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第二章 わたし、めりーさん
11.無駄な行動を起こせ!
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幕間。
気楽に「ま、嘘だったんだけどな」と笑っている月島の顔をぶん殴りたい。そんな衝動を抑え、私は「何で嘘をついた訳?」と問い詰めた。
だって授業のレポートをやっていないだとか大焦りしていた癖に、既に事前提出していたとか無いでしょ。黒川だってレポートを終わらせていないことに対して呆れ果てた後、帰りの会が終わってすぐ帰宅したみたいだし。
「そりゃ人間関係の潤滑油ってやつよ」
「意味わかんないんだけど。どういうこと?」
「別に理解しなくても良いんだぜ」
これは裏があると見た。
「ともかくさ、今回のこと。どう思ってる?」
話題の切り替えが早すぎるんだけど。
私は胡乱げに月島の顔を見た。
「どういう意味?」
「いやあ、オレたちは助かるのかって話」
「それは……まあ、危機感は無いかな。だって何日後に私たちは死にますって言われても、現実的じゃないじゃない」
「そらそうだ」
「でも解決は難しい気もする」
前回の鏡の怪異は、特に何もしていない。ぶっつけ本番でパーティーに飛び入り参加したようなものだ。あの時の私たちは無力だったし、今回もそうだと思う。
「ふうん」
含みのある返事に、私は月島を睨み上げた。
「何よ」
「まあ、黒川から見ればそうだろうな」
月島の言っている意味が分からない。
「オレはさ、今回のことに関しては何も心配してねえぜ。メリーサンの範囲がこの教室だった時点で、オレたちは救われている」
「どういうことよ」
「オレたちには月の女神が付いているってことだぜ」
このまま押し問答を繰り返してもはぐらかされるだけ。だから質問を変えてみた。
「……何を証拠に言ってるのかしら」
「初日に誰も犠牲がいなかったからな」
「――狩人のこと?」
月島はただ笑みを浮かべるばかりだ。肯定も否定もしない。つまりはそういうことだった。多分、月島は狩人が誰なのか知っている。もしくは、狩人じゃなかったとしても、私たちを助けてくれる人?
目の奥で一瞬だけ、樋脇くんの姿が浮かんだ。でも、このクラスには風変りな人たちがいるから、誰のことなのか分からない。陰陽師の血を継いでいる人(噂だから暫定ではないけれども)もいるし、小人を見たって言う人もいるし。
だけど、きっと月島くんが言いたいのは、そういうことでもない。
「そもそも勝ちレースだから、私たちが行動を起こす必要も無いってこと?」
「概ねそうだな」
「概ね……?」
「ああ。オレたちは行動を起こさないといけない」
「ええと、情報が欲しいってこと?」
「そうとも言うし、そうとは言わない」
「ちょっと! 殴るわよ!」
月島なら簡単に躱しそうだけど、受け入れてもくれそう。邪なことを考えながら、拳を握り締める。
「沢村になら、殴られても良いぜ」
見透かされたように、そう言われる。
「それは気持ち悪い」
間髪置かずに言えば、「ひっでえな!」と本人はからり、と笑った。全く気にしていないみたいだ。
「オレたちだって、手をこまねいているよりは何かしたいだろ」
「それはまあ、そうだけどさ」
「じゃあ、聞き込み行こうぜ」
「え?」
私は唖然とする。
「黒川の言う通り、無駄な行動を起こそうぜ。楽しいぞ」
「ええ……」
思いっきり引いた目を向けたが、月島はニコニコと私を見ている。随分と機嫌が良さそう。月島の思考回路はさっぱりだし、無駄だと分かっていても敢えて行う理由が、本当に分からない。――でも。
「何もやらないよりはマシか」
書庫にすら入れない私が出来ることは、この現状から抗うことだけ。
「良いわ、やってやろうじゃないの」
「おっ、そうこなくちゃな!」
月島が手を差し出してくる。
「行こうぜ!」
爽やかなスマイルを向けられ、私は……。
「誰から聞き込みする?」
月島の手を無視して、教室内を見渡した。放課後になったばかりだけれど、生徒は少ない。皆は既に部活に向かった後なんだろうなあ。
無視されても堪えない月島が、私の肩を叩き、「洋平に聞いてみるか」と言う。
気楽に「ま、嘘だったんだけどな」と笑っている月島の顔をぶん殴りたい。そんな衝動を抑え、私は「何で嘘をついた訳?」と問い詰めた。
だって授業のレポートをやっていないだとか大焦りしていた癖に、既に事前提出していたとか無いでしょ。黒川だってレポートを終わらせていないことに対して呆れ果てた後、帰りの会が終わってすぐ帰宅したみたいだし。
「そりゃ人間関係の潤滑油ってやつよ」
「意味わかんないんだけど。どういうこと?」
「別に理解しなくても良いんだぜ」
これは裏があると見た。
「ともかくさ、今回のこと。どう思ってる?」
話題の切り替えが早すぎるんだけど。
私は胡乱げに月島の顔を見た。
「どういう意味?」
「いやあ、オレたちは助かるのかって話」
「それは……まあ、危機感は無いかな。だって何日後に私たちは死にますって言われても、現実的じゃないじゃない」
「そらそうだ」
「でも解決は難しい気もする」
前回の鏡の怪異は、特に何もしていない。ぶっつけ本番でパーティーに飛び入り参加したようなものだ。あの時の私たちは無力だったし、今回もそうだと思う。
「ふうん」
含みのある返事に、私は月島を睨み上げた。
「何よ」
「まあ、黒川から見ればそうだろうな」
月島の言っている意味が分からない。
「オレはさ、今回のことに関しては何も心配してねえぜ。メリーサンの範囲がこの教室だった時点で、オレたちは救われている」
「どういうことよ」
「オレたちには月の女神が付いているってことだぜ」
このまま押し問答を繰り返してもはぐらかされるだけ。だから質問を変えてみた。
「……何を証拠に言ってるのかしら」
「初日に誰も犠牲がいなかったからな」
「――狩人のこと?」
月島はただ笑みを浮かべるばかりだ。肯定も否定もしない。つまりはそういうことだった。多分、月島は狩人が誰なのか知っている。もしくは、狩人じゃなかったとしても、私たちを助けてくれる人?
目の奥で一瞬だけ、樋脇くんの姿が浮かんだ。でも、このクラスには風変りな人たちがいるから、誰のことなのか分からない。陰陽師の血を継いでいる人(噂だから暫定ではないけれども)もいるし、小人を見たって言う人もいるし。
だけど、きっと月島くんが言いたいのは、そういうことでもない。
「そもそも勝ちレースだから、私たちが行動を起こす必要も無いってこと?」
「概ねそうだな」
「概ね……?」
「ああ。オレたちは行動を起こさないといけない」
「ええと、情報が欲しいってこと?」
「そうとも言うし、そうとは言わない」
「ちょっと! 殴るわよ!」
月島なら簡単に躱しそうだけど、受け入れてもくれそう。邪なことを考えながら、拳を握り締める。
「沢村になら、殴られても良いぜ」
見透かされたように、そう言われる。
「それは気持ち悪い」
間髪置かずに言えば、「ひっでえな!」と本人はからり、と笑った。全く気にしていないみたいだ。
「オレたちだって、手をこまねいているよりは何かしたいだろ」
「それはまあ、そうだけどさ」
「じゃあ、聞き込み行こうぜ」
「え?」
私は唖然とする。
「黒川の言う通り、無駄な行動を起こそうぜ。楽しいぞ」
「ええ……」
思いっきり引いた目を向けたが、月島はニコニコと私を見ている。随分と機嫌が良さそう。月島の思考回路はさっぱりだし、無駄だと分かっていても敢えて行う理由が、本当に分からない。――でも。
「何もやらないよりはマシか」
書庫にすら入れない私が出来ることは、この現状から抗うことだけ。
「良いわ、やってやろうじゃないの」
「おっ、そうこなくちゃな!」
月島が手を差し出してくる。
「行こうぜ!」
爽やかなスマイルを向けられ、私は……。
「誰から聞き込みする?」
月島の手を無視して、教室内を見渡した。放課後になったばかりだけれど、生徒は少ない。皆は既に部活に向かった後なんだろうなあ。
無視されても堪えない月島が、私の肩を叩き、「洋平に聞いてみるか」と言う。
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