審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第二章 わたし、めりーさん

8.一夜

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 冷たい一夜が訪れる。
 自室のベッドに腰掛けると、弾力が少し跳ね返ってきた。

「さて、どうするか」

 情報が少ない中、それでも怪しい奴を白にするために、神官として回答をしなければならない。もしくは、俺が信じる者は真に白なのか確認するべきだ。

「……どちらを取るか、だな」

 地を固めるのであれば後者だが、今回は命が掛かっている以上、安全策を取る必要性は感じない。しかし、対象者が何十人もいるとなれば、前者ではリスクも大きい。
 回答を誤れば、誰か一人は死ぬ。
 もし怪異が月島を狙えば、おそらく月島が撃退するだろう。いや、確実に撃退する。四十人もいて、月島を狙うことは……ないだろうな。
 そも月島が今回の怪異に巻き込まれているのかも疑問だ。仮にフィールド内にいたとしても、あいつは最後の最後まで狙われない気がする。俺が怪異なら、厄介者は後に回したい。メリットやデメリットがあるからこそ、優先順位をつける習性もある筈だ。月島は頼れないな。

 別にクラスメイトが死んでも、俺は構わない。どうでも良いことだ。
 ――だが、これはあいつからの挑戦だ。一筋縄ではいかないだろう。
 しかし、何故あいつが。明らかに狙いはこのクラスだが、関係しているのは俺だけ。故に、俺に対する挑戦なんだろうが、その理由も定かではない。
 俺が狙いなら、ターゲットは生徒全員ではなくても良い筈だ。わざわざ千堂達に拾わせ、沢村に展開させる切っ掛けを与える意味は無くても良い。あいつだって分かってるだろ。まあ、あいつも月島のように愉快犯な一面もあるしな。今回もただの気まぐれなのかもしれない。大勢を巻き込むのが好きなんだろ。
 それでも売られた喧嘩は買う。俺はフ、と笑った。原因を考えるのは後でも構わない、情報にすらならないからだ。

「現状で、俺はメリーじゃない」

 月島も違う。樋脇もメリーは選ばないだろう。立川だって樋脇の情報通りなら、占う役割を有している。樋脇の思わくは露も知らないが、それでも沢村にとってマイナスになるような行為はしない。立川も白だと断定して良いな。沢村もおそらくは違うとは思うが、全くの白ではない。
 例えば、自身がメリーだと自覚している場合、沢村は顔に出てしまう。だが、無自覚であるなら大穴となるだろう。千堂も沢村と同じ類だ。

「……存外に多いな」

 しかし、問題は他にある。クラスメイトの名前が分からない。斎藤辺りなら覚えてはいるが、今回はモブを選びたい。モブの中でも怪しい奴が良い。
 携帯が鳴り響いていた際に、動じなかった奴は俺たちを除いて、一人だけいた。――桜井だ。
 桜井は前髪が長く、鼻先まで隠れているので野暮ったい印象がある。樋脇の隣席なので、樋脇とよく話している姿を見かける。だが桜井は他の生徒と会話する場面は一度たりとも見たことがない。月島でさえ、桜井と声を交わしたことがないとか。もし樋脇がいなければ、桜井の声など誰も知らなかったに違いない。
 あいつ、男ばっかりモテていやがってな。思わず携帯を握りしめれば、みしり、と音が鳴った。
 
 怪しくはないが、師堂も気になってはいる。師堂が白だと早々に分かれば、月島並みに利用することが出来るだろう。
 師堂と月島は、このクラスの二大勢力であり、ライバル的立場にいる。そうは言っても、月島は誰とでも分け隔てなく話せるが故に、師堂を意識していない。ライバル視しているのは師堂だけだ。
 その意識の差が、二人の間に溝として存在している。

「……まあ、師堂で良いか」

 話が分かる師堂よりも桜井の方を回答したい気持ちもあったが、桜井の性格からして、元から動じない性格のように思える。白に近いだろうな。
 今後の基盤の為にも、師堂の選択が欠かせないと判断したまで。
 俺は携帯を操作し、師堂の名を返信した。だが何も起こらない。これは不正解だと見たな。

「師堂が白って分かっただけでも収穫だ。月島と師堂を使えば、クラス事情は概ね把握可能だ。役職探しも続行しないといけないからな」

 ふと気配を感じる。部屋の天井の隅を見つめてから、背後を振り返る。何もいない。
 今度はベランダへと視線を向けると、そよ風に揺らめくカーテンが目に入る。窓が開けっぱなしだ。ベッドから立ち上がり、カーテンへと近づく。
 ユラユラ、と逃げ惑うそれを強く掴み、勢いよく引けば、……何も無かった。

「……」

 俺はベランダから見える景色を一望した。光に溢れる町。そこには希望があり、その陰から絶望が忍び寄っているのに全く気が付かない。

「……はは、はははっ!」

 その可笑しさに我慢できず、左手で腹を抑え、右手を目の上へと翳す。

「愉しみだな」

 俺は口の端を上げた。
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