審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

文字の大きさ
77 / 111
第二章 わたし、めりーさん

めりーさんのメール

しおりを挟む
 だが、今は自習とはいえ、授業中だ。
 動揺して隣同士で顔を見合わせていたと思えば、すぐに自分の机と向き合っていく。適応していると言えば聞こえが良いのかもしれないな。隣から「本当に勉強好きな人たちが多いんだから、全く」と見当はずれな感想も聞こえてきた。
 沢村を見れば、「いったい何がお望みなのよ」と声を抑え、その電話口へと話しかけた。とうに電話は切れているようで、『この電話番号は現在、使われておりません』と機械的な声が返ってくる。
 俺はふん、と鼻を鳴らす。怪異のトリガーは引かれた。
 高みの見物を決め込めるのなら楽しめるが、この教室の全員の携帯が鳴ったと言うことは、全員が対象だ。俺も含められるし、何より――。
 視線だけを動かし、横目で樋脇の席を見る。あいつは自分の携帯をじっと見つめ、緩やかに瞬く。

「沢村、お前も自分のスマホを見ろよ。メールがやばい」

 ぼんやりとしている沢村の肩を、月島が掴んで声を掛けた。

「……え?」

 沢村は言われるがままに、携帯を取り出した。一人が取り出すと、未だ不安がっている者も我先に見ようとする。大して気にしていなかった彼らも、周囲を見渡して鞄へと手を伸ばした。集団心理って奴だな。
 そしてみな、映し出された画面を一心に見つめる。

「何よこれ……」

 すぐ近くの女生徒が呟いた。

「気味悪い……」
「誰か、ふざけてんのかよ」
「でも全員に届いてるみたいよ。全員分のメルアドを知ってる人っている?」
「いないだろ……」
「月島くんなら知ってそうだけど」
「あいつは誰にもメルアドを教えてくれねえから、知らねえと思うが」
「……何がどうなって」

 ひそひそ、と声が交わされる。陰湿な空気が落とされ、誰もが疑心な目で誰かを映す。これだから人間どもは。
 周囲の状況を大体把握したのち、俺も携帯を取り出す。

『FROM:めりー』
『件名:わたしとあそびましょう?』

 怪文書はそこから始まった。

『げーむはかんたん!
 わたしがこのなかのだれか、さがしてみて!
 もしぜんぶまちがえたら、あなたたちのいのちをもらうわ。とってもたのしみよ。
 ゆうよはみっかかん。いちにちに、いちどだけ、かいとうのちゃんすをあたえるわ。
 そのかわり、いちにちずつあなたたちから、ひとりのいのちをたべちゃう。
 でもなかないで! ひんとだってあたえちゃうから。
 うらないができるひと、まもることができるひと、わたしたちをみとどけるひと、こたえをしるひと。あなたたちはがんばってね!
 ぜ~んぶはずしたら、あなたたちのいのちはぜ~んぶわたしのもの!』

 平仮名で書かれているため読み辛い。
 この中の誰かから、は教室にいる俺たちの誰かがメリーなのだろう。それが憑依なのか、あくまで役割なのか不明だが。
 チャンスは三回あるとも書かれている。
 
 ……何故だ? 
 メリットとデメリットは等しく存在するが、この怪異のデメリットは猶予が存在することなのか? だが一日延ばす代わりに、一人の命も必要としている。燃費がかなり悪いのかもしれない。
 占いが出来る人、守ることが出来る人、私たちを見届ける人、答えを知る人。
 俺はふと不自然な空白を見つけた。まだスクロールが出来る。人差し指を滑らせると、

『追伸:あなたはしんかん。わたしたちをみとどけるもの。へんしん、してね?』

 そう書かれていた。しんかん……私たちを見届ける者。”私たち”にメリーも含まれるとしたら、もしかして神官のことか。悪趣味なことだ。

「なんじゃこりゃ」

 沢村が呟く。

「怪異のフィールドが発動した」

 手短に伝える。

「フィールド?」
「ああ。前に話しただろ」

 すると、沢村が覚えてないって顔をする。

「まあ、沢村の情報処理能力には期待していないからな」
「失礼な……!? 確かに授業中は寝てるし、自習中は窓の外を眺めてるし、普段からぼんやりしてる方だとは思ってるけどさあ!」
「ジョークだ」
「全然冗談には聞こえなかったんですけど!?」

 憤慨する振りをしている沢村を無視し、話を続ける。

「怪異には発動条件があったろ。前回は鏡のある階段で月島が俺を転ばせようとした結果、鏡の怪異が発動してしまった。つまり、鏡の怪異のフィールドは鏡と階段という狭い空間だったんだ。それじゃあ、俺たちの命を狙えるか? 狙えないから、使者を派遣したんだ。フィールドと言うのは、俺たちがいる空間まで干渉が可能であり、怪異が根を張るスポットでもある。その範囲のことだ」
「なるほどぉ。……ん? ってことは、もうフィールドが現れているってこと?」
「そういうことだ」

 そう断言すると、沢村が『ムンクの叫び』になった。『ムンクの叫び』のように、ではなく、『ムンクの叫び』になったんだ。初めて見たぞ、体現する奴。

「巻き込まれてしまった以上、仕方のないことだな。悪いのは善人ボケしてる千堂と、その肩を持ったお前だが。言っておくが、お前らはクラス全員の命を危険に晒したって訳だ。今日の放課後、何か対策を打ち出すしかねえだろ。月島も来いよ」

 俺はそれだけ言い、自分の机に向き直った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...