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【第二章】蓮牙山同盟

【第三十一話】もう一人の頭領

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 結局、ガンテスの処遇は決まらず、蓮牙山の出方を待つという事になった。


 ガンテスは自分を殺せと暴れたが、拘束したまま馬小屋に閉じ込めてある。
 自警団が交代で見張りをしているので、逃げ出す心配はないだろう。


 それ以来、カシュカはあまり屋敷の自室から出てこなくなった。


 山賊への恨みは消えた訳ではないだろう。


 しかし、ガンテスを見て、何かが変わろうとしている。


 対して俺は、ガンテスは悪い人間だとは思っていなかった。


 かつて山賊として悪さをしていたとは言え、今は心を入れ替えているのだ。


 過去の罪は消えないにしろ、彼には何か大きな事を成し遂げられる気がする。


◆◆◆◆◆


 四日後、見回りに出ていた自警団の一人が馬で駆けて戻ってきた。


 蓮牙山の一党と思われる集団が、村に近付いていると言う。


 その報告を聞くや否や、カシュカは着の身着のまま剣だけを持って馬に跳び乗った。


 俺も後を追うべく、馬に乗った。


 街道を数キロ駆けた所で、二十人程の集団を見付けた。


「止まれ」


 カシュカが、馬上から叫んだ。


「蓮牙山の山賊共か」


 先頭の何人かが武器を構えたが、それらをなだめて一人が前に出てきた。


 細身で、鍛えているようには見えない。


 よく見たら、剣ひと振りすら持っていなかった。


「蓮牙山の頭領のひとり、ゼフナクトだ」


「お前が、ガンテスと並ぶ頭領だな」


 ガンテスの名前を出すと、ゼフナクトの表情が少し動いた。


「初めに言っておく。俺たちは、セトラ村を襲撃しに来たのではない。ガンテスは、ガンテスは生きているのか」


「処断したと言ったら」


 カシュカが、冷たい視線を送りながら言った。


「それが本当なら、俺も殺してくれ」


 カシュカは面食らったように、馬上でたじろいだ。


「なぜ、お前を殺さなければならない」


「ガンテスは、俺の義兄弟なのだ。契りを交わした時、死ぬ時も一緒だと誓い合った。だから、殺してくれ」


「わざわざ殺される為に、やって来たというのか」


「そうだ。俺だけでは、蓮牙山の部下達をまとめられない。ガンテスと俺が揃って、初めて一人の人間として生きていけるのだ」


 俺やカシュカが思っている以上に、二人の絆は強いのかもしれない。


「教えてくれ。蓮牙山の山賊は、頭領が変わってから村や商人を襲わなくなったと聞いた。そのせいで冬の食糧が足りないのだと、ガンテスから聞いている。なぜ、飢えてもなお、村を襲おうとしない」


 ゼフナクトは、馬上のカシュカを見上げながら言った。








「腐敗しきった王国を、正したい。それだけなのだ。王国政府や軍隊は腐敗し、悪政を敷いている。それで苦しんでいる民から物や命を奪うなど、してはならないのだ」
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