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第2話:甘い罠と、逃げられない瞳
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私の平凡な学園生活は、今日、この瞬間に。
音を立てて、完全に終わった。
(え、ちょっと待って……?)
私が……あの、一条様の……婚約者……?
頭が真っ白になり、一歩も動けずにいた私の手首を、
彼の長く冷たい指が、迷いなく掴んだ。
「行くぞ。……俺の婚約者」
「えっ、ちょっ、どこに……!?」
抵抗する間もなかった。一条様は、呆然と私たちを見つめる令嬢たちの波を割って、私を外へと連れ出した。校門の前には、見たこともないほど長く、漆黒に輝くリムジンが止まっている。黒服の男性が恭しくドアを開けると、彼は私を中に押し込んだ。
バタン、と重厚な音がして、ドアが閉まる。
さっきまでの騒然とした空気が、嘘のように静まり返った。そこは、外界と完全に遮断された、逃げ場のない密室。
「あの……一条様。私、やっぱり何かの間違いだと――」
「黙れ。許可なく喋るな。」
冷徹な声が、狭い車内に響く。
一条様は、隣に座る私をアイスブルーの瞳で射抜いた。
その手は、私のアゴを強引に掴み自分の方へと向かわせる。
「っ……!」
座席に押し込まれて、身動きが取れない。
整いすぎた顔が、すぐ目の前に。
彼の纏う、高貴で危険な香水の香りが鼻をかすめる。
「花咲ひまり。……君がここで『特待生』の座にしがみついている理由、全部把握している」
「なっ……! なんで私の名前を……」
一度も話したことがないはずなのに。
彼は、私の名前も、隠していた家庭の事情も、すべて見透かしているような冷ややかな笑みを浮かべた。
私の瞳に涙が溜まるのを見て、一条様は満足そうに薄く唇を歪めた。逃がさないという意思表示のように、彼はさらに顔を近づける。私の耳たぶに、彼の熱い唇が掠めた。
「泣いても無駄だ。……いいか?」
逃げようとすくめた肩を、大きな手で座席に押さえつけられる。耳元で囁かれる低く甘い声が、背筋をゾクゾクと駆け上がった。
「明日から、俺以外の男と目を合わせるな。俺以外の男に、その名前を呼ばせるな。」
「…………っ」
「もし破ったら――その男ごと、君の居場所をすべて、跡形もなく叩き潰してやる。……俺にはそれが可能だってこと、君ならわかるだろう?」
彼は、そのまま私の首筋に鼻先を埋め、深く深く息を吸い込んだ。まるで、自分の獲物の匂いを確認するように。
「返事は?」
「っ……、は……はい……」
震える声で答えると、彼は私の耳元でフッと楽しげに笑った。その瞬間、冷徹な王子の顔に、今まで見たこともないような歪んだ独占欲が浮かぶ。
「いい子だ。……君のすべてを買い占めた代金を体でたっぷり返してもらうよ」
音を立てて、完全に終わった。
(え、ちょっと待って……?)
私が……あの、一条様の……婚約者……?
頭が真っ白になり、一歩も動けずにいた私の手首を、
彼の長く冷たい指が、迷いなく掴んだ。
「行くぞ。……俺の婚約者」
「えっ、ちょっ、どこに……!?」
抵抗する間もなかった。一条様は、呆然と私たちを見つめる令嬢たちの波を割って、私を外へと連れ出した。校門の前には、見たこともないほど長く、漆黒に輝くリムジンが止まっている。黒服の男性が恭しくドアを開けると、彼は私を中に押し込んだ。
バタン、と重厚な音がして、ドアが閉まる。
さっきまでの騒然とした空気が、嘘のように静まり返った。そこは、外界と完全に遮断された、逃げ場のない密室。
「あの……一条様。私、やっぱり何かの間違いだと――」
「黙れ。許可なく喋るな。」
冷徹な声が、狭い車内に響く。
一条様は、隣に座る私をアイスブルーの瞳で射抜いた。
その手は、私のアゴを強引に掴み自分の方へと向かわせる。
「っ……!」
座席に押し込まれて、身動きが取れない。
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彼の纏う、高貴で危険な香水の香りが鼻をかすめる。
「花咲ひまり。……君がここで『特待生』の座にしがみついている理由、全部把握している」
「なっ……! なんで私の名前を……」
一度も話したことがないはずなのに。
彼は、私の名前も、隠していた家庭の事情も、すべて見透かしているような冷ややかな笑みを浮かべた。
私の瞳に涙が溜まるのを見て、一条様は満足そうに薄く唇を歪めた。逃がさないという意思表示のように、彼はさらに顔を近づける。私の耳たぶに、彼の熱い唇が掠めた。
「泣いても無駄だ。……いいか?」
逃げようとすくめた肩を、大きな手で座席に押さえつけられる。耳元で囁かれる低く甘い声が、背筋をゾクゾクと駆け上がった。
「明日から、俺以外の男と目を合わせるな。俺以外の男に、その名前を呼ばせるな。」
「…………っ」
「もし破ったら――その男ごと、君の居場所をすべて、跡形もなく叩き潰してやる。……俺にはそれが可能だってこと、君ならわかるだろう?」
彼は、そのまま私の首筋に鼻先を埋め、深く深く息を吸い込んだ。まるで、自分の獲物の匂いを確認するように。
「返事は?」
「っ……、は……はい……」
震える声で答えると、彼は私の耳元でフッと楽しげに笑った。その瞬間、冷徹な王子の顔に、今まで見たこともないような歪んだ独占欲が浮かぶ。
「いい子だ。……君のすべてを買い占めた代金を体でたっぷり返してもらうよ」
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