94 / 111
第二章 わたし、めりーさん
無知の知
しおりを挟む
「洋平ちゃんね、」
私はあんまり話したことないかも。洋平ちゃんは女子バレー部の優秀な人材らしいから、クラスのカーストも上位だ。月島ともよく話しているのを見掛けるし、師堂くんとも仲が良さそうだったっけ。カースト底辺な私とはあまり気が合わなそうだけど、まあ明るくて良い人っぽいしなあ。
「おっけ、聞いてみよ。でも部活は大丈夫なのかな」
「大丈夫っしょ。あいつ、足首を捻挫して暫くは勉学優先するっつってたから」
「へえ」
それは大変だなって月並みな心配しかない。大丈夫だからこそ、学校に通っている訳だろうし、過度な心配は毒にも成り得る。そもそも私のような日陰者が心配しても、むしろ迷惑に思われるかもしれない。
「洋平、今良いか?」
ショートカットの似合う可愛くて小顔な洋平ちゃんが、顔を上げる。
「別に良いけど、何?」
洋平ちゃんの瞳が、月島の隣にいる私へと向けられる。あまり私とは接点がないから、少し困惑しているみたい。
ですよね、と内心では思いつつ、私はにっこりと愛想笑いをしておく。
「いやさ、最近おかしなことあっただろ」
「ああ、って今日の朝も同じ話したじゃん! もう忘れてんの」
「いんや。オレら、怖い話が好きなんだわ。だから聞き込みしてんの」
「へえ? 月島が怖あい話を好きだなんて初めて知った」
二人の会話に邪魔しないよう見守っていると、「ええと、沢村さんだよね」と洋平ちゃんが声を掛けてくれた。
「ウン。ええと、洋平ちゃん……って呼んでも構わないかな?」
「うーん、正直嫌だね。でも沢村さんの言い方には嫌味がないから。許してあげる、なんてね」
洋平ちゃんが自然な動作でウインクをしてきた。
す、凄い……。これが陽キャってこと!?
「それで何が聞きたいの?」
「朝の時、特に何も感じないって言ってただろ。今はどう思ってる? 何か嫌な感じがしたとかさ」
「霊感なんて無いし、今でも何も思わないけど。でも電灯が壊れたのは驚いたよね。沢村さんは大丈夫だった?」
「なんともないよ。月島くんのお陰でね」
「だろ? やっとオレの有難みが分かっただろ」
「それは分かんないかな」
月島のお陰で女子からは疎まれるし、本人からも命を狙われるし、良いことはない。
「……もしかしてさ、二人って付き合ってる?」
何を血迷ったのか、洋平ちゃんがそう切り出した。
「それはないから! 月島くんと付き合うくらいなら、洋平ちゃんと付き合う!」
「えっ」
「いやいや、オレと付き合った方が将来、楽できるだろ」
洋平ちゃんがぽかり、と大きく口を開き、月島は私の肩に手を回して顔を近づけてくる。こいつ、最近馴れ馴れしいな。
「楽って言うか、人生からジ・エンドってことでしょ」
「えっ」
横から驚く声が聞こえてくるけど、絶対に勘違いしていると思う。ハッピーエンドじゃなくて、バッドエンドだから。
目と鼻の先にいる月島の足を踏んづけ、その肩を跳ね除ける。月島の存在自体を無視し、洋平ちゃんの机に手を置いて凄む。
「絶対に勘違いしないでね」
「わ、分かった」
洋平ちゃんが頷いたのを見届け、話題を変えてみる。
「友達とメールのことで話さなかった?」
「ああ、あの皆に届いたメールのことでしょ。勿論、話題になったよ」
「どんな会話だったか教えてくれないかな」
「怖いねとか意味不明とか言い合ったぐらいかな。最後の『貴方はな~んにもない』とかムカつくよねって」
「ああ、あれね。私も気を揉んだもの」
「やっぱそう思うよね! 本当に酷いし」
「うんうん、しかもさ、その後に『なんてね』とか書いてあったのも酷いよね」
「え?」
洋平ちゃんが目を丸くさせた。
「私は『なんてね』って無かったよ?」
今度は私が驚く番だった。
「つまり、私は他の子よりも見下され……?」
「そんなの、本当にひどいっ。更に煽ってんじゃん。気にしなくて良いよ、沢村さん! こんなことする奴、私たちのこと、舐めすぎ」
「いや、クラスの大勢がそう書かれてるんだろ」
暫く蹲っていた月島が復活し、余計な茶々を入れてくる。
「だから、こんなメールを送ってくる奴は、私たちクラスメイトのことを普段から舐めてるのよ」
あ、余計なお茶を足したのは私でしたね。死んだ目で洋平ちゃんを見る。
「……洋平ちゃんはこのメールを送った人物がクラスの誰かだと思ってるの?」
私は静かにそう訊く。すると洋平ちゃんが瞬いて、「皆はこのクラスが呪われたとか言ってたけど、どう考えても悪戯でしょ」と言い切った。
まあ、普通はそう思うよね……ですよね……。
「誰か役割が与えられている人はいたか?」
話が進まないと判断した月島が問う。
「役割? ああ、月島が皆に聞いて回ってたやつね。うーん、特に聞かないかな」
「そうか。助かったぜ。他に何か分かったら、すぐに教えてくれ」
「おっけい」
月島に背中を叩かれ、私もその場を離れる。洋平ちゃんは私たちと話を続けていた時に、身支度を終えていたので、すぐに教室から出て行った。松葉杖を使いこなし、きびきびとした動きは流石、運動神経抜群だと頷かされてしまう。
「どう思う?」
私は月島を見上げた。
「何も知らない様子だったな」
「そうだね」
「ま、お陰で分かったこともあるし。洋平に聞けて良かったな」
にへら、と笑う月島に私は一驚した。
「え、分かったことあるの!?」
「え、そうだけど」
月島も驚いたように目を見開いた。お互い同じ表情を向けているも、思考は全く違った。
私はあんまり話したことないかも。洋平ちゃんは女子バレー部の優秀な人材らしいから、クラスのカーストも上位だ。月島ともよく話しているのを見掛けるし、師堂くんとも仲が良さそうだったっけ。カースト底辺な私とはあまり気が合わなそうだけど、まあ明るくて良い人っぽいしなあ。
「おっけ、聞いてみよ。でも部活は大丈夫なのかな」
「大丈夫っしょ。あいつ、足首を捻挫して暫くは勉学優先するっつってたから」
「へえ」
それは大変だなって月並みな心配しかない。大丈夫だからこそ、学校に通っている訳だろうし、過度な心配は毒にも成り得る。そもそも私のような日陰者が心配しても、むしろ迷惑に思われるかもしれない。
「洋平、今良いか?」
ショートカットの似合う可愛くて小顔な洋平ちゃんが、顔を上げる。
「別に良いけど、何?」
洋平ちゃんの瞳が、月島の隣にいる私へと向けられる。あまり私とは接点がないから、少し困惑しているみたい。
ですよね、と内心では思いつつ、私はにっこりと愛想笑いをしておく。
「いやさ、最近おかしなことあっただろ」
「ああ、って今日の朝も同じ話したじゃん! もう忘れてんの」
「いんや。オレら、怖い話が好きなんだわ。だから聞き込みしてんの」
「へえ? 月島が怖あい話を好きだなんて初めて知った」
二人の会話に邪魔しないよう見守っていると、「ええと、沢村さんだよね」と洋平ちゃんが声を掛けてくれた。
「ウン。ええと、洋平ちゃん……って呼んでも構わないかな?」
「うーん、正直嫌だね。でも沢村さんの言い方には嫌味がないから。許してあげる、なんてね」
洋平ちゃんが自然な動作でウインクをしてきた。
す、凄い……。これが陽キャってこと!?
「それで何が聞きたいの?」
「朝の時、特に何も感じないって言ってただろ。今はどう思ってる? 何か嫌な感じがしたとかさ」
「霊感なんて無いし、今でも何も思わないけど。でも電灯が壊れたのは驚いたよね。沢村さんは大丈夫だった?」
「なんともないよ。月島くんのお陰でね」
「だろ? やっとオレの有難みが分かっただろ」
「それは分かんないかな」
月島のお陰で女子からは疎まれるし、本人からも命を狙われるし、良いことはない。
「……もしかしてさ、二人って付き合ってる?」
何を血迷ったのか、洋平ちゃんがそう切り出した。
「それはないから! 月島くんと付き合うくらいなら、洋平ちゃんと付き合う!」
「えっ」
「いやいや、オレと付き合った方が将来、楽できるだろ」
洋平ちゃんがぽかり、と大きく口を開き、月島は私の肩に手を回して顔を近づけてくる。こいつ、最近馴れ馴れしいな。
「楽って言うか、人生からジ・エンドってことでしょ」
「えっ」
横から驚く声が聞こえてくるけど、絶対に勘違いしていると思う。ハッピーエンドじゃなくて、バッドエンドだから。
目と鼻の先にいる月島の足を踏んづけ、その肩を跳ね除ける。月島の存在自体を無視し、洋平ちゃんの机に手を置いて凄む。
「絶対に勘違いしないでね」
「わ、分かった」
洋平ちゃんが頷いたのを見届け、話題を変えてみる。
「友達とメールのことで話さなかった?」
「ああ、あの皆に届いたメールのことでしょ。勿論、話題になったよ」
「どんな会話だったか教えてくれないかな」
「怖いねとか意味不明とか言い合ったぐらいかな。最後の『貴方はな~んにもない』とかムカつくよねって」
「ああ、あれね。私も気を揉んだもの」
「やっぱそう思うよね! 本当に酷いし」
「うんうん、しかもさ、その後に『なんてね』とか書いてあったのも酷いよね」
「え?」
洋平ちゃんが目を丸くさせた。
「私は『なんてね』って無かったよ?」
今度は私が驚く番だった。
「つまり、私は他の子よりも見下され……?」
「そんなの、本当にひどいっ。更に煽ってんじゃん。気にしなくて良いよ、沢村さん! こんなことする奴、私たちのこと、舐めすぎ」
「いや、クラスの大勢がそう書かれてるんだろ」
暫く蹲っていた月島が復活し、余計な茶々を入れてくる。
「だから、こんなメールを送ってくる奴は、私たちクラスメイトのことを普段から舐めてるのよ」
あ、余計なお茶を足したのは私でしたね。死んだ目で洋平ちゃんを見る。
「……洋平ちゃんはこのメールを送った人物がクラスの誰かだと思ってるの?」
私は静かにそう訊く。すると洋平ちゃんが瞬いて、「皆はこのクラスが呪われたとか言ってたけど、どう考えても悪戯でしょ」と言い切った。
まあ、普通はそう思うよね……ですよね……。
「誰か役割が与えられている人はいたか?」
話が進まないと判断した月島が問う。
「役割? ああ、月島が皆に聞いて回ってたやつね。うーん、特に聞かないかな」
「そうか。助かったぜ。他に何か分かったら、すぐに教えてくれ」
「おっけい」
月島に背中を叩かれ、私もその場を離れる。洋平ちゃんは私たちと話を続けていた時に、身支度を終えていたので、すぐに教室から出て行った。松葉杖を使いこなし、きびきびとした動きは流石、運動神経抜群だと頷かされてしまう。
「どう思う?」
私は月島を見上げた。
「何も知らない様子だったな」
「そうだね」
「ま、お陰で分かったこともあるし。洋平に聞けて良かったな」
にへら、と笑う月島に私は一驚した。
「え、分かったことあるの!?」
「え、そうだけど」
月島も驚いたように目を見開いた。お互い同じ表情を向けているも、思考は全く違った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる