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第二章 わたし、めりーさん
めりーさんのメール
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だが、今は自習とはいえ、授業中だ。
動揺して隣同士で顔を見合わせていたと思えば、すぐに自分の机と向き合っていく。適応していると言えば聞こえが良いのかもしれないな。隣から「本当に勉強好きな人たちが多いんだから、全く」と見当はずれな感想も聞こえてきた。
沢村を見れば、「いったい何がお望みなのよ」と声を抑え、その電話口へと話しかけた。とうに電話は切れているようで、『この電話番号は現在、使われておりません』と機械的な声が返ってくる。
俺はふん、と鼻を鳴らす。怪異のトリガーは引かれた。
高みの見物を決め込めるのなら楽しめるが、この教室の全員の携帯が鳴ったと言うことは、全員が対象だ。俺も含められるし、何より――。
視線だけを動かし、横目で樋脇の席を見る。あいつは自分の携帯をじっと見つめ、緩やかに瞬く。
「沢村、お前も自分のスマホを見ろよ。メールがやばい」
ぼんやりとしている沢村の肩を、月島が掴んで声を掛けた。
「……え?」
沢村は言われるがままに、携帯を取り出した。一人が取り出すと、未だ不安がっている者も我先に見ようとする。大して気にしていなかった彼らも、周囲を見渡して鞄へと手を伸ばした。集団心理って奴だな。
そしてみな、映し出された画面を一心に見つめる。
「何よこれ……」
すぐ近くの女生徒が呟いた。
「気味悪い……」
「誰か、ふざけてんのかよ」
「でも全員に届いてるみたいよ。全員分のメルアドを知ってる人っている?」
「いないだろ……」
「月島くんなら知ってそうだけど」
「あいつは誰にもメルアドを教えてくれねえから、知らねえと思うが」
「……何がどうなって」
ひそひそ、と声が交わされる。陰湿な空気が落とされ、誰もが疑心な目で誰かを映す。これだから人間どもは。
周囲の状況を大体把握したのち、俺も携帯を取り出す。
『FROM:めりー』
『件名:わたしとあそびましょう?』
怪文書はそこから始まった。
『げーむはかんたん!
わたしがこのなかのだれか、さがしてみて!
もしぜんぶまちがえたら、あなたたちのいのちをもらうわ。とってもたのしみよ。
ゆうよはみっかかん。いちにちに、いちどだけ、かいとうのちゃんすをあたえるわ。
そのかわり、いちにちずつあなたたちから、ひとりのいのちをたべちゃう。
でもなかないで! ひんとだってあたえちゃうから。
うらないができるひと、まもることができるひと、わたしたちをみとどけるひと、こたえをしるひと。あなたたちはがんばってね!
ぜ~んぶはずしたら、あなたたちのいのちはぜ~んぶわたしのもの!』
平仮名で書かれているため読み辛い。
この中の誰かから、は教室にいる俺たちの誰かがメリーなのだろう。それが憑依なのか、あくまで役割なのか不明だが。
チャンスは三回あるとも書かれている。
……何故だ?
メリットとデメリットは等しく存在するが、この怪異のデメリットは猶予が存在することなのか? だが一日延ばす代わりに、一人の命も必要としている。燃費がかなり悪いのかもしれない。
占いが出来る人、守ることが出来る人、私たちを見届ける人、答えを知る人。
俺はふと不自然な空白を見つけた。まだスクロールが出来る。人差し指を滑らせると、
『追伸:あなたはしんかん。わたしたちをみとどけるもの。へんしん、してね?』
そう書かれていた。しんかん……私たちを見届ける者。”私たち”にメリーも含まれるとしたら、もしかして神官のことか。悪趣味なことだ。
「なんじゃこりゃ」
沢村が呟く。
「怪異のフィールドが発動した」
手短に伝える。
「フィールド?」
「ああ。前に話しただろ」
すると、沢村が覚えてないって顔をする。
「まあ、沢村の情報処理能力には期待していないからな」
「失礼な……!? 確かに授業中は寝てるし、自習中は窓の外を眺めてるし、普段からぼんやりしてる方だとは思ってるけどさあ!」
「ジョークだ」
「全然冗談には聞こえなかったんですけど!?」
憤慨する振りをしている沢村を無視し、話を続ける。
「怪異には発動条件があったろ。前回は鏡のある階段で月島が俺を転ばせようとした結果、鏡の怪異が発動してしまった。つまり、鏡の怪異のフィールドは鏡と階段という狭い空間だったんだ。それじゃあ、俺たちの命を狙えるか? 狙えないから、使者を派遣したんだ。フィールドと言うのは、俺たちがいる空間まで干渉が可能であり、怪異が根を張るスポットでもある。その範囲のことだ」
「なるほどぉ。……ん? ってことは、もうフィールドが現れているってこと?」
「そういうことだ」
そう断言すると、沢村が『ムンクの叫び』になった。『ムンクの叫び』のように、ではなく、『ムンクの叫び』になったんだ。初めて見たぞ、体現する奴。
「巻き込まれてしまった以上、仕方のないことだな。悪いのは善人ボケしてる千堂と、その肩を持ったお前だが。言っておくが、お前らはクラス全員の命を危険に晒したって訳だ。今日の放課後、何か対策を打ち出すしかねえだろ。月島も来いよ」
俺はそれだけ言い、自分の机に向き直った。
動揺して隣同士で顔を見合わせていたと思えば、すぐに自分の机と向き合っていく。適応していると言えば聞こえが良いのかもしれないな。隣から「本当に勉強好きな人たちが多いんだから、全く」と見当はずれな感想も聞こえてきた。
沢村を見れば、「いったい何がお望みなのよ」と声を抑え、その電話口へと話しかけた。とうに電話は切れているようで、『この電話番号は現在、使われておりません』と機械的な声が返ってくる。
俺はふん、と鼻を鳴らす。怪異のトリガーは引かれた。
高みの見物を決め込めるのなら楽しめるが、この教室の全員の携帯が鳴ったと言うことは、全員が対象だ。俺も含められるし、何より――。
視線だけを動かし、横目で樋脇の席を見る。あいつは自分の携帯をじっと見つめ、緩やかに瞬く。
「沢村、お前も自分のスマホを見ろよ。メールがやばい」
ぼんやりとしている沢村の肩を、月島が掴んで声を掛けた。
「……え?」
沢村は言われるがままに、携帯を取り出した。一人が取り出すと、未だ不安がっている者も我先に見ようとする。大して気にしていなかった彼らも、周囲を見渡して鞄へと手を伸ばした。集団心理って奴だな。
そしてみな、映し出された画面を一心に見つめる。
「何よこれ……」
すぐ近くの女生徒が呟いた。
「気味悪い……」
「誰か、ふざけてんのかよ」
「でも全員に届いてるみたいよ。全員分のメルアドを知ってる人っている?」
「いないだろ……」
「月島くんなら知ってそうだけど」
「あいつは誰にもメルアドを教えてくれねえから、知らねえと思うが」
「……何がどうなって」
ひそひそ、と声が交わされる。陰湿な空気が落とされ、誰もが疑心な目で誰かを映す。これだから人間どもは。
周囲の状況を大体把握したのち、俺も携帯を取り出す。
『FROM:めりー』
『件名:わたしとあそびましょう?』
怪文書はそこから始まった。
『げーむはかんたん!
わたしがこのなかのだれか、さがしてみて!
もしぜんぶまちがえたら、あなたたちのいのちをもらうわ。とってもたのしみよ。
ゆうよはみっかかん。いちにちに、いちどだけ、かいとうのちゃんすをあたえるわ。
そのかわり、いちにちずつあなたたちから、ひとりのいのちをたべちゃう。
でもなかないで! ひんとだってあたえちゃうから。
うらないができるひと、まもることができるひと、わたしたちをみとどけるひと、こたえをしるひと。あなたたちはがんばってね!
ぜ~んぶはずしたら、あなたたちのいのちはぜ~んぶわたしのもの!』
平仮名で書かれているため読み辛い。
この中の誰かから、は教室にいる俺たちの誰かがメリーなのだろう。それが憑依なのか、あくまで役割なのか不明だが。
チャンスは三回あるとも書かれている。
……何故だ?
メリットとデメリットは等しく存在するが、この怪異のデメリットは猶予が存在することなのか? だが一日延ばす代わりに、一人の命も必要としている。燃費がかなり悪いのかもしれない。
占いが出来る人、守ることが出来る人、私たちを見届ける人、答えを知る人。
俺はふと不自然な空白を見つけた。まだスクロールが出来る。人差し指を滑らせると、
『追伸:あなたはしんかん。わたしたちをみとどけるもの。へんしん、してね?』
そう書かれていた。しんかん……私たちを見届ける者。”私たち”にメリーも含まれるとしたら、もしかして神官のことか。悪趣味なことだ。
「なんじゃこりゃ」
沢村が呟く。
「怪異のフィールドが発動した」
手短に伝える。
「フィールド?」
「ああ。前に話しただろ」
すると、沢村が覚えてないって顔をする。
「まあ、沢村の情報処理能力には期待していないからな」
「失礼な……!? 確かに授業中は寝てるし、自習中は窓の外を眺めてるし、普段からぼんやりしてる方だとは思ってるけどさあ!」
「ジョークだ」
「全然冗談には聞こえなかったんですけど!?」
憤慨する振りをしている沢村を無視し、話を続ける。
「怪異には発動条件があったろ。前回は鏡のある階段で月島が俺を転ばせようとした結果、鏡の怪異が発動してしまった。つまり、鏡の怪異のフィールドは鏡と階段という狭い空間だったんだ。それじゃあ、俺たちの命を狙えるか? 狙えないから、使者を派遣したんだ。フィールドと言うのは、俺たちがいる空間まで干渉が可能であり、怪異が根を張るスポットでもある。その範囲のことだ」
「なるほどぉ。……ん? ってことは、もうフィールドが現れているってこと?」
「そういうことだ」
そう断言すると、沢村が『ムンクの叫び』になった。『ムンクの叫び』のように、ではなく、『ムンクの叫び』になったんだ。初めて見たぞ、体現する奴。
「巻き込まれてしまった以上、仕方のないことだな。悪いのは善人ボケしてる千堂と、その肩を持ったお前だが。言っておくが、お前らはクラス全員の命を危険に晒したって訳だ。今日の放課後、何か対策を打ち出すしかねえだろ。月島も来いよ」
俺はそれだけ言い、自分の机に向き直った。
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