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10.わたし達の関係に未来はない

2.

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 失意のまま訪れたとある夜会で、わたしは幼馴染のセオドアと再会した。


「久しぶりだな、サロメ」


 名家の伯爵令息である彼は同い年。最後に会ったのはわたしの結婚式の時だったから、実に二年ぶりの再会だ。


「本当に久しぶりね。見違えてしまったわ」


 夫を亡くしたばかりのわたしにとって、彼はあまりにも眩しかった。
 華やかな夜会装束に身を包み、貴族達と微笑みを交わす。美しく、洗練された身のこなし。お荷物で、役立たず――――身の置き所を探しているわたしとは何もかもが違っている。

 ううん。
 本当はそれだけが理由じゃない。

 わたしはずっと、セオドアのことが好きだった。
 しっかり者で、快活で、温かくて。いつも優しい彼のことが、わたしは大好きだった。


「ご主人のことは残念だったね」

「ええ。本当に残念だわ」


 夫婦としての愛情、恋愛感情はなくとも、夫は本当に素晴らしい人だった。こんなわたしに良くしてくれて、どれだけ感謝してもし足りない。


「ところで、サロメはどうして夜会に?」

「それは…………婚活しなきゃなぁと思って」


 言えばセオドアは、僅かに目を丸くし息を呑んだ。


「婚活? どうして?」

「どうしてって……わたしの義母や妹の性格をセオドアは知ってるでしょう? 実家に帰ることはできないし、夫亡き後、身の置き所が無くて、それで」

「――――何か、子爵様の家を出ないといけない理由があるの?」

「いいえ。幾らでも居て良いって、そう遺言を残してくれているわ。だけど、それじゃ何だか申し訳ないでしょう? 他の誰かと結婚して、家を出た方が良いと思って」


 何が悲しくて、わたしは好きな人にこんな説明をしているのだろう? 恥ずかしくて、とても惨めな気分だ。
 気まずい沈黙。軽蔑、されてしまったのかもしれない。そう思うと、苦しくて堪らない。


「家まで送るよ」


 どれぐらい経っただろう。セオドアはそう言うと、わたしの手を引いた。

 馬車の中では、どちらも一言も喋らなかった。
 月明かりに照らされたセオドアの横顔があまりにも綺麗で愛しい。縋りつきたい――――けれど、そんなことはできないって分かっていた。

 未亡人のわたしを迎え入れてくれる人なんて一握り。相手にも離婚歴があるとか、訳ありだと相場が決まっている。
 輝かしい未来の待つセオドアと、謂わば既に終わっているわたし。絶対に、結ばれることは無い。


「おやすみなさい」


 さよならの代わりに、ありふれた挨拶を口にする。もう二度と、彼に会うことはないだろうと、そう思いながら。

 けれど、彼から返って来たのは言葉ではなかった。

 吐息ごと唇を塞がれ、心臓がドクンと大きく跳ねる。頬を、肩を、優しく撫でられ、息苦しさに目を瞑る。
 一瞬だけ交わった視線。時間が止まったかのような感覚。セオドアに身体を預け、激しい口付けに酔いしれる。

 この関係に未来が無いことは分かっている。わたし達の道は交わらない。
 だけど、それでも――――


「サロメ――――今夜は一緒に居たい」


 欲に塗れた囁き声。
 自分に嘘を吐くことなんて出来なかった。
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