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過去

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    春日部が好き過ぎて、どうにもならなくなった僕は、僕なりにもがいてみた。

『卒業』していった元ノンケ達に聞かされた、○○がしてみたかった、という『卒業』理由の数々。それを一つずつ潰していった。

    春日部が他で試してみたりしないように。
僕とでも色々なプレイが出来るのだと分からせた。


    正直、あまり気が進まないプレイもあった。
僕は相手をひたすら気持ち良くさせるセックスが好きだ。
    奉仕して蕩けさせて、その顔を見ることに興奮するから。


    でも、春日部が何でも割りとすんなり受け入れて気持ち良さそうにしてるから、僕も、引きずられるように気持ち良くなった。興奮もした。

    特に、助手席でオナニーをする春日部は、恥じらう姿がエロくて可愛くて最高だった。
    夜のドライブだったから、並走する車に露出させたチンポは見えてないはずだが、見えることを気にして春日部はあまり激しく手を動かせなかった。
    結果、なかなかイケなくて、信号で停止中に車が隣に並ぶ度に泣きそうな顔をして僕を見てきた。
    濡れた瞳が堪らなかった。


『町屋ぁ、見えて、ねぇかな』
『大丈夫だよ』
『んっ、でも、なかなかイケねぇんだよォ』
『ちゃんと出せたら、春日部の大好きな対面座位で、乳首吸いながら奥グリグリしてあげるから、頑張って』
『っ、ふぁ、も、欲しいよ、頼むよ、町屋ァ、ブチ込まれながら、っ、イキたいッ』


    結局、春日部が吐精する前に僕が限界になったから、マンションに戻って、めちゃくちゃセックスした。



    春日部がアブノーマルな行為を受け入れた理由は、雰囲気に流されたり、性に対する好奇心が旺盛だったり、僕に対する信頼感からだったりするのだと思う。
    元々ヤリチンだったから、性的なことへのハードルが低い、ということもある。

    恋愛感情から、なんてことも理由に含まれていたら嬉しいが、確信は持てない。

    確認する勇気もない。

    もし下手を打ったら、僕は春日部を失う。
    そしたら、春日部以上に好きになれる人間を見付けられる気がしない僕は、脱け殻になって一生一人ぼっちかもしれない。


    何にせよ、作戦自体は順調に進んだ。


    あと残ってるのは、第三者がいなくちゃ出来ないこと。

    他のオトコのチンポ(他人棒)。
    複数。
    二輪挿し。

    特に、他人棒は『卒業』理由として最大のものではあるが、これは僕じゃどうにもならない。
    それでも今のところ、春日部に卒業の兆しは全く見えないから、僕のアブノーマルプレイ作戦が功を奏したのかも。と、少しだけ安堵出来た。




    そんな時、僕はあるオトコ、――Aと再会した。




    マンションから一人で出てきたところに、後ろから声をかけられた。

「トモ!」

    僕の名前、朝晴トモハルのトモ。
    姿を見なくても、呼び方と声で誰だか分かるくらいには、僕はAに情があったらしい。
    過去の話だが。

    ゆっくり振り返ると、泣きそうな顔をした長身の男。
    Aと会うのは約4年振り。
    元ノンケで元セフレで、セフレ期間は半年。      
    僕と出かけている時に、トイレで他のオトコとやってた人物。

    確か今年で26歳だったはず。
    以前よりもやつれて見えるのは年を重ねたからなのか。

「久しぶりだね。何の用?」

    用なんて何かは分かりきってるが、話は早く終わらせたい。
    とは言え、エントランス前で話をしていては、人目に付く。近くの公園を目指し歩きながら話をした。


「ずっと、トモを探してた。名字が変わってたから、探すの大変だった。」
「……そう。」

    大変だった、は嘘ではないだろう。僕とAが当時住んでいたのはここから600キロ離れている場所だ。

    興味なく相槌を打った僕を、縋るような目で見てくるA。

「俺はお前が忘れられなくて。」
「もう4年も前の話だよ? 僕に誰も相手がいないなんて思ってるの?」

    公園に着いたので、ベンチに座らせ、僕は立ったまま話を続けた。

「思って、ない。」

    つらそうな顔で下唇を噛むA。

「だったら――」
「でも、伝えとこうと思って。」
「……。」
「ずっと、トモが好きだって。前みたいにセフレでいいから、……セフレ以下のペットでも何でもいいから、俺はトモと一緒にいたい。その為なら仕事も辞める。」

    Aは結構いい会社に就職したはず。
    辞めてペットになる、なんて僕を含めた就活生たちが聞いたら、勿体なすぎて苛立ちを覚えるだろう。

「無理。僕には好きな人がいるから。もう二度と会うつもりはないよ。僕のことは忘れて幸せになって。」
「俺だって無理だ。ずっと、忘れられない。誰としても満たされない。だから、あれから、トモに捨てられてから誰ともしてない。」

    捨てたんじゃない。
    あれは卒業。
    僕は見送っただけ。

「迷惑だよ。」
「迷惑はかけない。ただ、ずっと待ってる、それだけでもダメか?」
「ダメ。」
「……また、来る。」
「来ないで。今度来たら僕は警察に相談しなきゃいけなくなる。」
「っ。」

    Aは泣きそうな顔をして言葉を詰まらせてる。
    昔はこんな情けない顔ばかりするオトコではなかった。
    容姿も良く、頭も良く、多少傲慢なくらいに自信満々。

    随分変わった。

    やつれ、自信無さげで、喋り方も違う、打ちのめされた人間のする顔をしている。

    サヨナラをした時、何度も引き留められたが、ここまで憔悴した感じじゃ無かった。


    変えたのが僕だとしても、僕の気持ちは動かない。
    もう用件は済んだかと立ち去ろうとしたが、Aの悲痛な声に足を止めた。

「なぁ、俺が、あの時、あんな馬鹿なことしなきゃ、今頃は恋人になれてたか?」

    ノンケには期待しない。
    それでも4年間、僕好みのオトコが他に目を向けずに傍にいてくれたなら、セフレを恋人にしてもいいかも、なんて思っただろうか?
    それとも、いつか来る卒業のことを考え、いまだに心を渡さないでいるのだろうか?

    でも僕は今、春日部と出会って人生最大の恋に落ちてる。
    そんなタラレバ、考えても無意味だ。

「100%無いよ。」

    僕は振り返らなかった。

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