【完結】身代わりの仮婚約者になったら、銀髪王子に人生丸ごと買い占められた件

ななせくるみ

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第3話:冷徹王子の甘すぎる独占欲

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「……いいか。これからは君のすべてで、僕にその負債を
返してもらう。……文字通り、体でね」

車内の密室で、一条様にそう耳元で囁かれた直後。

あまりの恐怖と……
そして、自分でも認めたくないほど高鳴る心臓の音に、
私は白目を剥きそうになった。

(体で払うって……一体何をされるの!?)

パニックになる私をよそに、一条様は満足げに身を引くと、何事もなかったかのように窓の外に視線を向けた。

わずか30分後。
私は高級リムジンの後部座席で、震える手を押さえながら硬直していた。

「あの……一条様? これはどういう状況でしょうか……。体で払うという、その……具体的なプランを……」

「状況説明なら、後で執事がする。今は静かにしてくれ」

彼の声は低く、どこか疲れているように聞こえた。

学園では「完璧」を絵に描いたような一条様が、
今は眉間にシワを寄せ、窓の外をぼんやりと眺めている。

まさか、本当にリムジンでそのまま連れ去られるなんて。

「私の人生、今日で終わったのかも……」

絶望に打ちひしがれる私を乗せて、車は都心から少し離れた小高い丘の上にある、広大な敷地の洋館へと滑り込んだ。

リムジンが到着したのは、都心から少し離れた小高い丘の上にある、広大な敷地の洋館だった。まるで映画に出てくるような、真っ白な壁と尖った屋根が特徴の瀟洒な建物。これが「別邸」というのだから、彼の本宅は一体どんな城なのだろう。

「お嬢様、こちらへどうぞ」

ドアを開けてくれたのは、スーツを着た壮年の男性だった。見るからに有能そうな雰囲気。きっとこの人が執事さんね。リビングに通されると、執事さんが恭しくお辞儀をして言った。

「お嬢様、この度は大変申し訳ございません。蓮様が学園でお困りだった際、貴女様を指名してしまったこと、心よりお詫び申し上げます」

「いえ……その、事情があるんですよね?」

執事さんはうなずいた。

「はい。蓮様には、幼い頃から決められた婚約者がおりました。しかし先日、先方の都合でその婚約が破棄されまして……」

「破棄?あの完璧な一条様が!?」

なるほど。つまり、私は「防波堤」だったわけだ。

庶民の私が彼と本当に結婚できるはずがない。一時的に令嬢たちを遠ざけるための、ただのダミー人形。

そう理解した瞬間、少しだけ安心したような、でも胸の奥がチクリと痛むような複雑な気持ちになった。

「しかし、なぜ私が……?」

「蓮様は、貴女様が『あらゆるしがらみとは無縁の、純粋な存在』であるとお見受けになられたようです」

純粋な存在……? 
つまり、利用しやすい「ただの庶民」ってことね。

そのやり取りを静かに見守っていた執事さんは、心得たように深く一礼した。

「――では蓮様。私はこれにて失礼いたします。お嬢様、何かございましたら、すぐにお呼びくださいませ」

足音一つ立てない、流れるような動作。
執事さんが静かにリビングから出ていき、扉がパタンと閉まる。

広い部屋に、一条様と私の二人きり。
急に静まり返った空間に、自分の心臓の音だけがうるさく響き始める。

その間、一条様は何も言わず、大きなソファに身を沈めていた。疲れたように目を閉じ、表情からは一切の感情が読み取れない。学園で見た「王子」の冷たい仮面が、今、目の前にある。

「一条様、お疲れのようですね」

「ああ、あの群がる嬢どもには、心底うんざりだ。
毎日毎日、同じような社交辞令で、耳が腐る。」

「ひどい……」

「事実だ。……君もわかるだろう? あの地獄の状況が。」

わかるわけないでしょうが。私はせいぜい、テスト勉強で地獄を見るくらいだ。すると、彼はふと目を開け、隣に座っていた私をじっと見つめた。 

「……花咲」

「はいっ!」  

反射的に背筋を伸ばす私を、彼は獲物を定めるような、それでいてどこか熱を帯びた瞳で射抜いた。

「俺のそばにいろと言っただろう。…もっと近くに来い」 

「え……?」

戸惑う私の腕を掴み、強引に自分のほうへ引き寄せた。

「膝、貸せ」 

「……は? 膝……!?」

思考がフリーズした。

「……ダメか?」

普段の冷徹な一条様からは想像もつかない、どこか拗ねたような、少し寂しそうな表情を向けてきた。
そのギャップに、私の心臓がまた妙な音を立てた。

「あの……一条様が、私の膝に……?」

「ああ。少し静かに眠りたい。君の匂い、なんだかすごく落ち着くんだ。……逃げるなよ」

そう言うと、彼は有無を言わさぬまま、私の膝の上に頭を乗せた。ふわっと、彼の髪から洗練されたシャンプーの香りがした。

銀髪がサラサラと私の太ももを撫で、彼の温かい吐息が直接肌に触れた。驚くほど端正な横顔。長い睫毛。 

学園の王子様が、私の膝で無防備に目を閉じている。
うそ、なにこれ……。まるで大型犬みたいだ。

冷徹な王子様の、まさかの「弱み」を目の当たりにして、私は全身が石になったように固まった。

(これじゃ、動けない……っ)

心臓の音が、やたらと大きく聞こえる。
私の仮の婚約者ライフは、逃げられない甘い地獄の予感と共に、幕を開けたのだった。
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