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3.柘榴
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3.柘榴
そんなこんなで、レヴィアとの生活が始まった。
どうやら彼は「辺境伯」という立場の人間らしい。
だから国境近くの森の奥に住んでいるのだと、俺の面倒をみる事になった赤髪のメイドが教えてくれた。
階級などには疎い俺だが、間違いなく上流階級の人間なのだろう。この何ひとつ不自由ない生活が物語っている。
朝起きれば、専属メイドが綺麗に身支度を整え、食べた事の無い程に美味しい食事が振る舞われる。
それまで何か食べるという事をしてこなかった故に、初めは少し抵抗を覚えたが、俺の身体は難なく食物を受け入れてくれた。今ではそれらを「美味しい」と感じ取れる程だ。
そして俺は「誰かと食事をする」楽しさを知った。
朝早くにどこかへ出掛け、夜遅くに帰ってくる事の多いレヴィアは、俺が暇をしないようにとありったけの本を用意してくれた。
――結局、あの日壁に穴を開けた、銀髪赤眼の男の事は何ひとつ分からない。
「そのうち何か分かるかもしれないし」と、暫くはこの心地よい生活に身を置くことにした。
そして今日も、仕事から帰ってきたレヴィアは、湯浴みを終えソファーに腰掛け紅茶を嗜んでいた。
俺も隣に座り、メイドの淹れたフルーティーな香りのする紅茶に口を付けながら、本棚の方へと目を遣る。
壁一面に広がる本棚に、覚えのある背表紙を見つけ、紅茶を置き思わず立ち上がる。
「この本……」
「読んだことある本だった?」
レヴィアも紅茶をテーブルに置きながら、吸い込まれるように本棚へと歩く俺の事を見つめている。
「これ、知ってる。とても印象深い内容だったから」
俺が持ち帰った本は「天使と悪魔」と書かれた、1冊の小説だった。
「へぇ……私は知らないな。どんな内容なの?」
パラっとページを捲ると、自然と2人の視線がそこへと向く。
「鳥籠に閉じ込められ羽根を捥がれた天使が、ある日突然目の前に現れた悪魔と恋に落ちる話なんだけれど……」
「なるほど……悲恋、かな?」
天使と悪魔、相容れぬ存在が恋をして報われない話なら何度か目にした事があるし、恐らくレヴィアもそうなのだろう。
けれどこの話は違っている。
レヴィアの言葉に、俺は大きく首を横に振った。
「天使は……外に出してくれた悪魔を盲愛して、全部捧げるんだ。己の清い心も、純潔も――全てを捧げて闇に染まる。そうして天界からも魔界からも見放された2人は、永遠に2人きりの世界で生きていくんだ」
「……それは面白そうだね」
パラパラと紙を指で捲り続けていると、あるページを開いた時に、スッとレヴィアの長い指が次のページを捲るのを制した。
「何か気になるところあった?」
「これ、私たちもやりたいな」
指し示された場所は――天使と悪魔が、挨拶がわりにキスをするシーン。
「――ッ、え……? これ、を……俺とレヴィアが?」
「そう、私たちの挨拶。いいと思わない?」
初めて邸に来た日以来、レヴィアが特にボディタッチをしてくる事はなかった。確かにやたらと距離は近いななんて思ってはいたけれど。
それを……色々すっ飛ばしてキス、したいと言い出したのだ、この男は。
「で、でも……」
流石にふたつ返事で許諾することは出来ない。
明らかに躊躇う様子を見せると、目の泳ぐ俺の事をレヴィアはクスクスと笑う。
「本当に挨拶だよ。唇を合わせるだけで、深い意味はない」
本に書かれた部分を、彼の綺麗な指がそっとなぞる。
必死にそれを目で追うも、確かに「挨拶」としっかり書かれていた。
もしかして、俺が知らないだけで普通の事なのかもしれない。
レヴィアが誰かとそんな行為を行うところを見たことはないが、ここに居るのは使用人ばかり。さすがにそことはしないのだろうか?
「分かりました、挨拶……なら」
コクリと首を縦に振り、どうしたらいいのか分からない俺は、レヴィアの方を向くために少し顔を上げ、静かに瞼を閉じた。
すると、フワッと……唇に、弾力のある物が触れる。
最初はピクっと身体を跳ねさせた俺だったが、次第にその柔らかくて暖かな物が唇に触れる感触が気持ち良くて……つい自らも唇を押し当ててしまう。
「……どう? 初めてのキスは」
「……えっ、と……どうって……」
良いものです……と、返すのもおかしいだろう。
かといって「嫌だ」なんて言えば彼を傷付けてしまわないだろうか。
――嫌だなんて少しも思わない……だっていま、こんなにも身体が熱いのだから。
チラッと、彼の唇へと視線を送ると、血色の良い薄い唇が弧を描く。
――柔らかで癖になりそうな感触。また触れてみたい……
「もっと欲しいって、顔してる」
俺の心中など、簡単に察しがつくのだろうか。
それまで綺麗な形を繕っていた唇の右端が、途端にキュッとつり上がったかと思えば、それが段々と近付いてくる。
「ちょっ……んっ、ふ……」
気付けば、再び俺たちの唇は重なり合っていた。
最初は触れ合うだけだった。
何度も重なり合ううちに、唇に生暖かい感触が這う。
反射で開いた口内に潜り込んできたそれが彼の舌だと気付いたのは、互いの舌が苦しい程に絡み合った頃だった。
「可愛いね、ロシェル」
「ん、ぁっ……ふ……」
ザラザラとした舌が重なり合い、どちらとも分からない唾液がグチュッと音を立てる。
まるで吐息全部が飲み込まれるみたいに、キツく舌を吸い上げられれば、腰から背中にかけてゾクゾクと電流みたいな物が走る。
――どうしよう、止まらない。苦しいのに、気持ちいい……
鼻腔を擽る甘い香りが、ザワっと俺の中の何かを掻き立てる。
彼の腕にしがみつき、また彼も俺の背中に腕を回し、互いに夢中で口内を貪り合う。
漸く唇が離れ、必死に酸素を取り込もうと肩で息をする。
トロンと蕩けた俺の瞳には、同じく息の荒いレヴィアが、満足そうに微笑む姿が写っている。
艶やかな彼の唇を見るや、ドクッと心臓が音を鳴らす。
――なんだかレヴィア……凄く色っぽい……見ているだけで、身体全部がドキドキする。
惚けたまま彼にしがみついていると、伸びてきた長い指がそっと俺の口角から垂れた涎を掬い上げる。
「上手に出来たねロシェル、いい子だ。じゃぁ次は君から挨拶してみて?」
彼の言葉に操られるかのように、こくんと首を縦にふると、銀糸で繋がれた唇を自ら重ね――「挨拶」であるはずの行為はこの後、ベッドの中で互いが眠りに落ちるまで何度も続いた。
◇◇◇
その夜、真っ暗な部屋の中で俺は目を覚ました。
「あれ……レヴィア?」
手を伸ばした先のシーツはひんやりとしている。とても人がいたとは思えない。
たしか寝る前の攻防の末、彼は俺の身体をぎゅっと抱き締めていたはずなのに。
「ひとりで、何処かへ……?」
そんな事を思いながら、ゆっくりと身体を起こし辺りを見回してみる。灯りが全て消され黒いカーテンも閉まった室内は、黒一色。
目が慣れた頃にいま1度辺りを見回してみるも――そこに人の影は見当たらない。
隣に置かれた枕もシーツも、僅かながらシワが寄っている。彼がここに居たことは間違いない。
「……レヴィア……?」
当然ながら、返事は返ってこない。
真っ暗な室内は、しんと静まり返っている。
その瞬間、ゾワッとした不快感が体全体に襲いかかる。
「……どうして、こんなに不安になるんだろ」
ずっと光の溢れる世界に居たからだろうか。
目の前の暗闇に呑まれそうな錯覚を起こし、ぎゅっと手元のシーツを握り締めた。
ふと暗闇に、一筋の光が射していることに気が付いた。
湯浴みをしに行った扉の、ちょうど隣の扉が僅かに開き、そこから光が漏れている。
「……? こんな扉あったかな」
レヴィアの部屋の扉は、出入口とこの浴場に繋がる扉の2つだけだったはず。
もうすっかり住み慣れたこの部屋、間違うはずが無い。
「そこにいるの? レヴィア……」
光を求めるかのように、自然と足が扉の方へ向かっていた。
キィ……と音を立てて扉を開く。
同時に、むせ返る程の甘い香りが僕を襲う。
驚いて足を止めた僕の左足に、コツンと丸い何かが当たる。
「これ、なんだっけ……たしか柘榴、じゃなかったかな」
持ち上げた赤い果実は、いつか読んだ本に登場していた気がする。
「……ッ……はっ……」
「……ん? レヴィア……?」
奥の方から、誰かの息遣いが聞こえる。
僕は片手に柘榴を持ったまま、ぺたんぺたんと冷たい石の床を、声のする方へと向かって行った。
蝋燭が灯った部屋の中で見た光景に――思わず息を呑んだ。
テーブルとその周りには無数の蝋燭が置かれ、そしてグラスに入った真っ赤な液体……周りに転がる潰れた柘榴の果実たち。
その奥に置かれたソファーには1人の男が座っていた。
鎖骨を這うような銀色の髪が、先程から小刻みに揺れている。
男が纏う黒いガウンは乱れ右半身が顕になり、逞しい腕は己の身体の中心へと向かっている。
そして男は……恍惚な表情で「はッ……」と甘い吐息を吐いている。
ぐちゅっくちゅと音を立て、彼の指先が這う下半身のアレは、同じ男とは思えぬ立派な雄。
血管がはち切れそうな程に反ったソレを、いつも俺を優しく撫でる大きな手が扱いている。
その姿は、美しい絵画の様だった。
おかしい話かもしれない……男が自慰をするのをそんな風に捉えるのは。
それでも、その官能的な姿から目が離せない。
ゴクリと喉を鳴らし、蝋燭の陰影がかかる妖艶な彼に、瞳が囚われている時だった。
「は、ッ……ロシェル……」
熱い吐息と共に吐かれた言葉に、ビクッと身体が大きく揺れる。
――いま、俺の名前呼んでた……?
カァァッと体温が急上昇する。ドクドクと流れる熱が、下半身へ集まっていく。
――というか、あの人ッッ!! 部屋の壁に穴を開けたひと……!!
その時――紅く鋭い瞳が俺の姿を捕らえた。
「……人の自慰を覗き見とは、趣味が悪いね」
いましがた俺の名前を呼んだ唇に、彼はペロッと舌を這わす。
手の中の柘榴が、ゴトッと音を立て床に転がった。
そこにいたのは……今まさに転がった果実のような真っ赤な目と、真っ白な髪。
でもその顔はこの邸の主――あの優しい彼の輪郭。
「貴方、あの時の――!!」
香り立つ情慾を隠しもしない、目も眩む色気を放つ雄。
――間違いようがない。
戸惑う俺を嘲笑うかのように、男はニヤリと口角を上げた。
「久しぶり。漸く出てきたんだね。会いたかったよ」
「レヴィア……なの?」
「さぁ? この身がそれに見えるのならば、そう呼んだらいい」
「そんな……」
「それより、そこじゃよく見えないだろう? せっかくなら此処においで」
男は軽口を叩きながら、ぐちゅっと音を立てる欲棒を見せ付けるように何度も擦る。ビキッと筋が張り反り立ったソレは、彼の大きな手ですら覆いきれぬ程大きい。
太くて大きくて……芸術的な男根に魅せられていると、どういう訳かヘソの下あたりがズクっと疼き始める。
正体はわからない――けれど何かに取り憑かれたかのように、一歩、また一歩、と俺の足は彼に向かって歩みを進める。
気が付いた時にはもう……俺は彼の、大きく開かれた股の間にしゃがみこんでいた。
「……ッ、……おっき……」
「そう? 君に見られていると思うと、気分が盛り上がるよ」
眼前の男根は、見事のひと言だった。
俺の視線を感じ取ったのか、ソレはビキビキと上を向き、輪郭を更に際立たせる。
――綺麗って思うのおかしいかな……触ってみたいって……変だよね。
そんな事を思いながらも、密やかに生まれた自分の中の慾望を無視することが出来ない。
本能の赴くまま、張り出した亀頭に思わず指を這わすと、頭の上から極上の甘い吐息が漏れた。
「俺のと、全然違う……」
「……ロシェルのも見せて?」
露で揺れた指先が俺の頬を撫でる。そのじっとりした感触に、身体の奥底がゾクゾクと震えた。
――見たい? 俺の、アレを? というかどうして俺の名前を……
邸に来た初日、下着が変だと彼に訴えた時の事を思い出す。
――どうしよう、あの鋭い目に見られてゾクゾクしたい。
えも知れぬ感情が自分の中に沸き立ち、ズクッと下腹部が疼き始める。
コクンと頷いた俺は立ち上がり、シャツのボタンを開き始める。
『何やってんだよ。目の前の男はレヴィアと顔は同じでも、目も髪も全く違う色。本当にレヴィアかどうかなんて分からないんだぞ』
もうひとりの俺が、頭の中でそう叫ぶ。
でもいまは、そんな事が吹き飛んでしまうくらいの欲に駆られていた。
――きっとこれは夢なんだ。なら、彼に裸……見られてもいいんじゃないだろうか。
パサッと足元に、白いシャツが落とされる。
黒い下着も全てを取り払い、だらしなく液を垂らし始めたソレを彼の顔の前に差し出した。
「綺麗だね、君の身体は」
うっとりと舐め回す様に、彼はじっとソレに魅入っている。熱い吐息が掛かるとビクッと身体が震え、半端に勃ったソレが段々と真上を向き始める。
視線に犯されてるみたいで、あつい。アレがドクドク脈打つのがわかる。
この邸に来た日、飢えた獣のような瞳でじっとりと俺の下半身を見つめていたレヴィアを思い出した。
「見ないで……はずかしい……」
「そう? もっと見て、犯してって言ってるようにしか見えないけど」
「――ッッ」
思考を見破られ、俺は耳まで顔を赤くする。
――どうして、レヴィアに見られるの、こんなに気持ち良いんだろ。
彼と同じ顔をした男が、俺の下腹部を凝視している。
その強い視線に耐えられなくて、なった顔を両手で覆い隠した。
「先の方は果実のように赤みがかかっているんだね。それ以外は綺麗なピンク色」
低音で甘い――グッと腰にくる声でそんな卑猥な言葉を囁かれ、思わず身体がビクッと大きく跳ねる。
「や、いわないで……」
「そう? もっと言ってって強請っているようにしか見えないよ」
「違っ……」
きっと、内腿を伝うほど溢れて止まらない熱棒の事を言っているのだろう。顔を隠したまま「ちがうちがう」と首を振る俺の腕を彼が掴む。
そうして手は引き剥がされ、明るくなった視野の向こうには――ニヤリと片口角を上げて笑う彼の顔が現れた。
光の失せた紅い瞳がじっと俺を見つめ、ペロリと舌舐めずりをすると、心臓がバクバクと痛いほどに音を立てる。
どうしよう……このレヴィアみたいな人、めちゃくちゃ色っぽくてドキドキする。
直視出来ないほどの色香を放つ彼から目線を逸らすと、掴まれたままの右手がグッと強く引かれる。
「おいで、ロシェル。一緒に気持ちよくなろう」
俺はまるで紅い目に操られるかのように――彼の膝の上に座った。
向き合うように座った俺のソレと、カタチも大きさも違う彼の男根がスリッと擦り合うと、それだけでビクビク身体が跳ねる。
「んッ……」
「可愛いね、私のロシェル。こんな姿、私以外に見せたらダメだよ」
彼の大きな手がふたつを合わせるように握り、そのまま上下に強く擦る。
既に溢れに溢れた俺の蜜が潤滑剤となり、ヌチヌチと音を立てた。
――めちゃくちゃ気持ちいい――ッ、頭真っ白になる……
堪らす彼の動きに合わせて腰を動かすと、彼は扱く手をそのままに、親指だけ俺の先端に這わせる。
「はッ……ぁあっ!! それ、だめ……だめ……ッッんん!!」
黒く塗られた爪が先の穴をぐちゅっと引っ掻けば、堪らずピュクッと白い液が宙に飛び出す。
「だめ? 気持ちいいの間違いじゃないの?」
「ね? どう?」と、俯いてしまった俺の顎をを、空いた手でクイッと掴む。
逃げ場を失った俺の顔に、恍惚な彼の顔が迫る。
――もっと欲しい。
「はぁッ」と、甘くて熱い吐息がかかる程の距離で見つめられると……それだけで軽く身体が痙攣を始める。
「……きもち、い……」
「ちゃんと言えたね、いい子だロシェル。このまま……私の顔を見ながらイッて?」
「むり」と顔を背けようにも、ガッチリと顎を掴む大きな手は動かない。
彼の真っ赤な瞳に映るのは、見た事もない自分自身。
大きな目はクシャッと潤み、だらしなく開いた口からは涎が伝っている。
――おれ、……きもちよくなって……すごいかお、してる……
ついその顔に魅入っていると、それまでぐちゅぐちゅ擦られていた互いの欲棒が、ひと際強く擦られる。
「あッ!! ぁあああ……い、く……イっちゃ――ッッ!!」
堪らず彼に抱き着き、ブルッと腰を振りながら先から勢いよく白濁した液を飛ばす。すると、アソコから手を離し、しがみ付く俺を両手でギュッと抱き締めた彼の身体も、ビクッと痙攣を始める。
「可愛い……可愛いロシェル……またやろうね。此処で待ってるよ」
チカチカする目の前が真っ白になる中で――最後にそんな台詞を耳にした。
◇◇◇
「ん、ぅ……?」
次に目を覚ました時、俺は大きな身体に抱かれていた。
温もりの方に顔を向けると、そこにあるのは気持ち良さそうな綺麗な寝顔。
白い頬を撫でる髪は、紛れもない漆黒。
「……夢? 変な夢見たな……」
絹のように艶やかな黒髪に指を這わすと、その手がグッと握られる。
「……おはよう、ロシェル。なにしてるの?」
「えっ、……いや、なにも……お、おはようございますレヴィア」
目覚めから既に美しい男は、長い睫毛を携えた金色の瞳で、じっと俺を捉えている。
――紅じゃない。……って事は、ホントに夢なんだ。どうしてあんなの……
あの男の事が、やはり心のどこかに引っ掛かっていて、夢にまで出てきた……とか?
「ん……ね、目覚めのキスは?」
「えっ……え? またですか?」
顔の横で手を握ったまま、レヴィアは動く様子を見せない。
「約束したよね」
「……した、けど……」
とはいえ、まだどこか恥ずかしいその行為に顔を赤らめる。
――でも、彼とのキス……好きだし……
そんな悪魔の誘惑に負け、「ちゅ」と音を立て彼に口付けを落とした。
触れるだけだったはずの唇は、彼の熱い舌で直ぐにこじ開けられる。
丹念に歯列をなぞり、ぐちゅっと音を立て舌が重なれば、途端に身体の力が抜けていく。
舌先同士を擦り合うと、身体の奥底がゾワゾワと疼く。もっと強い繋がりが欲しくて、自ら舌を絡ませると――彼は喜んで根本からギュッと舌を結んでくれる。
「ふふ、ありがとうロシェル。おはよう」
「――ッ……は、はふっ……おはよう、ございます……」
唇を離し、吐息がかかる程の距離で満足そうに笑う彼の顔が余りにも美しくて――しばらくそこから目が離せなかった。
「少しは慣れた?」
「え、ええ。挨拶、ですし……」
嘘。
慣れるはずがない。
寧ろどうすれば慣れるのかを教えてほしい。このねっとりとした、全部食べられてしまうような深い口付けを。
触れた唇から、じんわりと身体中に拡がる熱を、俺はまだ持て余している。
「そうか、じゃぁ、今度は私から――」
そう言って彼は、ベッドに投げ出された俺の手にそっと自身の指を絡め、世界でいちばん優しくて熱い口付けをくれた。
◇◇◇
ソファーに座り、ふと浴室へと続く扉に目を遣る。
やはりそこにある扉はひとつだけ。
あの禁断の扉は、どこにも存在しない。
「やっぱり、夢だったんだ……」
そう小さく呟いた背後に、スっと黒い影が忍び寄って居ることに気が付かなかった。
「すっかりとイチャついてるご様子で何よりです」
慌てて声の方を振り向くと、そこには赤い髪を綺麗に纏めた人物が立っていた。
女性にも男性にも聞こえる、少しハスキーな声。
だが、その身に付けている衣類がメイド服であるが故に、彼女の性別はそれで間違いないのだろう。
綺麗な立ち姿を崩すことなく、淡々とそう言ってのけたのだ。
「……!? ヴェルフェさん何言ってるんですか……!?」
彼女は「俺の専属」だとレヴィアが宛がった使用人。まだ出会ったばかりだが、どこからともなく現れ、そして影のように消えていく……使用人の鏡と言えばそうなのだろう。
「朝から20分以上もチュッチュして、素晴らしいじゃないですか。良いですね、私の肌まで潤います」
「た、ただの挨拶……というか見てたんですかーーッ」
「長い長い挨拶を、朝の支度に参ったメイドに見せ付けて来たのは貴方達でしょう」
薄緑色の冷たい瞳が、ジロリとこちらを向く。
その刺すような視線に耐えきれず、俺は手探りで見つけたクッションを手繰り寄せ、両腕でギュッと抱き締めた。
そんな俺にため息ひとつ吐きながらも、ヴェルフェは音もなく動き、目の前のテーブルにスっと白いティーカップを置いた。
「……レヴィアって、ほんとに何者なんですか?」
用意された香り高い紅茶に口を付けながら、横に立つヴェルフェに問ってみる。
彼女は表情筋ひとつ動かさないまま、相変わらず綺麗な姿勢で俺の横に立っていた。
「自称王子様と仰っていたでしょう」
「いや、辺境伯――貴族だって教えてくれたのヴェルフェさんじゃないですか。でも、そうじゃなくて……なんて言うのかな、突然目が赤くなったりしません?」
しん、と、静寂が過ぎる。
「あ、あれ? 俺なんか不味いこと言ったかな」と、恐る恐るヴェルフェを見上げる。
相変わらず彼女の顔は見事な鉄仮面。
だが僅かに――その眉間に皺が寄っているのを、俺は見逃さなかった。
「――さぁ。私は何も存じ上げません」
カチャッ、と、ソーサーにカップを置く音がやけに大きく部屋に響いた。
「そう、ですか……」
考えてみれば、ヴェルフェは元はレヴィアが雇った使用人。
そう易々と、主の秘密を暴露するはずがないだろう。
いまだに何が言いたげな俺の意図を組んだのか、ヴェルフェは小さく息を吸い、漸くこちらへと顔を向けた。
「一つだけ申し上げますと……彼は貴方を悪いようにはしません――勿論、私も」
「ヴェルフェさん……」
「まぁソラトは知りませんけれどね」
「い、一抹の不安を残さないでくださいッッ……!!」
ヴェルフェの目線が、窓の外に向いていることに気が付き、俺もその視線を辿り――その人物が目に留まるや、誘われるように窓辺へと向かう。
庭を歩く2人の男の姿。
門の向こうに用意された馬車乗り、何処かに向かうのだろうか。
黒髪の麗人はカッチリとした正装を身に纏っている。その斜め後でブルーグレーの髪を揺らしながら歩く背の高い男。彼がレヴィアの従者「ソラト」だという事は、このヴェルフェと共に紹介された。
ふと足を止め、こちらを振り向くソラトは視線に気付いたのだろうか。耳に掛かる髪を掻き上げながら、2階の窓辺に立つ俺と目が合うと軽く会釈をする。
すると前を歩くレヴィアも立ち止まり、こちらを振り向く。
金色の目と視線が絡まれば、彼は柔和な顔で俺に手を振った。
優しくて爽やかなレヴィア。その顔はやはり、噎せ返る色香を纏う銀髪赤目の男と瓜二つの顔をしている。
「……夢の男は――一体誰なんだろう」
ザアッと強く吹いた風が彼の艶やかな髪を揺らすのを、窓越しにじっと見つめていた。
そんなこんなで、レヴィアとの生活が始まった。
どうやら彼は「辺境伯」という立場の人間らしい。
だから国境近くの森の奥に住んでいるのだと、俺の面倒をみる事になった赤髪のメイドが教えてくれた。
階級などには疎い俺だが、間違いなく上流階級の人間なのだろう。この何ひとつ不自由ない生活が物語っている。
朝起きれば、専属メイドが綺麗に身支度を整え、食べた事の無い程に美味しい食事が振る舞われる。
それまで何か食べるという事をしてこなかった故に、初めは少し抵抗を覚えたが、俺の身体は難なく食物を受け入れてくれた。今ではそれらを「美味しい」と感じ取れる程だ。
そして俺は「誰かと食事をする」楽しさを知った。
朝早くにどこかへ出掛け、夜遅くに帰ってくる事の多いレヴィアは、俺が暇をしないようにとありったけの本を用意してくれた。
――結局、あの日壁に穴を開けた、銀髪赤眼の男の事は何ひとつ分からない。
「そのうち何か分かるかもしれないし」と、暫くはこの心地よい生活に身を置くことにした。
そして今日も、仕事から帰ってきたレヴィアは、湯浴みを終えソファーに腰掛け紅茶を嗜んでいた。
俺も隣に座り、メイドの淹れたフルーティーな香りのする紅茶に口を付けながら、本棚の方へと目を遣る。
壁一面に広がる本棚に、覚えのある背表紙を見つけ、紅茶を置き思わず立ち上がる。
「この本……」
「読んだことある本だった?」
レヴィアも紅茶をテーブルに置きながら、吸い込まれるように本棚へと歩く俺の事を見つめている。
「これ、知ってる。とても印象深い内容だったから」
俺が持ち帰った本は「天使と悪魔」と書かれた、1冊の小説だった。
「へぇ……私は知らないな。どんな内容なの?」
パラっとページを捲ると、自然と2人の視線がそこへと向く。
「鳥籠に閉じ込められ羽根を捥がれた天使が、ある日突然目の前に現れた悪魔と恋に落ちる話なんだけれど……」
「なるほど……悲恋、かな?」
天使と悪魔、相容れぬ存在が恋をして報われない話なら何度か目にした事があるし、恐らくレヴィアもそうなのだろう。
けれどこの話は違っている。
レヴィアの言葉に、俺は大きく首を横に振った。
「天使は……外に出してくれた悪魔を盲愛して、全部捧げるんだ。己の清い心も、純潔も――全てを捧げて闇に染まる。そうして天界からも魔界からも見放された2人は、永遠に2人きりの世界で生きていくんだ」
「……それは面白そうだね」
パラパラと紙を指で捲り続けていると、あるページを開いた時に、スッとレヴィアの長い指が次のページを捲るのを制した。
「何か気になるところあった?」
「これ、私たちもやりたいな」
指し示された場所は――天使と悪魔が、挨拶がわりにキスをするシーン。
「――ッ、え……? これ、を……俺とレヴィアが?」
「そう、私たちの挨拶。いいと思わない?」
初めて邸に来た日以来、レヴィアが特にボディタッチをしてくる事はなかった。確かにやたらと距離は近いななんて思ってはいたけれど。
それを……色々すっ飛ばしてキス、したいと言い出したのだ、この男は。
「で、でも……」
流石にふたつ返事で許諾することは出来ない。
明らかに躊躇う様子を見せると、目の泳ぐ俺の事をレヴィアはクスクスと笑う。
「本当に挨拶だよ。唇を合わせるだけで、深い意味はない」
本に書かれた部分を、彼の綺麗な指がそっとなぞる。
必死にそれを目で追うも、確かに「挨拶」としっかり書かれていた。
もしかして、俺が知らないだけで普通の事なのかもしれない。
レヴィアが誰かとそんな行為を行うところを見たことはないが、ここに居るのは使用人ばかり。さすがにそことはしないのだろうか?
「分かりました、挨拶……なら」
コクリと首を縦に振り、どうしたらいいのか分からない俺は、レヴィアの方を向くために少し顔を上げ、静かに瞼を閉じた。
すると、フワッと……唇に、弾力のある物が触れる。
最初はピクっと身体を跳ねさせた俺だったが、次第にその柔らかくて暖かな物が唇に触れる感触が気持ち良くて……つい自らも唇を押し当ててしまう。
「……どう? 初めてのキスは」
「……えっ、と……どうって……」
良いものです……と、返すのもおかしいだろう。
かといって「嫌だ」なんて言えば彼を傷付けてしまわないだろうか。
――嫌だなんて少しも思わない……だっていま、こんなにも身体が熱いのだから。
チラッと、彼の唇へと視線を送ると、血色の良い薄い唇が弧を描く。
――柔らかで癖になりそうな感触。また触れてみたい……
「もっと欲しいって、顔してる」
俺の心中など、簡単に察しがつくのだろうか。
それまで綺麗な形を繕っていた唇の右端が、途端にキュッとつり上がったかと思えば、それが段々と近付いてくる。
「ちょっ……んっ、ふ……」
気付けば、再び俺たちの唇は重なり合っていた。
最初は触れ合うだけだった。
何度も重なり合ううちに、唇に生暖かい感触が這う。
反射で開いた口内に潜り込んできたそれが彼の舌だと気付いたのは、互いの舌が苦しい程に絡み合った頃だった。
「可愛いね、ロシェル」
「ん、ぁっ……ふ……」
ザラザラとした舌が重なり合い、どちらとも分からない唾液がグチュッと音を立てる。
まるで吐息全部が飲み込まれるみたいに、キツく舌を吸い上げられれば、腰から背中にかけてゾクゾクと電流みたいな物が走る。
――どうしよう、止まらない。苦しいのに、気持ちいい……
鼻腔を擽る甘い香りが、ザワっと俺の中の何かを掻き立てる。
彼の腕にしがみつき、また彼も俺の背中に腕を回し、互いに夢中で口内を貪り合う。
漸く唇が離れ、必死に酸素を取り込もうと肩で息をする。
トロンと蕩けた俺の瞳には、同じく息の荒いレヴィアが、満足そうに微笑む姿が写っている。
艶やかな彼の唇を見るや、ドクッと心臓が音を鳴らす。
――なんだかレヴィア……凄く色っぽい……見ているだけで、身体全部がドキドキする。
惚けたまま彼にしがみついていると、伸びてきた長い指がそっと俺の口角から垂れた涎を掬い上げる。
「上手に出来たねロシェル、いい子だ。じゃぁ次は君から挨拶してみて?」
彼の言葉に操られるかのように、こくんと首を縦にふると、銀糸で繋がれた唇を自ら重ね――「挨拶」であるはずの行為はこの後、ベッドの中で互いが眠りに落ちるまで何度も続いた。
◇◇◇
その夜、真っ暗な部屋の中で俺は目を覚ました。
「あれ……レヴィア?」
手を伸ばした先のシーツはひんやりとしている。とても人がいたとは思えない。
たしか寝る前の攻防の末、彼は俺の身体をぎゅっと抱き締めていたはずなのに。
「ひとりで、何処かへ……?」
そんな事を思いながら、ゆっくりと身体を起こし辺りを見回してみる。灯りが全て消され黒いカーテンも閉まった室内は、黒一色。
目が慣れた頃にいま1度辺りを見回してみるも――そこに人の影は見当たらない。
隣に置かれた枕もシーツも、僅かながらシワが寄っている。彼がここに居たことは間違いない。
「……レヴィア……?」
当然ながら、返事は返ってこない。
真っ暗な室内は、しんと静まり返っている。
その瞬間、ゾワッとした不快感が体全体に襲いかかる。
「……どうして、こんなに不安になるんだろ」
ずっと光の溢れる世界に居たからだろうか。
目の前の暗闇に呑まれそうな錯覚を起こし、ぎゅっと手元のシーツを握り締めた。
ふと暗闇に、一筋の光が射していることに気が付いた。
湯浴みをしに行った扉の、ちょうど隣の扉が僅かに開き、そこから光が漏れている。
「……? こんな扉あったかな」
レヴィアの部屋の扉は、出入口とこの浴場に繋がる扉の2つだけだったはず。
もうすっかり住み慣れたこの部屋、間違うはずが無い。
「そこにいるの? レヴィア……」
光を求めるかのように、自然と足が扉の方へ向かっていた。
キィ……と音を立てて扉を開く。
同時に、むせ返る程の甘い香りが僕を襲う。
驚いて足を止めた僕の左足に、コツンと丸い何かが当たる。
「これ、なんだっけ……たしか柘榴、じゃなかったかな」
持ち上げた赤い果実は、いつか読んだ本に登場していた気がする。
「……ッ……はっ……」
「……ん? レヴィア……?」
奥の方から、誰かの息遣いが聞こえる。
僕は片手に柘榴を持ったまま、ぺたんぺたんと冷たい石の床を、声のする方へと向かって行った。
蝋燭が灯った部屋の中で見た光景に――思わず息を呑んだ。
テーブルとその周りには無数の蝋燭が置かれ、そしてグラスに入った真っ赤な液体……周りに転がる潰れた柘榴の果実たち。
その奥に置かれたソファーには1人の男が座っていた。
鎖骨を這うような銀色の髪が、先程から小刻みに揺れている。
男が纏う黒いガウンは乱れ右半身が顕になり、逞しい腕は己の身体の中心へと向かっている。
そして男は……恍惚な表情で「はッ……」と甘い吐息を吐いている。
ぐちゅっくちゅと音を立て、彼の指先が這う下半身のアレは、同じ男とは思えぬ立派な雄。
血管がはち切れそうな程に反ったソレを、いつも俺を優しく撫でる大きな手が扱いている。
その姿は、美しい絵画の様だった。
おかしい話かもしれない……男が自慰をするのをそんな風に捉えるのは。
それでも、その官能的な姿から目が離せない。
ゴクリと喉を鳴らし、蝋燭の陰影がかかる妖艶な彼に、瞳が囚われている時だった。
「は、ッ……ロシェル……」
熱い吐息と共に吐かれた言葉に、ビクッと身体が大きく揺れる。
――いま、俺の名前呼んでた……?
カァァッと体温が急上昇する。ドクドクと流れる熱が、下半身へ集まっていく。
――というか、あの人ッッ!! 部屋の壁に穴を開けたひと……!!
その時――紅く鋭い瞳が俺の姿を捕らえた。
「……人の自慰を覗き見とは、趣味が悪いね」
いましがた俺の名前を呼んだ唇に、彼はペロッと舌を這わす。
手の中の柘榴が、ゴトッと音を立て床に転がった。
そこにいたのは……今まさに転がった果実のような真っ赤な目と、真っ白な髪。
でもその顔はこの邸の主――あの優しい彼の輪郭。
「貴方、あの時の――!!」
香り立つ情慾を隠しもしない、目も眩む色気を放つ雄。
――間違いようがない。
戸惑う俺を嘲笑うかのように、男はニヤリと口角を上げた。
「久しぶり。漸く出てきたんだね。会いたかったよ」
「レヴィア……なの?」
「さぁ? この身がそれに見えるのならば、そう呼んだらいい」
「そんな……」
「それより、そこじゃよく見えないだろう? せっかくなら此処においで」
男は軽口を叩きながら、ぐちゅっと音を立てる欲棒を見せ付けるように何度も擦る。ビキッと筋が張り反り立ったソレは、彼の大きな手ですら覆いきれぬ程大きい。
太くて大きくて……芸術的な男根に魅せられていると、どういう訳かヘソの下あたりがズクっと疼き始める。
正体はわからない――けれど何かに取り憑かれたかのように、一歩、また一歩、と俺の足は彼に向かって歩みを進める。
気が付いた時にはもう……俺は彼の、大きく開かれた股の間にしゃがみこんでいた。
「……ッ、……おっき……」
「そう? 君に見られていると思うと、気分が盛り上がるよ」
眼前の男根は、見事のひと言だった。
俺の視線を感じ取ったのか、ソレはビキビキと上を向き、輪郭を更に際立たせる。
――綺麗って思うのおかしいかな……触ってみたいって……変だよね。
そんな事を思いながらも、密やかに生まれた自分の中の慾望を無視することが出来ない。
本能の赴くまま、張り出した亀頭に思わず指を這わすと、頭の上から極上の甘い吐息が漏れた。
「俺のと、全然違う……」
「……ロシェルのも見せて?」
露で揺れた指先が俺の頬を撫でる。そのじっとりした感触に、身体の奥底がゾクゾクと震えた。
――見たい? 俺の、アレを? というかどうして俺の名前を……
邸に来た初日、下着が変だと彼に訴えた時の事を思い出す。
――どうしよう、あの鋭い目に見られてゾクゾクしたい。
えも知れぬ感情が自分の中に沸き立ち、ズクッと下腹部が疼き始める。
コクンと頷いた俺は立ち上がり、シャツのボタンを開き始める。
『何やってんだよ。目の前の男はレヴィアと顔は同じでも、目も髪も全く違う色。本当にレヴィアかどうかなんて分からないんだぞ』
もうひとりの俺が、頭の中でそう叫ぶ。
でもいまは、そんな事が吹き飛んでしまうくらいの欲に駆られていた。
――きっとこれは夢なんだ。なら、彼に裸……見られてもいいんじゃないだろうか。
パサッと足元に、白いシャツが落とされる。
黒い下着も全てを取り払い、だらしなく液を垂らし始めたソレを彼の顔の前に差し出した。
「綺麗だね、君の身体は」
うっとりと舐め回す様に、彼はじっとソレに魅入っている。熱い吐息が掛かるとビクッと身体が震え、半端に勃ったソレが段々と真上を向き始める。
視線に犯されてるみたいで、あつい。アレがドクドク脈打つのがわかる。
この邸に来た日、飢えた獣のような瞳でじっとりと俺の下半身を見つめていたレヴィアを思い出した。
「見ないで……はずかしい……」
「そう? もっと見て、犯してって言ってるようにしか見えないけど」
「――ッッ」
思考を見破られ、俺は耳まで顔を赤くする。
――どうして、レヴィアに見られるの、こんなに気持ち良いんだろ。
彼と同じ顔をした男が、俺の下腹部を凝視している。
その強い視線に耐えられなくて、なった顔を両手で覆い隠した。
「先の方は果実のように赤みがかかっているんだね。それ以外は綺麗なピンク色」
低音で甘い――グッと腰にくる声でそんな卑猥な言葉を囁かれ、思わず身体がビクッと大きく跳ねる。
「や、いわないで……」
「そう? もっと言ってって強請っているようにしか見えないよ」
「違っ……」
きっと、内腿を伝うほど溢れて止まらない熱棒の事を言っているのだろう。顔を隠したまま「ちがうちがう」と首を振る俺の腕を彼が掴む。
そうして手は引き剥がされ、明るくなった視野の向こうには――ニヤリと片口角を上げて笑う彼の顔が現れた。
光の失せた紅い瞳がじっと俺を見つめ、ペロリと舌舐めずりをすると、心臓がバクバクと痛いほどに音を立てる。
どうしよう……このレヴィアみたいな人、めちゃくちゃ色っぽくてドキドキする。
直視出来ないほどの色香を放つ彼から目線を逸らすと、掴まれたままの右手がグッと強く引かれる。
「おいで、ロシェル。一緒に気持ちよくなろう」
俺はまるで紅い目に操られるかのように――彼の膝の上に座った。
向き合うように座った俺のソレと、カタチも大きさも違う彼の男根がスリッと擦り合うと、それだけでビクビク身体が跳ねる。
「んッ……」
「可愛いね、私のロシェル。こんな姿、私以外に見せたらダメだよ」
彼の大きな手がふたつを合わせるように握り、そのまま上下に強く擦る。
既に溢れに溢れた俺の蜜が潤滑剤となり、ヌチヌチと音を立てた。
――めちゃくちゃ気持ちいい――ッ、頭真っ白になる……
堪らす彼の動きに合わせて腰を動かすと、彼は扱く手をそのままに、親指だけ俺の先端に這わせる。
「はッ……ぁあっ!! それ、だめ……だめ……ッッんん!!」
黒く塗られた爪が先の穴をぐちゅっと引っ掻けば、堪らずピュクッと白い液が宙に飛び出す。
「だめ? 気持ちいいの間違いじゃないの?」
「ね? どう?」と、俯いてしまった俺の顎をを、空いた手でクイッと掴む。
逃げ場を失った俺の顔に、恍惚な彼の顔が迫る。
――もっと欲しい。
「はぁッ」と、甘くて熱い吐息がかかる程の距離で見つめられると……それだけで軽く身体が痙攣を始める。
「……きもち、い……」
「ちゃんと言えたね、いい子だロシェル。このまま……私の顔を見ながらイッて?」
「むり」と顔を背けようにも、ガッチリと顎を掴む大きな手は動かない。
彼の真っ赤な瞳に映るのは、見た事もない自分自身。
大きな目はクシャッと潤み、だらしなく開いた口からは涎が伝っている。
――おれ、……きもちよくなって……すごいかお、してる……
ついその顔に魅入っていると、それまでぐちゅぐちゅ擦られていた互いの欲棒が、ひと際強く擦られる。
「あッ!! ぁあああ……い、く……イっちゃ――ッッ!!」
堪らず彼に抱き着き、ブルッと腰を振りながら先から勢いよく白濁した液を飛ばす。すると、アソコから手を離し、しがみ付く俺を両手でギュッと抱き締めた彼の身体も、ビクッと痙攣を始める。
「可愛い……可愛いロシェル……またやろうね。此処で待ってるよ」
チカチカする目の前が真っ白になる中で――最後にそんな台詞を耳にした。
◇◇◇
「ん、ぅ……?」
次に目を覚ました時、俺は大きな身体に抱かれていた。
温もりの方に顔を向けると、そこにあるのは気持ち良さそうな綺麗な寝顔。
白い頬を撫でる髪は、紛れもない漆黒。
「……夢? 変な夢見たな……」
絹のように艶やかな黒髪に指を這わすと、その手がグッと握られる。
「……おはよう、ロシェル。なにしてるの?」
「えっ、……いや、なにも……お、おはようございますレヴィア」
目覚めから既に美しい男は、長い睫毛を携えた金色の瞳で、じっと俺を捉えている。
――紅じゃない。……って事は、ホントに夢なんだ。どうしてあんなの……
あの男の事が、やはり心のどこかに引っ掛かっていて、夢にまで出てきた……とか?
「ん……ね、目覚めのキスは?」
「えっ……え? またですか?」
顔の横で手を握ったまま、レヴィアは動く様子を見せない。
「約束したよね」
「……した、けど……」
とはいえ、まだどこか恥ずかしいその行為に顔を赤らめる。
――でも、彼とのキス……好きだし……
そんな悪魔の誘惑に負け、「ちゅ」と音を立て彼に口付けを落とした。
触れるだけだったはずの唇は、彼の熱い舌で直ぐにこじ開けられる。
丹念に歯列をなぞり、ぐちゅっと音を立て舌が重なれば、途端に身体の力が抜けていく。
舌先同士を擦り合うと、身体の奥底がゾワゾワと疼く。もっと強い繋がりが欲しくて、自ら舌を絡ませると――彼は喜んで根本からギュッと舌を結んでくれる。
「ふふ、ありがとうロシェル。おはよう」
「――ッ……は、はふっ……おはよう、ございます……」
唇を離し、吐息がかかる程の距離で満足そうに笑う彼の顔が余りにも美しくて――しばらくそこから目が離せなかった。
「少しは慣れた?」
「え、ええ。挨拶、ですし……」
嘘。
慣れるはずがない。
寧ろどうすれば慣れるのかを教えてほしい。このねっとりとした、全部食べられてしまうような深い口付けを。
触れた唇から、じんわりと身体中に拡がる熱を、俺はまだ持て余している。
「そうか、じゃぁ、今度は私から――」
そう言って彼は、ベッドに投げ出された俺の手にそっと自身の指を絡め、世界でいちばん優しくて熱い口付けをくれた。
◇◇◇
ソファーに座り、ふと浴室へと続く扉に目を遣る。
やはりそこにある扉はひとつだけ。
あの禁断の扉は、どこにも存在しない。
「やっぱり、夢だったんだ……」
そう小さく呟いた背後に、スっと黒い影が忍び寄って居ることに気が付かなかった。
「すっかりとイチャついてるご様子で何よりです」
慌てて声の方を振り向くと、そこには赤い髪を綺麗に纏めた人物が立っていた。
女性にも男性にも聞こえる、少しハスキーな声。
だが、その身に付けている衣類がメイド服であるが故に、彼女の性別はそれで間違いないのだろう。
綺麗な立ち姿を崩すことなく、淡々とそう言ってのけたのだ。
「……!? ヴェルフェさん何言ってるんですか……!?」
彼女は「俺の専属」だとレヴィアが宛がった使用人。まだ出会ったばかりだが、どこからともなく現れ、そして影のように消えていく……使用人の鏡と言えばそうなのだろう。
「朝から20分以上もチュッチュして、素晴らしいじゃないですか。良いですね、私の肌まで潤います」
「た、ただの挨拶……というか見てたんですかーーッ」
「長い長い挨拶を、朝の支度に参ったメイドに見せ付けて来たのは貴方達でしょう」
薄緑色の冷たい瞳が、ジロリとこちらを向く。
その刺すような視線に耐えきれず、俺は手探りで見つけたクッションを手繰り寄せ、両腕でギュッと抱き締めた。
そんな俺にため息ひとつ吐きながらも、ヴェルフェは音もなく動き、目の前のテーブルにスっと白いティーカップを置いた。
「……レヴィアって、ほんとに何者なんですか?」
用意された香り高い紅茶に口を付けながら、横に立つヴェルフェに問ってみる。
彼女は表情筋ひとつ動かさないまま、相変わらず綺麗な姿勢で俺の横に立っていた。
「自称王子様と仰っていたでしょう」
「いや、辺境伯――貴族だって教えてくれたのヴェルフェさんじゃないですか。でも、そうじゃなくて……なんて言うのかな、突然目が赤くなったりしません?」
しん、と、静寂が過ぎる。
「あ、あれ? 俺なんか不味いこと言ったかな」と、恐る恐るヴェルフェを見上げる。
相変わらず彼女の顔は見事な鉄仮面。
だが僅かに――その眉間に皺が寄っているのを、俺は見逃さなかった。
「――さぁ。私は何も存じ上げません」
カチャッ、と、ソーサーにカップを置く音がやけに大きく部屋に響いた。
「そう、ですか……」
考えてみれば、ヴェルフェは元はレヴィアが雇った使用人。
そう易々と、主の秘密を暴露するはずがないだろう。
いまだに何が言いたげな俺の意図を組んだのか、ヴェルフェは小さく息を吸い、漸くこちらへと顔を向けた。
「一つだけ申し上げますと……彼は貴方を悪いようにはしません――勿論、私も」
「ヴェルフェさん……」
「まぁソラトは知りませんけれどね」
「い、一抹の不安を残さないでくださいッッ……!!」
ヴェルフェの目線が、窓の外に向いていることに気が付き、俺もその視線を辿り――その人物が目に留まるや、誘われるように窓辺へと向かう。
庭を歩く2人の男の姿。
門の向こうに用意された馬車乗り、何処かに向かうのだろうか。
黒髪の麗人はカッチリとした正装を身に纏っている。その斜め後でブルーグレーの髪を揺らしながら歩く背の高い男。彼がレヴィアの従者「ソラト」だという事は、このヴェルフェと共に紹介された。
ふと足を止め、こちらを振り向くソラトは視線に気付いたのだろうか。耳に掛かる髪を掻き上げながら、2階の窓辺に立つ俺と目が合うと軽く会釈をする。
すると前を歩くレヴィアも立ち止まり、こちらを振り向く。
金色の目と視線が絡まれば、彼は柔和な顔で俺に手を振った。
優しくて爽やかなレヴィア。その顔はやはり、噎せ返る色香を纏う銀髪赤目の男と瓜二つの顔をしている。
「……夢の男は――一体誰なんだろう」
ザアッと強く吹いた風が彼の艶やかな髪を揺らすのを、窓越しにじっと見つめていた。
8
この作品は感想を受け付けておりません。
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