茨の王子は嫌われ魔法使いの夢を見るか

渡辺 佐倉

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嫌われ者の魔法使い2

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「あなたなら、可能じゃないの?」
 近くにいた紅玉と呼ばれる魔法使いが、夜露に聞く。
 そんな沢山の人を殺そうと思ったことは、夜露には無かった。
 それに夜露はよく知らない隣国の人々を、殺したいとは思わなかった。
 隣国に恨みもないし、この国に大きな恩も感じてはいない。
 そんな夜露に、隣国の人を戦争で効率よく倒す方法を考えることは難しい。
 それに、紅玉の言うほど夜露はすごい魔法使いではない。
 他の魔法使いと一緒で、対価をもらって魔法を使うだけだ。
 あなたなら、と言われるほど夜露は頭もよくないし力も強くはない。

 だから最初に思い浮かんだのは……。
 いっそ、自分の様に一人で遠くに暮らしていればだった。
 夜露はそう考えていた次の瞬間、あるアイデアが思い浮かんだ。
「王様、本当に戦争以外の道はないのでしょうか?」
 夜露が恐る恐る聞く。
「隣国は、剣を大量に購入し、戦士の育成も半ば完了しているという。
それに兵站にするのであろう食料がどんどんと運ばれていると聞く」
 馬の調達も済み、英気を養っているという。
 隣国の魔法使いも集められ、部隊編成がなされたと報告されている。
 もう戦争が始まるのは、時間の問題なのだ。
 王様は悲しそうに言う。
「それであれば――」
 戦争が本当に避けられぬ道であるのなら。
 夜露は浮かんだアイデアを王様に伝えた。

 彼のアイデアは、この国の国境付近のすべてに道に迷う魔法をかけることだった。
 どんなに沢山の兵士も、どんなに屈強な戦士も、相手の国にたどり着けなくては戦うことができない。
 迷いの魔法はとけるまでに長い年月を要するけれど、魔法のかけられたふだを持っていればそこを抜けることができる。
 少々の不便は戦争よりはマシに思えた。
 大きな災害を起こす魔法と違って、そういう妖精のいたずらじみた魔法は魔法使いにとって比較的簡単に使えるものだった。
 力の強い夜露であれば隣国との間にあるすべての国境に迷う魔法をかけることが可能だろう。
「やっぱり、あなたはすごいわね」
 そう隣で紅玉が囁く。
 けれど夜露は困ったように淡い笑みを浮かべるだけだ。
 きっと紅玉であっても同じ魔法は使えるだろう。

 その場に居た皆が、口々にどうすべきなのかを囁く。
 隣国と戦えるだけの蓄えも戦力もこの国には無かった。
「それは、お前にできることなのだな」
「対価をいただければ」
 王に問われ夜露は答えた。
 魔法には対価が必要だ。それがなければ魔法は魔法たり得なくなって呪いになってしまう。
 隣国にどれだけの魔法使いがいるかはわからないけれど、おそらく自分と同等の魔法使いでも迷子の魔法を解くのは難しいだろう。
 迷いの魔法はかけるよりも解除する方が難易度が高い。
「成功すれば、その対価は望むままに与えよう。
宝石か! 領地か!」
 チラリと王様は夜露をみて、「令嬢との結婚か!」という言葉を飲み込む。
 令嬢と結婚させるには夜露はみすぼらしいし、彼は貴族ではない。
 夜露は褒美に興味はなかった。ただ魔法には対価が必要なだけだった。
「それでは宝石を」
 魔法の対価を後払いする方法はいくつかある。
 対価は別に後でもかまわなかった。

「それでは、その力みせてみよ!」
 王様は大臣達と耳打ちを繰り返した後、そう言った。
 夜露の案を採用したらしい。
 大規模な魔法を発動させることも夜露にはできた。
 この世界にいる魔法使いの中でも、夜露はとても強い力があった。
 けれど、夜露はその事実にさほど興味がない。
 誰かと協力をして何かを成し遂げることない夜露にとって自分以外がどんな力を持っているのかは関係が無かった。
「それでは、必ず約束をお果たしください」
 夜露はそう言うと彼を中心として同心円状に魔法陣が浮かび上がった。
 他の魔法使いはその力のあまりの強大さに驚いて目を見開いた。
 自分たちの使う魔法と規模が違う。
 あまりにも繊細で且つ強度に編み込まれた魔法にあるものは唾を飲み込み、あるものはため息をついた。魔法使い達は誰もが劣等感と嫉妬心を感じてしまう、そんな魔法だった。
 それから数十秒後、魔法陣は輝きを失う。
「魔法はなされました」
 夜露は静かに王様に言った。
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