審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第二章 わたし、めりーさん

解決?

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「……お前がメリーだって知って、そりゃ慌てた。すぐに樋脇くんに相談しようと思いましたが、樋脇くんに言われましたよ。『言わなくても分かったから、良いよ』って。僕が自分から言わない以上、気付かない振りをしてくれたんです。出来た人間です、流石は樋脇くん」
「それ、樋脇しか褒めてねえじゃん」

 千堂が笑いそうになり、慌てて口許を引き締めたせいで、口角が歪む。

「……お前がメリーだったら、お前に何かあったら……、お前の母親が泣くだろ……」
「立川……」
「お前がいなければ、あの人は……」

 立川の声は震えていた。普段は冷静沈着な立川の感情が露わになっていく様子に、沢村も月島も黙って二人を見つめていた。
 千堂の母親など知らないが、立川にとっても大事な人なんだろう。

「立川」

 千堂は立川の胸倉を放した。そして立川の肩に手を置き、目を合わせる。顔をくしゃりと歪めた立川と、辛そうに笑った千堂。その視線が交わって、すぐに弾けた。
 千堂が向日葵のような輝かしいばかりの笑顔を立川へと向け、「ありがとな!」と言った。

「……ええ」

 立川は礼を受け入れた。そして掠れた声で、「こちらこそです」と口の端を上げた。これで一件落着だな。

「メリーの怪異が変容したのも、千堂の携帯に乗り移ったからだろうな」
「どういうこと?」

 沢村が俺を見上げる。

「千堂も人狼ゲームをやっているって言ってただろ。メリーが人狼ゲームを知るきっかけはそこだけだ」
「ああ、確かに……でも、怪異自身も学習することってあるんだね」
「……それは、どうかな」

 あいつが何を思って、メリーの怪異を創り出したのか分からない。最初から人狼ゲームを練りこんだ可能性だってあったが、千堂が人狼ゲームのアプリをインストールしていた事実は偶然だったとは言えない。
 もし沢村が電話口に出た時、誰もが着席していたとしたら――。メリーは月島、もしくはその後ろの人物になっていた。その人物が人狼ゲームをインストールしていなければ、別のゲームになっていたかもしれない。メリーが人狼ゲームに触れたタイミング、それが問題なのだ。

 何がともあれ、今回も解決した。俺はそう判断し、千堂の名前を入力してそのまま返信した。次の瞬間、この場にいた全員の携帯の着信音が鳴り響いた。沢村たちが咄嗟に携帯を取り出すと、一通のメールが届いていた。
 俺の画面にも通知が来ており、迷わず指を運ぶ。

『あなたたちのかち! ざーん、ネン…ゆ、るさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない』

 スクロールを繰り返しても、『ゆるさない』と何処までも続く。
 そして俺たちの携帯がいきなり音を立てて、隙間と言う隙間から黒い液体が飛び散った。

「うわっ!」
「ひえっ!」

 互いの手にあった携帯は黒い液体に濡れ、自分たちの手も汚れた。被害が大きいのは、沢村のリビングだろう。墨じゅを振り回した、と言い訳するしかない程、部屋中が黒い液体に塗れていた。テレビの画面やソファだけでなく、天井からも黒い雫が滴り落ちてくる。
 家の主である沢村は、呆然とその様子を見つめていた。俺たち全員の携帯が対象だとすれば、クラスメイトたちの携帯も一気にお陀仏だな。特に鞄の中に入れっぱなしだと、教科書類も汚れてしまっただろう。

「何だよ、これ! 気色わりい!」

 千堂がぐっしょりと濡れた手を振る。床に落ちた携帯からどろり、と黒い液体が零れていく。――そして、意思があるように蠢いた。
 それを見た瞬間、俺は動き出した。床に落とした千堂の携帯、立川と沢村の手の中にあった携帯をひったくるようにして奪い、自分の携帯も持って窓際へと向かう。すぐに窓を開けると、風が吹き抜けた。嫌な予感がする。

「あ、おいっ」

 後ろから千堂の声が聞こえてきたが、それを無視し、俺は全ての携帯を外へと放り投げた。暗闇の中でガシャリ、と甲高い音が聞こえてくる。

「おいおい! 何してくれてんだよっ」
「千堂。黒川くんの判断が正しいかもしれませんよ」
「え?」
「全員の携帯から謎の流体が噴き出したんです。その時点で機械はお陀仏になったでしょうし。これは……信じるしかないようですね。非現実的な存在が実在するのかは別として……」

 あくまで目の前に起きた現象だけを信じる、と立川は考えたようだ。黒い液体の飛沫は、リビング中にあるからな。怪現象が起こった証拠は残っている。それでも怪奇現象を証明することは叶わない。俺たちが見たと言い張っても、それこそ無駄だ。
 粘着のある黒い液体は、窓に向かって、ぬるぬると動き出した。亀の歩みだ。全員がその液体の行方を見守っていると、月島が何処から持ってきたのか、塵取りで掬い取った。そして窓から捨てる。

「よし、オッケーだな」
「これは、つまり?」

 沢村が声に出す。

「――メリーの怪異は解決ってことだな」

 俺はそう返した。







「――そんな訳ないじゃない」

 少女は包闇から反論した。能天気にも解決した、だなんて莫迦らしい。
 未だに怪異だか怪談だか知らないが、あれはまだ生きている。沢村の私有地に聳える桃の木の上から、腰を屈めて、抗おうとするそれを見つめる。黒い液体が徐々に形成され、蛞蝓のようなモノが生まれる。飛沫だと再生はしないようね、とカーテンの引かれていない窓へと横目で様子を見る。
 少女は片手を胸に寄せ、素早く九字を切ると、液体が集まり溢れ出していく黒い霧がすぐに散った。

「全く。役に立たないじゃない、あいつら」

 窓から見える彼らの顔を一瞥し、一時間ほど前に送られてきたメールを思い出す。すぐに鼻で笑い、そこから飛び降り、彼らの携帯を回収していく。
 そんな少女の影を偶然目にしたのは、一人だけだった。――黒川は誰かがいた気配を感じ取り、鋭い目つきで周辺を睨んだ。誰がいたのか、判別は不可能だった。

「なるほど。この学校には面白いやつがまだまだいるってことだな」

 黒川は静かに口の端をつり上げると、沢村が「どうかしたの?」と声を掛けてきた。首を緩く振って、「何でもない」と返した。
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