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【第三章】刺客戦編
【第三十三話】決着、そして
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冬だというのに、お互い汗をかいていた。
相手は、丸腰である。
それでも、しばらく決着は付かなかった。
運悪く、近くに兵が居ない。
もしかしたら、新任の牢役人の仕業かもしれなかった。
短剣を振っては、避けられる。
僕が短剣を奪う前と立場が逆になっただけで、拮抗していた。
「僕は、殺されるような事はしていない」
「そんなもの、俺には関係ない。殺せと命令されたから、殺すのだ」
「誰に」
「教えると思うか」
呼吸を整え、踏み込む。
ほとんど偶然に、短剣が刺客の左腕を斬った。
痛みに顔を歪ませたのを目の端で捉え、咄嗟に次の一撃に繋げた。
短剣の斬れ味は良く、手応えは感じなかったが、相手の左手首から先は無くなっていた。
かなりの血が地面に流れている。
「勝負はついた」
悲痛な顔を浮かべる相手だったが、殺気は消えていなかった。
「まだだ、俺が生きているぞ」
「闘えなくなった相手を殺すことは出来ない」
僕は、自分の身を守るために闘ったのだ。
「そんなもの、この世の中では通用しない」
「いいから、早く治療を受けないと」
「無念」
相手はそう呟くと、さっき僕が捨てたピッチフォークに飛び付き、それを自分の喉に突き刺して死んだ。
あっという間で、僕は唖然とする。
もう、ピクリとも動かず、ただ血が流れ続けるだけだった。
情報を漏らさない為に、自害したというのか。
そうも簡単に、出来ることなのか。
僕の身体はしばらく、その場から動けなかった。
「ユキト殿!」
「大丈夫か」
声がして振り向くと、ヘルベルトとザイフェルトが駆け付けて来てくれた。
「ただならぬ殺気を感じて、刑務労働を抜けて来たのです。監視の目を盗んできたので、遅くなってしまいました」
ヘルベルトは、動かなくなった刺客の方に目をやった。
「お怪我は」
「無いよ」
「こ、これを、ユキトが」
「いいや、負傷して勝ち目が無いと見ると、すぐさま自害したんだ」
血が、広い範囲を染めていた。
ヘルベルトが死体に近付き、相手の顔を確認する。
「ユキト殿」
「うん」
「私が見た顔と、違います」
「え」
耳を疑ったその時。
「・・・ちっ、しくじったか」
背後。
無防備に振り向くと、すぐ後ろに男が立っていた。
「ユキト殿、あいつです!」
ヘルベルトがそう言うと同時に、飛び跳ねて距離をとる。
殺気どころか、人が居る気配すらしなかった。
「ユキト殿、私が」
ヘルベルトが、間に立ち塞がった。
僕は、まだ体力が元に戻っていない。
ザイフェルトが、馬小屋の様子見から出てきた。
「な、なんなんだ」
相手は僕ら三人に目を配ると、静かに言った。
「計画変更だ。三人とも、ここで殺す」
相手は、丸腰である。
それでも、しばらく決着は付かなかった。
運悪く、近くに兵が居ない。
もしかしたら、新任の牢役人の仕業かもしれなかった。
短剣を振っては、避けられる。
僕が短剣を奪う前と立場が逆になっただけで、拮抗していた。
「僕は、殺されるような事はしていない」
「そんなもの、俺には関係ない。殺せと命令されたから、殺すのだ」
「誰に」
「教えると思うか」
呼吸を整え、踏み込む。
ほとんど偶然に、短剣が刺客の左腕を斬った。
痛みに顔を歪ませたのを目の端で捉え、咄嗟に次の一撃に繋げた。
短剣の斬れ味は良く、手応えは感じなかったが、相手の左手首から先は無くなっていた。
かなりの血が地面に流れている。
「勝負はついた」
悲痛な顔を浮かべる相手だったが、殺気は消えていなかった。
「まだだ、俺が生きているぞ」
「闘えなくなった相手を殺すことは出来ない」
僕は、自分の身を守るために闘ったのだ。
「そんなもの、この世の中では通用しない」
「いいから、早く治療を受けないと」
「無念」
相手はそう呟くと、さっき僕が捨てたピッチフォークに飛び付き、それを自分の喉に突き刺して死んだ。
あっという間で、僕は唖然とする。
もう、ピクリとも動かず、ただ血が流れ続けるだけだった。
情報を漏らさない為に、自害したというのか。
そうも簡単に、出来ることなのか。
僕の身体はしばらく、その場から動けなかった。
「ユキト殿!」
「大丈夫か」
声がして振り向くと、ヘルベルトとザイフェルトが駆け付けて来てくれた。
「ただならぬ殺気を感じて、刑務労働を抜けて来たのです。監視の目を盗んできたので、遅くなってしまいました」
ヘルベルトは、動かなくなった刺客の方に目をやった。
「お怪我は」
「無いよ」
「こ、これを、ユキトが」
「いいや、負傷して勝ち目が無いと見ると、すぐさま自害したんだ」
血が、広い範囲を染めていた。
ヘルベルトが死体に近付き、相手の顔を確認する。
「ユキト殿」
「うん」
「私が見た顔と、違います」
「え」
耳を疑ったその時。
「・・・ちっ、しくじったか」
背後。
無防備に振り向くと、すぐ後ろに男が立っていた。
「ユキト殿、あいつです!」
ヘルベルトがそう言うと同時に、飛び跳ねて距離をとる。
殺気どころか、人が居る気配すらしなかった。
「ユキト殿、私が」
ヘルベルトが、間に立ち塞がった。
僕は、まだ体力が元に戻っていない。
ザイフェルトが、馬小屋の様子見から出てきた。
「な、なんなんだ」
相手は僕ら三人に目を配ると、静かに言った。
「計画変更だ。三人とも、ここで殺す」
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