審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第二章 わたし、めりーさん

無知の知

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「洋平ちゃんね、」

 私はあんまり話したことないかも。洋平ちゃんは女子バレー部の優秀な人材らしいから、クラスのカーストも上位だ。月島ともよく話しているのを見掛けるし、師堂くんとも仲が良さそうだったっけ。カースト底辺な私とはあまり気が合わなそうだけど、まあ明るくて良い人っぽいしなあ。

「おっけ、聞いてみよ。でも部活は大丈夫なのかな」
「大丈夫っしょ。あいつ、足首を捻挫して暫くは勉学優先するっつってたから」
「へえ」

 それは大変だなって月並みな心配しかない。大丈夫だからこそ、学校に通っている訳だろうし、過度な心配は毒にも成り得る。そもそも私のような日陰者が心配しても、むしろ迷惑に思われるかもしれない。

「洋平、今良いか?」

 ショートカットの似合う可愛くて小顔な洋平ちゃんが、顔を上げる。

「別に良いけど、何?」

 洋平ちゃんの瞳が、月島の隣にいる私へと向けられる。あまり私とは接点がないから、少し困惑しているみたい。
 ですよね、と内心では思いつつ、私はにっこりと愛想笑いをしておく。

「いやさ、最近おかしなことあっただろ」
「ああ、って今日の朝も同じ話したじゃん! もう忘れてんの」
「いんや。オレら、怖い話が好きなんだわ。だから聞き込みしてんの」
「へえ? 月島が怖あい話を好きだなんて初めて知った」

 二人の会話に邪魔しないよう見守っていると、「ええと、沢村さんだよね」と洋平ちゃんが声を掛けてくれた。

「ウン。ええと、洋平ちゃん……って呼んでも構わないかな?」
「うーん、正直嫌だね。でも沢村さんの言い方には嫌味がないから。許してあげる、なんてね」

 洋平ちゃんが自然な動作でウインクをしてきた。
 す、凄い……。これが陽キャってこと!?

「それで何が聞きたいの?」
「朝の時、特に何も感じないって言ってただろ。今はどう思ってる? 何か嫌な感じがしたとかさ」
「霊感なんて無いし、今でも何も思わないけど。でも電灯が壊れたのは驚いたよね。沢村さんは大丈夫だった?」
「なんともないよ。月島くんのお陰でね」
「だろ? やっとオレの有難みが分かっただろ」
「それは分かんないかな」

 月島のお陰で女子からは疎まれるし、本人からも命を狙われるし、良いことはない。

「……もしかしてさ、二人って付き合ってる?」

 何を血迷ったのか、洋平ちゃんがそう切り出した。

「それはないから! 月島くんと付き合うくらいなら、洋平ちゃんと付き合う!」
「えっ」
「いやいや、オレと付き合った方が将来、楽できるだろ」

 洋平ちゃんがぽかり、と大きく口を開き、月島は私の肩に手を回して顔を近づけてくる。こいつ、最近馴れ馴れしいな。

「楽って言うか、人生からジ・エンドってことでしょ」
「えっ」

 横から驚く声が聞こえてくるけど、絶対に勘違いしていると思う。ハッピーエンドじゃなくて、バッドエンドだから。
 目と鼻の先にいる月島の足を踏んづけ、その肩を跳ね除ける。月島の存在自体を無視し、洋平ちゃんの机に手を置いて凄む。

「絶対に勘違いしないでね」
「わ、分かった」

 洋平ちゃんが頷いたのを見届け、話題を変えてみる。

「友達とメールのことで話さなかった?」
「ああ、あの皆に届いたメールのことでしょ。勿論、話題になったよ」
「どんな会話だったか教えてくれないかな」
「怖いねとか意味不明とか言い合ったぐらいかな。最後の『貴方はな~んにもない』とかムカつくよねって」
「ああ、あれね。私も気を揉んだもの」
「やっぱそう思うよね! 本当に酷いし」
「うんうん、しかもさ、その後に『なんてね』とか書いてあったのも酷いよね」
「え?」

 洋平ちゃんが目を丸くさせた。

「私は『なんてね』って無かったよ?」

 今度は私が驚く番だった。

「つまり、私は他の子よりも見下され……?」
「そんなの、本当にひどいっ。更に煽ってんじゃん。気にしなくて良いよ、沢村さん! こんなことする奴、私たちのこと、舐めすぎ」
「いや、クラスの大勢がそう書かれてるんだろ」

 暫く蹲っていた月島が復活し、余計な茶々を入れてくる。

「だから、こんなメールを送ってくる奴は、私たちクラスメイトのことを普段から舐めてるのよ」

 あ、余計なお茶を足したのは私でしたね。死んだ目で洋平ちゃんを見る。

「……洋平ちゃんはこのメールを送った人物がクラスの誰かだと思ってるの?」

 私は静かにそう訊く。すると洋平ちゃんが瞬いて、「皆はこのクラスが呪われたとか言ってたけど、どう考えても悪戯でしょ」と言い切った。
 まあ、普通はそう思うよね……ですよね……。

「誰か役割が与えられている人はいたか?」

 話が進まないと判断した月島が問う。

「役割? ああ、月島が皆に聞いて回ってたやつね。うーん、特に聞かないかな」
「そうか。助かったぜ。他に何か分かったら、すぐに教えてくれ」
「おっけい」

 月島に背中を叩かれ、私もその場を離れる。洋平ちゃんは私たちと話を続けていた時に、身支度を終えていたので、すぐに教室から出て行った。松葉杖を使いこなし、きびきびとした動きは流石、運動神経抜群だと頷かされてしまう。

「どう思う?」

 私は月島を見上げた。

「何も知らない様子だったな」
「そうだね」
「ま、お陰で分かったこともあるし。洋平に聞けて良かったな」

 にへら、と笑う月島に私は一驚した。

「え、分かったことあるの!?」
「え、そうだけど」

 月島も驚いたように目を見開いた。お互い同じ表情を向けているも、思考は全く違った。
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