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執着
しおりを挟むAと話した後、出かける予定をキャンセルして、僕はマンションに戻った。
春日部はバイトに行っている。
シンとした部屋の中で、Aの言葉を思い出してため息を吐いた。
――伝えとこうと思って。ずっと、トモが好きだって。
――俺はトモと一緒にいたい。その為なら仕事も辞める。
――ずっと、忘れられない。誰としても満たされない。だから、あれから、トモに捨てられてから誰ともしてない。
――ずっと待ってる。
Aの言葉は重かった。
たった半年セフレ関係だっただけなのに、金と時間を使い僕を探し出した。そして、ペットでもいいからとプライドなく僕に縋ってきた。
強い執着。
しかし、心は動かない。
でも、これを言ったのが春日部だったら?
春日部にこれくらい執着されたなら、他に何を手放してもいい。
このマンションも、無駄にデカイベッドも『みんなの理想の町屋くん』という仮面も。
あとは、僕に何かあるだろうか?
自分の手の中にはそれくらいのものしか無かったことに気付いて、自嘲の笑みが溢れた。
僕はAに会ってから、春日部を一分一秒でも早く自分のものにしたい、という思いに取り憑かれた。
焦りもあった。
春日部の交遊範囲は広がっていた。
例の謝罪動画が拡散されてから半年が過ぎ、いけ好かないくそヤリチンというイメージが大分薄れた春日部は、徐々に男女共に親しげに声をかけられることが多くなっていった。
春日部も今までの態度(主に無視)を改めているから、普通に談笑が成立している。
その情報は本人から聞いた訳ではないが、学部が違えど春日部は有名人で、噂は入ってくる。堀田も「人は変われるもんなんだな」と感心してるし、実際学食でもよく声をかけられているから、春日部の環境が変わったのは間違いない。
今までは、春日部が寄って来るなオーラを出してたから学食で僕たち三人は遠巻きにされていたが、それがなくなり人が集まってくるようになってきたのだ。
現状、昼はあまり話が出来なくなった。
柔らかい雰囲気になった春日部は、以前よりも女の子にモテた。
もともと見た目はパーフェクトイケメンだし、中身が備われば、より人を惹き付けてしまうのは当たり前のこと。
昔は僕と女の子人気を二分していた春日部だが、多分今ではダントツ一番人気だろう。
一度も参加したのことがないゼミの飲み会なんかも、最近は行っている。
楽しげにそのことを話す春日部。
良かったね、と心から言ってあげられない自分。
春日部が遠くに行ってしまった気がした。
張り付けた笑顔の下で、僕は想いを燻らせていた。
僕は春日部の一番でいたい。
親友の一番じゃなくて、恋人として。
Aみたいに強く、春日部から想われたい。
どうしたら春日部はAみたいに僕に縋ってくれるのか。
僕はどうしたら春日部に、卒業なんて来ないと確信が持てるのか。
もし卒業が来ても、どうやったらすぐに僕が一番だと気付いてもらえるのか。
頭を巡らせ、考え付いた。
小狡くて臆病な僕は、春日部を"試す"ことにした。
春日部に他のオトコをけしかける。
春日部を散々蕩けさせて、その状態のまま他人のチンポを見せ、欲しいかどうかを問う。
もちろん「いらない」と言うように誘導しては何の意味もないから、僕は「してもいいんだよ」と春日部に伝える。
この作戦に僕の敗けはない。
拒否してくれれば春日部の想いを確認できるし、卒業なんて来ないということを確信できる。
もし、春日部が受け入れた場合は、いつか必ず来るはずの『卒業』を早めに済ませることが出来た、と前向きに捉えることが出来る。
いつ来るのかという不安状態を長引かせ不意打ちを喰らうよりは、ある程度の覚悟を持って対処できる。しかも自分が用意したオトコだと、春日部自らが選んだオトコではないのでショックが少ない。
あとは卒業後にやってくる『町屋が一番良かった』という後悔が春日部にやってくるのを待つだけ。
要は、他のオトコなんて大したことなかった、と早いとこ思わせることが出来ればいい。次のオトコが必要ならば、また僕が用意してやる。
後悔は必ずしてもらえる。
過去がそれを保証してるから。
オトコ選びだが、相手は『性風俗従事者』にする。
下手な感情が入らない相手。
病気や個人情報の漏洩が怖いから、ちゃんとした店のコ。
見た目は綺麗で、チンポは僕より小さい方がいい。
オラオラ系なんてとんでもない。礼儀正しい奴じゃないとダメ。
希望を上げるとキリが無いが、ゲイの知り合いの伝手などを頼り理想とも言えるオトコを探し出した。
マナト(23歳)
175cm/59kg/17cm
風俗店で働いていれば当然なのかもしれないが、ネコもタチもどちらも出来るようだ。
早く春日部に大好きだって伝えたい。その為にはこれは必要なこと。
僕は「誰かに見られながらセックスがしたい」と春日部を説得した。
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