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第二章 わたし、めりーさん
6.探りにやってきた学園保護委員長
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幕間。
時は既に放課後。黒川は連絡に関して不精ぶりを発揮するので、集合場所も知らずに私は教室にいた。けれども、黒川も月島も教室に来る気配が一向にない。
教室で自習をしていた生徒も帰ってしまったので、この教室にいるのは私だけ。一人っきり。
綺麗な夕焼け色が教室内を染め上げた。普段の教室とはかけ離れたぐらい雰囲気が違う。ほんのりとした温もりが眠りにでも誘おうとしている。それに耐えていると、いきなり産毛が逆立った。
「――っ!?」
私は飛び起きた。嫌な気配を感じたのは背後だ。振り返ろうとしたが、悪い予感よりも先に体が固まった。じわりとした汗が滲み出る。自分の心臓の音も大きく聞こえてきた。この嫌な気持ちを払しょくしたい。
だけど――振り返ったら、何かが終わる気がした。私の中にいる何かが、じっとしていろ、と語りかけてくる。
私はおそるおそる窓へと視線を向ける。振り返らなくても背後を確認する手段は一応あったから。
どくり、と心臓が大きく高鳴った。何だか黒い靄が目の端に映った気がする。ゆっくりと蠢いて、私の前へ――。
「あら。まだ教室に残っていらしたの?」
全てが一変する。ハッとして扉の方を見ると、真緒ちゃんと樋脇くんが立っていた。
「――ッ! は、はっ……」
恐怖で呼吸が乱れたのを必死に抑える。瞳孔も開ききっていたかも。
真緒ちゃんは眉を顰め、樋脇くんは苦笑していた。真緒ちゃんはちょっとトラウマだけれど、今のことを鑑みて、命の恩人と言っても過言ではない。でも突然お礼を言っても、変だと思われるし。心の中で感謝の言葉を付け足しておく。
「……ええ、久しぶり。ちょっと待ち人が、ね」
「あら、そうなの」
「二人はどうして?」
「あー、僕は渡辺ちゃんに問い詰められてるところかな」
樋脇くんがそう言うと、真緒ちゃんが樋脇くんの鳩尾に肘鉄を食らわした。
「痛った!!」
上半身を軽く倒し、お腹を両腕で押さえて、真緒ちゃんを緩く睨み上げる樋脇くん。
なーんて言うかさ。
「やっぱり二人とも、仲が良くない?」
ちょっと妬けちゃうかも。なんてね。
樋脇くんは誰に対しても博愛だし、誰とでも仲良くなれる。私にとって苦手な人種である月島や真緒ちゃんとも分け隔てなく接してるし。そこが少し羨ましい。私はステレオタイプだから、どうしても型に人を当て嵌める。だって私の心を守らないといけないから。
「仲良くなんてないわ!」
「僕も同感。腐れ縁ってところかな」
二人とも気のない返事だった。
「えー、そう? 私の目には仲良く見えるけど」
「貴方の目は曇っているのかしら?」
「うっ、そんなこと、ないけど……」
真緒ちゃんの鋭い発言に胸を抑える。
「そうかな。沢村さんは純真って感じ」
「樋脇くん……」
感動して樋脇くんを見つめる。
「純真? 純朴じゃなくて?」
真緒ちゃんがまた言う。ムッとして真緒ちゃんを見つめるも、目が合った瞬間に逸らした。
私ってば、度胸のないやつ……!
そう悔やんでいると、真緒ちゃんが咳払いをした。
「――ああ、そう言えば聞きましたわよ?」
何処となく、わざとらしさを感じる。真緒ちゃんの真意が見えず、戸惑うばかり。樋脇くんの方に顔を向けると、樋脇くんも首を傾げたまま黙っている。
「えっと、何が?」
仕方なく私が聞き返すと、彼女は口の端を上げた。
「クラスで可笑しな現象が起こったのでしょう?」
すぐにメリーさんからの電話もといメールのことだと分かった。
「ああ、あれかあ。もう噂になってるのね。確かに異様な空気だったし」
それでも、ざっと見た感じ、ナーバスになってたのは数人で、少し不安がってたのは半数。全然気にしていない子も半数より多めだったかな。あれ? 半数と半数を足したら、クラス人数って超えちゃうのかな?
「それで貴方はどう思っているのかしら?」
突然の真緒ちゃんの言葉に、思考が途切れる。――私がどう思っているのか? そんなことを聞いてどうするつもり。それ以前の問題として、何が知りたいのか。真緒ちゃんが所属している委員会のことを考えるに、人気者二人の様子が知りたいのかしら。
それとも怪異の解決に身を乗り出してくれるとでも言うの? いや、真緒ちゃんが怪異のことを知っている訳がないか。過度な期待は野暮ってところよね。
「うーんと、私は特にどうも思っていないけど、月島くんと黒川くんは何かしら考えているみたい。だって怖いよね。クラス全員の携帯が同時に鳴ったとか」
「……」
真緒ちゃんが不服そうにしている。お望みの答えじゃなかったっぽい。それなら言葉で示してよ~~泣。
「最初は地震速報かと思ったけど、着信音はみんな違ったしね」
樋脇くんが助け舟(?)を出してくれた。
「そうそう! それに、メールの最後もよく分からなかったし」
「メールの最後って何かしら?」
「えっとね、メールの最後に追伸が書かれてるんだけど、『貴方はな~んにもない! なんてね』って書いてあったの。何にも持ってないとか、意味が分からなくない?」
「何にもない……」
渡辺ちゃんが呟く。
時は既に放課後。黒川は連絡に関して不精ぶりを発揮するので、集合場所も知らずに私は教室にいた。けれども、黒川も月島も教室に来る気配が一向にない。
教室で自習をしていた生徒も帰ってしまったので、この教室にいるのは私だけ。一人っきり。
綺麗な夕焼け色が教室内を染め上げた。普段の教室とはかけ離れたぐらい雰囲気が違う。ほんのりとした温もりが眠りにでも誘おうとしている。それに耐えていると、いきなり産毛が逆立った。
「――っ!?」
私は飛び起きた。嫌な気配を感じたのは背後だ。振り返ろうとしたが、悪い予感よりも先に体が固まった。じわりとした汗が滲み出る。自分の心臓の音も大きく聞こえてきた。この嫌な気持ちを払しょくしたい。
だけど――振り返ったら、何かが終わる気がした。私の中にいる何かが、じっとしていろ、と語りかけてくる。
私はおそるおそる窓へと視線を向ける。振り返らなくても背後を確認する手段は一応あったから。
どくり、と心臓が大きく高鳴った。何だか黒い靄が目の端に映った気がする。ゆっくりと蠢いて、私の前へ――。
「あら。まだ教室に残っていらしたの?」
全てが一変する。ハッとして扉の方を見ると、真緒ちゃんと樋脇くんが立っていた。
「――ッ! は、はっ……」
恐怖で呼吸が乱れたのを必死に抑える。瞳孔も開ききっていたかも。
真緒ちゃんは眉を顰め、樋脇くんは苦笑していた。真緒ちゃんはちょっとトラウマだけれど、今のことを鑑みて、命の恩人と言っても過言ではない。でも突然お礼を言っても、変だと思われるし。心の中で感謝の言葉を付け足しておく。
「……ええ、久しぶり。ちょっと待ち人が、ね」
「あら、そうなの」
「二人はどうして?」
「あー、僕は渡辺ちゃんに問い詰められてるところかな」
樋脇くんがそう言うと、真緒ちゃんが樋脇くんの鳩尾に肘鉄を食らわした。
「痛った!!」
上半身を軽く倒し、お腹を両腕で押さえて、真緒ちゃんを緩く睨み上げる樋脇くん。
なーんて言うかさ。
「やっぱり二人とも、仲が良くない?」
ちょっと妬けちゃうかも。なんてね。
樋脇くんは誰に対しても博愛だし、誰とでも仲良くなれる。私にとって苦手な人種である月島や真緒ちゃんとも分け隔てなく接してるし。そこが少し羨ましい。私はステレオタイプだから、どうしても型に人を当て嵌める。だって私の心を守らないといけないから。
「仲良くなんてないわ!」
「僕も同感。腐れ縁ってところかな」
二人とも気のない返事だった。
「えー、そう? 私の目には仲良く見えるけど」
「貴方の目は曇っているのかしら?」
「うっ、そんなこと、ないけど……」
真緒ちゃんの鋭い発言に胸を抑える。
「そうかな。沢村さんは純真って感じ」
「樋脇くん……」
感動して樋脇くんを見つめる。
「純真? 純朴じゃなくて?」
真緒ちゃんがまた言う。ムッとして真緒ちゃんを見つめるも、目が合った瞬間に逸らした。
私ってば、度胸のないやつ……!
そう悔やんでいると、真緒ちゃんが咳払いをした。
「――ああ、そう言えば聞きましたわよ?」
何処となく、わざとらしさを感じる。真緒ちゃんの真意が見えず、戸惑うばかり。樋脇くんの方に顔を向けると、樋脇くんも首を傾げたまま黙っている。
「えっと、何が?」
仕方なく私が聞き返すと、彼女は口の端を上げた。
「クラスで可笑しな現象が起こったのでしょう?」
すぐにメリーさんからの電話もといメールのことだと分かった。
「ああ、あれかあ。もう噂になってるのね。確かに異様な空気だったし」
それでも、ざっと見た感じ、ナーバスになってたのは数人で、少し不安がってたのは半数。全然気にしていない子も半数より多めだったかな。あれ? 半数と半数を足したら、クラス人数って超えちゃうのかな?
「それで貴方はどう思っているのかしら?」
突然の真緒ちゃんの言葉に、思考が途切れる。――私がどう思っているのか? そんなことを聞いてどうするつもり。それ以前の問題として、何が知りたいのか。真緒ちゃんが所属している委員会のことを考えるに、人気者二人の様子が知りたいのかしら。
それとも怪異の解決に身を乗り出してくれるとでも言うの? いや、真緒ちゃんが怪異のことを知っている訳がないか。過度な期待は野暮ってところよね。
「うーんと、私は特にどうも思っていないけど、月島くんと黒川くんは何かしら考えているみたい。だって怖いよね。クラス全員の携帯が同時に鳴ったとか」
「……」
真緒ちゃんが不服そうにしている。お望みの答えじゃなかったっぽい。それなら言葉で示してよ~~泣。
「最初は地震速報かと思ったけど、着信音はみんな違ったしね」
樋脇くんが助け舟(?)を出してくれた。
「そうそう! それに、メールの最後もよく分からなかったし」
「メールの最後って何かしら?」
「えっとね、メールの最後に追伸が書かれてるんだけど、『貴方はな~んにもない! なんてね』って書いてあったの。何にも持ってないとか、意味が分からなくない?」
「何にもない……」
渡辺ちゃんが呟く。
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