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【第二章】蓮牙山同盟

【第二十七話】カシュカ対ガンテス

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 斬撃と打撃が、凄まじい勢いで入り乱れていた。


 しばらくすると、ガンテスの方が先に息を切らした。


 それでも、彼は必死で打撃をし続ける。


「くどいぞ」


 カシュカがそう言いながらガンテスの打撃を剣で弾く。


 カンッ。


 拍子抜けた音が辺りに響いたと思うと、ガンテスの鉄の棒が半分に折れていた。


 ガンテスと部下達が、驚愕している。


「勝負あったな。去れ」


 カシュカは冷たく言い放った。


「まだだ、俺は生きている。どちらかが死ぬまで、闘うんだよ」


 そう言うと、ガンテスは折れた鉄棒を放り投げ、馬の鞍に縛り付けてあった槍を持って戻ってきた。


 ガンテスは、死ぬまで闘い続けるつもりのようだった。


「馬鹿な。山賊のくせに、部下のために命を捨てるというのか」


 ガンテスの覚悟に、カシュカも驚いている。


「いくぞ」


 再び、立合いが始まった。


 ガンテスの構えは、鉄棒の時とは違っている。


 鉄棒の扱いは相当のものだったが、槍も腕前は相当だった。


 カシュカの表情にも、余裕は消えている。


 あまりに素早く、そして力強い。


 ガンテスが槍を突くと、風を斬る音がここまで聞こえる程である。


 ほんの僅かな隙をつき、カシュカがガンテスの槍を弾いた。


 それを視認した時には、カシュカの剣はガンテスの喉元に突き付けられていた。


「殺せ」


 ガンテスが、震える声で言った。


 ガラン。


 槍が、地面に堕ちた。
 それが、ガンテスが諦めた合図のようだった。


 俺から見たら、二人の力量は同じだった。


 カシュカが隙を突けたのは、運のようなものだろう。


「殺さない」


「どうしてだ。あと数センチ、その剣を前に出すだけだ」


 カシュカは、複雑な表情をしていた。


 山賊に恨みはある。
 しかし、ガンテスが完全な悪人には見えないのだろう。


 馬に乗っている七人の部下達は、動揺している。


「カイト、ガンテスを縛るんだ。村に連れていく」


 言われた通りに縄を持って駆け寄ると、突然山賊達が馬を走らせてきた。


「頭領が捕まるのを、黙っては見てられん。失礼は承知の上で、頭領を返してもらうぞ」


 先頭を駆ける山賊が大声でそう言い、剣を抜き放った。


 俺は縄をカシュカに手渡し、ゆっくりと山賊の方に剣を向けた。


「相手は七騎だ」


「はい、でも勝てる。多分」


 カシュカとガンテスの立合いを見て、俺も暴れたいという思いが湧き上がっていたのだ。


 相手は馬に乗っていて、しかも七騎もいたが、統率は取れていない。
 怒りと焦りに任せて、飛び出してきただけのようだ。


 馬上から振り下ろされる剣を、少し身体を動かすだけでかわした。


 二騎が左右を挟むように駆けてくるが、片方の斬撃をかわし、もう片方の剣を剣で払った。








 敵の動きが、止まっているようにも感じた。
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